悲壮感ワンダーランド
教室は今日もうるさかった。バカでかい女子の甲高い声、そしてふざけあう男子の会話…。
そんなつまらなすぎるこの世界に飽き飽きして彼は自殺を図った。勿論死ねるわけなく今日もこうして毎日を漂うように生きていた。無論何一つ楽しいことはなかった。
彼は何かに打ち込めるような性格ではなかった。
そう思うと、彼は酷く寂しい生活を送っているのだと、そう思える。彼は冷めた性格だった。それ故にクラスメイトに話かけられても、大概は無視する。俗に言う『酷いやつ』だ。
そんな彼はいつも一人淡々とツイッターのタイムラインをただただ見つめていた。流れていくタイムラインを何も思わずに眺めていた。
そうしているうちに無色な時間は過ぎ、放課後が訪れる。彼は部活に入っていない。彼の興味は何にも向いていなかった。
そして、彼は、一人の女子生徒とすれ違うのだ。ただ何もなかった空白の空間に少しずつ、色を付けてくれた彼女に…。そして彼はなぜだか、笑顔で彼女に声をかけた。
「こんにちは。」
彼女は、彼を疑うように見て言った。
「……こんにちは。」と。
彼女はただ一人教師の信憑性に欠ける話を聞き流しながら、窓の外を眺めていた。窓の外は快晴である。彼女はこの世界に存在している『人間』と言う生き物に対しての信用は何一つ無かった。国家を動かす政治家も、知ったかぶって教える教師も、自分を締め付ける親も、そして……自分も信用していない。誰一人信用してはいまいと、彼女は心に堅く決めていた。
何故彼女は人を信用しないのか……。その理由は彼女の幼少期にあった。彼女は親に自分の親から大好きだった叔母の話を聞き、会いに行きたいと親に頼んだ。しかし親は彼女を叔母の家に連れて行こうとはしなかった。叔母は数年前に癌で亡くなっていたのだ。彼女がそれを知ったのはつい数年前だった。
それ以来、彼女は人を信じれなくなった。
それから彼女はただ意味のない日々を過ごし、鉄の仮面で友達と接した。誰かに自分の素顔を見られないために…。
そうして今日も放課後がやってきた。
彼女は誰かに会わない様に早足で帰っていた。流石に一日中ポーカーフェイスでいると疲れるのだ。
そんな時、笑顔で彼に話しかけられた。
「こんにちは。」
その時、彼女は一生の不覚を犯した。ポーカーフェイスではなく、素で彼を見てしまったのだ。その時の顔は多分睨んでいただろう。
彼女は隠す様にためて返した。
「……こんにちは」
彼は気付かなかったのか、それとも彼女に対しての配慮なのか分からないが、依然として笑顔を崩さず、続けた。
「僕は白井翔太。君は?」
「……実川五月です…。」
そうして時は進み出した。色々と問題を抱えた4人の男女の運命もまた、動き出していた。