皇太子の俺は今日も元魔王な聖女様の婚約者に振り回される
魔王城を明日に控えた前夜、俺――帝国皇太子ラインハルトは、野営地の焚き火を挟んでとんでもない爆弾発言を聞かされることになった。
「ラインハルト様、聞いてください! 実は私、生まれ変わる前は魔王だったのです! 聖女の奇蹟を覚えるために人間に転生したんですよ!」
雲一つない青空に輝く太陽を彷彿とさせる眩い満面の笑みでそう言い放ったのは、我が婚約者にして勇者パーティーの聖女――ソレイユだった。
俺は呆気にとられ、口に運ぼうと手にしていた携帯食を落としそうになった。
「……もう一度言ってくれ。今、なんと?」
「ですから、私、元・魔王なんです。何代前だったかは分かりません! 当時は魔法を極めるだけ極めて、勇者様と聖女様に討伐されまして。その時に見た聖女の奇蹟があまりに眩しくて、今度は自分がそっち側になりたいなと思って、禁断の転生魔法を使って人間の女の子に生まれ変わったんです!」
あっけらかんと語る婚約者を前に、俺は思わず頭を抱えてしまう。皇太子らしくないとは言わせない。コレを聞いたら誰だってそうする。そうしない奴の顔を俺は拝んでみたいものだ。
焚き火の向こうでは、魔法使いのフィン・レイクウッドが「なるほど、興味深い転生理論ですね」と真顔で頷き、勇者エレイン・ソーンウッドが「はぁ!? いやいやいや、それ今言うこと!? 明日魔王城で決戦なんですけど!?」と悲鳴を上げている。
まったくもってエレインの言う通りだ。よりにもよって、決戦前夜にそんな話をするやつがあるか。しかし、これまでのソレイユを振り返るとこんな突拍子もないことをする女性だったなぁ、と納得してしまう自分が悔しい。
「……ソレイユ。お前という奴は、本当に肝心なところで俺たちの度肝を抜くのが得意だな」
呆れ半分、しかし驚愕はそれ以上で、俺はどうにか声を絞り出した。どうには平静を装ったのはソレイユが俺の反応を窺っているのが丸分かりだからだ。「な、何だってー!?」と大声を上げてほしいんだろ、どうせ。
だが、不思議なことに怒りは別段湧いてこない。この一年間、この破天荒な聖女に振り回され続けてきたせいで、俺の驚愕センサーはすっかり麻痺してしまったのかもしれない。
「怒らないんですか、ラインハルト様? こんな突拍子も無い告白をしちゃって」
ソレイユが小首を傾げる。焚き火に照らされたその顔は、出会った時から変わらず眩しいくらいに愛らしい。だがその中身は、まさかの元・魔王だったというのだから、世界というのはつくづく分からないものだ。
「怒る前に、まず状況を整理させてくれ。……いや、正直に言えば、驚きすぎて怒る余裕がない」
俺はため息をつきながら焚き火のそばに座り直した。そして動揺をごまかすように折った木の枝を焚き木に放り込んだ。
フィンが興味津々といった様子で身を乗り出す。
「聖女様。それはつまり、我々がこれから討伐に向かう魔王とは、いわば……先輩後輩の関係、ということでしょうか?」
「フィンさん、いい質問ですね! まさにその通りです。今の魔王さんは私の後輩ですし、大先輩なんですよ!」
後輩だが大先輩? 意味不明だ。
魔王として後輩なのは分かったが、何に対しての大先輩だ?
