雪原
申し訳ございません。話の流れを変えましたので読み直して頂くと幸いです。
あたり一面が銀世界の場所に、俺はいた。降っている雪は細かく、水晶の破片をばらまいているかのようにみえてとても美しい。しかし、その美しさとは打って変わって寒さは苛烈だ。吹雪と言われるべき降雪量は着実におれの体温を奪っていっている。雪は足の膝あたりまで積もっており、歩くのも困難な程だ。
スウェットしか着ていない今の服装ではいつか凍死するだろう。現に、足を確認すると濃い紫に変色している。部位によっては黒色で、それが斑状の点になっていて気持ちが悪い。手は足ほど酷くはないものの、それでも紫色になっている。
早く建物を見つけなくては、とは思うが舞っている雪のせいで一メートルより先は何も見えない。どこか人のいる場所に近づいているのか、あるいは死への道を歩くだけなのか……。しかも、命を狙っているのは雪だけではない。
狼の遠吠えが聞こえるのだ。心なしか近づいて来ている気がする。足を早めようとしても、凍りついた足はこれ以上の速度で動いてくれない。
いったい、なんでこんなことになったんだろうか。
目が覚めたら訳もわからずここにいた。記憶の欠落はないし、昨日も特に変わった事はなく眠りについた。もちろん、謎の組織に狙われてる事なんてないし、両親が俺を秘密裏に雪原に移動させるほど恨んでるなんて事もない。
俺は少しサボり癖のある、普通の高校生だったはずだ。
考える事を放棄して再び歩きはじめたが、見つかるのは細い木と動物の足跡くらいだ。時々、小さい赤い実をつけた木がみつかったのでそれはポケットの中に詰め込んだ。木の周辺には獣の足跡があったので、獣たちが食用にしてるのではないかと試しに一粒食べてみたが、甘みはなく酸っぱいだけだった。しばらく経っても体に異変は感じられなかったので、一応捨てる事はせずにポケットの中に入れてある。……もっとも、すでに身体が異変だらけなので確証はないのだが。
吹雪の中に影が浮かび上がる。また木だ。近づいていくと赤い実こそ無いものの、どうやら実をつけていた木と同じ種類の様だ。
そして、やっと見つけた。
人の足跡である。この木の実を捥いだのもこの人物に違いない。大きさは少し大きい気もするが、今までの獣の足跡とははっきり違う事がわかる。しかも、薄くなっていない。この近くにいる。
「……ぉぉぃ」
ずっと使われずに、寒さに固められてしまった喉は上手く働いてくれないが何回も声を出して柔らかくしていく。
「……おおおおいぃ!!」
歩きながら声を出す。体力的にもこれが最後のチャンスだろう。諦めず、懸命に出していると吹雪の中にまた影が浮かびあがった。さっきと違うのは今回の影は人型をしているという事だ。
助かる。これでやっと助かるんだ。安堵のあまり、涙が出そうになる。
「ぞうなんじでるんです!!だずけて下さい!!」
そして、歩をすすめると影がはっきりとした姿に変わる。
そこにいたのは人ではなかった。体長は俺と同じ170ほどで全体的に身体が太く、手足はまるで丸太の様だ。全身がびっしりと白い毛に覆われており、顔や手などの毛の薄い部分から見える肌は濃い茶色だ。目は赤く、こちらをギョロリと睨めつけている。
手に持った剣はお世辞にも綺麗とは言い難かったが、かえってそれが使用感を出していて恐怖を煽る。この寒い中、着ている服は革製に見えるチョッキとズボン。あまり文明的には見えないのに、それらはキチンとあつらえられていた。
もし、その存在に名をつけるとするなら雪男、と呼ぶのが正しいだろう。
相手の行動は迅速であった。剣を即座にこちらに向け、何事かを唱えると氷の塊が飛び出す。左横に跳ぼうとするも、足に力は入らず態勢を崩すだけに終わり、氷の塊は右腕にあたる。
あたった部分から氷の膜が広がり右肩から右手にかけてを包み込んだ。冷たさのナイフが右腕を突き刺す。思考が一瞬にして飛んでいった。
「ががあああぁぁぁああ!!」
彼我の距離を一瞬にして詰めてくる化け物。振り上げられる剣。
訳も分からずこんな所で死にたくない。夢中で身体を動かそうとするが圧倒的に相手の方が早かった。
無慈悲な剣の風圧が頭に感じられたその瞬間ーー
後ろから飛んできた一条の光が化け物を後ろに吹き飛ばした。
「オグラに襲われて逃げる事がままならないなら一人で雪原を歩くべきじゃないね」
ギュッギュッと、雪を踏みしめる音がする。俺の横にたったのはローブ姿の人物。
「だずけてぐれ……」
「バカいってんじゃないよ。助けを請うなら手をもがれ、足をもがれ、首だけであがいてからにしなな
いや、それってすでに死んでますよね……?
そんな思いを口に出す前に、俺の意識は舞う雪の中に散っていった。