逃亡開始
「ん…」
瞼の向こうから感じる明かりに私は目を覚ます。
昨日はあれから他愛のない話をするでもなく寝てしまったのだ。やはり緊張よりも疲れが大きかったのだろう。とは言ってもやはり慣れない場所での睡眠は私の疲れを完全に取ることはできなかったようだ。
「あ、透華。起きた?」
私が動く気配を感じたのか、空さんが声をかけてくれる。
というか、大分早起きなんだな…。
「うん。今起きた。空さんって、朝早いのね。」
「んー?まあねー。この家、あたししかいないし」
「え?」
兄弟姉妹が居ないのは…まあ家族構成を知っているわけではないから何とも言えないけれど、この言い方は…
「それよりもさ、シャワー。浴びてきちゃったら?お湯も入ってるから、好きに湯船に浸かっていただいちゃっていいし」
そんな疑問がふと頭の中をよぎったけれど、ちゃんと話をするようになって(正確には助けてもらってそのまま面倒を見てもらっているのだけれど)一日なのだ。踏み込むにもデリケートな話題だろうし…
「う、うん。じゃあ、お言葉に甘えて…」
シャワーを借り、お湯をかぶる。気持ちのいい温度のお湯は私の緊張を溶かしてくれるようで…
「透華~どう~?」
曇りガラスの向こうから空さんの声が聞こえる
「丁度いい湯加減だよ。」
「そっかー。よかったぁ。あたし熱いお風呂大好きだからさ、いつもの感覚で入れちゃったんだけど問題なかったみたいだね」
へぇ…空さんって、熱いお湯が好きなんだ
「そうなの?ちなみに何度でお湯沸かしてくれたの?」
「ん?46度」
「よ…」
物凄く高い。私がいつも丁度いいと感じる温度が41度で入れた時だから…
「そ…そうなんだ」
「うん。いつもお客さんをうちに招いたときは意識して40度くらいでお湯加減聞くんだけど、今日はちょっと昨日の疲れが残ってたみたいでさーちょっと心配しちゃった。でも透華があたしと同じ熱いお風呂が好きな子で良かったよ」
最初は確かにちょっと熱いなとは思ったけど…まさか
「じゃ、お湯加減大丈夫なら問題ないかな。シャンプーやボディーソープとかも自由に使っちゃっていいから、ゆっくりしてね」
そういって外の影が遠のく。透華は湯船に浸かりながら様々な疑問に思いを馳せる。
虚構世界のこと、そのシステム。襲ってきた人。この世界のことを教えてくれた空という委員長の存在。そして、何よりも私のこの世界における能力について…
「空さんは、空中浮遊…っていうか…飛翔?で、私を襲った人の能力は空さんがいうには暴走。暴走…力の暴走…。で、私の能力は…?」
空さんや昨日の人(私は基本的に人の名前を覚えるのが苦手だ)のように分かり易い能力…ではないのではないか?
そのことを告げると、空さんは整った顔をしかめて考える。仕草一つとっても絵になるなあ。
「うーん…あたしは…というかこれは虚構世界を持っている人全員だと思うのだけれど、感じ方に個人差はあれど『この人は虚構世界を持ってるぞー!』って感覚で分かる程度でどういう能力かっていうのまではちょっと分からないんだよね。」
ごめんねっと手を合わせて謝る空さん
「あ、いえ、そんな気にしないでください!もしもわかるなら便利だなあって思っただけで!」
なんというか、謝られることに慣れていない私である。
…どう見ても平謝りなんだけどね
「…あれ?でも、昨日の人の能力のことを空さんは知ってたのは何故?」
ん?あれ?と聞き返しながら語り始める空さん
「あれは馬鹿なだけだよ。自分の能力に絶対的な自信を持っているから周りに自分から言いふらしてるの。そんなことしたら『はい、対策してください~』って言ってるようなもんなのにね。でも今まで生き残っている…しかもそこそこに名が通っているという事は」
「その自信は伊達ではないって事…?」
「ま、そうなるかな」
考えたくないけどねーっと空さんはそう付け足す。
「っとと、そろそろ出ないと不味いかな…」
「え?」
「透華の能力がはっきり分からない以上戦うのは悪手!だったらどうする?」
「に、逃げる?」
結構ほのぼのしていたので忘れていたが、一応私たちは追われている立場なのだ。
「ご明察!っていうか今まで襲われなかったのは奇跡!」
そう叫びながら空さんは私の手を取り、いきなり空を翔ける。
「そ、空さん!?が、学校!学校は!?!?」
「そんなところに行ってたら皆を巻き込んであたし達はやられちゃって悪いこと尽くめだよ~!一段落するまで学校はサボります!」
こうして、私の密かに続いていた皆勤賞は無くなったのでした。
遅くなり申し訳ないです。というか執筆速度遅すぎて愛想尽かして継続的に見てる人なんて居ないとは思いますが、自己満足で投稿です。