それはこの後すぐに分かった。
「それでは、期待薄ですが念のためにお聞きします。今代の魔王に人類圏より魔物を撤収するよう、聖女様から説得することは可能ですか?」
「うーん、無理です! だって今の魔王さんは、私が魔王だった時代の聖女様ですし。人に対して恨み骨髄ですから!」
「は?」
俺とエレインの声が綺麗に重なった。
ただでさえソレイユが魔王ってだけでお腹いっぱいなのに、今の魔王がかつての聖女だったと聞かされれば、情報量で頭が破裂しそうになったっておかしくないだろう。
「詳しい話は、また今度ゆっくりお話ししますね! なにぶん長い話なので! とりあえず今夜は、明日の決戦に備えてゆっくり休みましょう!」
「いやいやいや! 明日魔王との決戦なのに、魔王の正体を搔い摘んで暴露してそのままにするな!」
「大丈夫です、ラインハルト様。私、ちゃんと聖女として奇蹟の修行、真面目にやってきましたから! 聖女の務めは果たしますよ」
「その〝真面目な修行〟とやらで、俺たちが何度肝を冷やしたと思っている」
俺がそう言うと、エレインとフィンが同時に遠い目をした。どうやらあの強烈な体験は二人の脳にも鮮明に記録されているという顔だ。
思えば、この一年間は騒動の連続だった。
帝国内にありふれた田舎村の娘に過ぎなかったソレイユが聖女としての適性が認められ、聖女候補者として教会で修業を積むようになった頃、俺は彼女と出会った。あまりの破天荒さに呆れ果てたものだったが、陰謀渦巻く社交界や裏表激しい貴族令嬢との付き合いに疲れていた俺にとって、彼女の純粋さはまさに雨の晴れた後に浴びる日差しのように温かかった。
聖女としてのソレイユは優秀だった。優秀、と表現すれば聞こえは良いが、同時に書物に書かれる歴代の聖女のような、民衆が畏れ敬うほどの大いなる奇蹟を体現する存在からは遠かった。けれど様々な聖女の奇蹟をそつなくこなす彼女こそ、魔王が出現した有事の聖女に相応しい、と聖女に抜擢された。そんな経緯がある。
聖女ソレイユは癒しの奇蹟、解毒の奇蹟、解呪の奇蹟と、旅を進めていくうちに次々に新しい奇蹟を会得していったのだが、その習得方法がことごとく型破りだった。一応記録しているが、これを教会に提出していいかは未だに悩んでいるところだ。
例えば、癒しの奇蹟を極めようとした時のことだ。
「実践あるのみです! 私、崖から落ちますね!」
そう言うが早いか、本当に崖から飛び降りようとしたソレイユを俺は間一髪で羽交い締めにして止めた。
「待て待て待て! なんで自分が怪我をする前提でなんだ!? 怪我人や病人を癒して経験を積めばいいではないか!」
「だって、大怪我した人を癒す機会なんてそうそうないじゃないですか! だったらその時に備えて自分の身体で試すしかありません!」
「その理屈はおかしいだろう! もっと自分を大事にしろ、この馬鹿!」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんですー!」
結局その時は近くの村で怪我人を探して回るという、至極真っ当な方法に落ち着いた。落ち着いたんだが……その村でたまたま暴れ牛に追いかけられた聖女自身が骨折し、彼女は「はからずも実践できました!」と満面の笑みで自分の折れた腕を癒したのは絶対に忘れないからな。満足そうな顔をしていたのが、余計に腹立たしかったのを覚えている。
解毒の奇蹟の時も酷かった。
「これは毒キノコですね! 図鑑で見ました! よし、じゃあいざ実食です!」
「なにがいざ実食だ! 今すぐ捨てろ!」
「大丈夫です! このキノコは命に別状はないやつですから!」
「ほう、ではどんな症状が出る、と図鑑には書いてあった?」
「身体が痺れて呼吸困難になります! あーん」
「だから止めろぉ!」
そう豪語した聖女は、見事に毒キノコの見分けを誤り、三日三晩高熱にうなされることになった。看病する俺の腕の中で彼女は「これで解毒の奇蹟、きっと会得できます……」と譫言のように呟いていて、俺は本気で泣きそうになった。
解呪の奇蹟に至っては、なんと魔物の巣の宝箱内にあった呪われた腕輪を自分から装備するという暴挙に出た。無事に解呪出来たから良かったものを、下手をすればエレインが彼女の腕を切り落とさなきゃいけなかった。当然、後でエレインにこっぴどく叱られていた。
「聖女様の馬鹿はどこ行ったの!?」
「フィンと一緒に町に買い出しに出かけたな」
というエレインの怒声は、今思い出しても笑ってしまう。
――そう。いつだって、聖女の奇想天外な思いつきは、途中まではなぜか上手くいく。そして聖女の想定外の騒動が発生して、周囲を巻き込みながら勢いだけでどうにか解決させていく。最後には決まって聖女自身が痛い目を見て幕を閉じるオチ付きではあったが。
その度に俺は胃がキリキリ痛む思いをしながら彼女を看病し、叱り、そして……どうしようもなく、自由で純粋な彼女に惹かれていった。
こんなハチャメチャな女に心奪われるなんて俺一生の不覚だ。だがな、それだけソレイユは強烈だったし、これだけ真っすぐでひたむきな情熱を今まで見たこともなかった。そんな全力で駆けていく姿に俺は憧れたんだ。
無茶ばかりする婚約者に俺は何度も雷を落とした。でも度が過ぎた時にきちんと叱れば、彼女は存外素直に「はい、次から気をつけます!」と反省してくれる。そのくせ次の機会にはまた新しい無茶を思いつくのだから、始末に負えない。
それでも、と、焚き火に照らされたソレイユの横顔を見ながら、俺は思う。
彼女が笑うたび、疲れ果てた村人たちの表情が明るくなった。
彼女が奇蹟を使うたび、絶望していた子供が希望を取り戻した。
彼女の発する「もう大丈夫ですよ!」の一言に、どれほどの人が救われたか。
その眩しさに、俺は出会った瞬間から目を奪われていた。
一目惚れだったと、今なら素直に認められる。
だが、その正体が元・魔王だったとはなぁ。流石に予想してなかったぞ。
でも、まあ、妙に納得している自分がいるのが何だか不思議だ。
「……なあソレイユ。一つだけ聞かせてくれ。そんな無茶な修行を重ねてまで聖女の奇蹟を極めようとしている理由は、いったい何なんだ? 本当に奇蹟の体現だけか?」
俺の問いに、ソレイユは一瞬だけ、いつもの元気な表情を消した。焚き火の炎に照らされたその横顔に、俺が今まで見たことのない翳りが差す。
「会得したいのは本当ですが、もう一つだけ成し遂げたい願いがあります。それは……」
彼女はそこで言葉を切り、少し困ったように微笑んだ。
「今夜はやめておきますね。ちゃんと、ラインハルト様には全部お話しします。でも今は……明日、魔王城に乗り込む前に、しっかり休んでほしいので」
その笑顔の裏に、俺は何か重たい理由が隠れているのを感じ取り、これ以上の追及は止めておくことにした。エレインとフィンも、いつもの騒がしさを潜めて静かにソレイユを見つめている。
翌朝には、いよいよ魔王城への突入が始まる。俺たちがこれから相対する魔王の正体、そしてソレイユが背負っている過去。その全てが、決戦を前にして少しずつ明らかになっていくのだろう。
焚き火の炎を見つめながら、俺は密かに心に誓った。彼女がどんな過去を背負っていようと俺の想いは変わらない。むしろ、これから語られるであろう彼女の足跡、そして思いを、俺はしっかりと受け止めようと。
「分かった。今夜は休もう。だが、これだけは言わせてくれ」
俺はソレイユの手をそっと取った。
ソレイユは目を見開いて俺が包んだ自分の手を見つめ、やがて顔を崩す。
「ソレイユがどんな過去を持っていようと、俺の隣にいるのはソレイユだ。それだけは、絶対に変わらない」
ソレイユは野花が咲くようにほのかに笑った。
「……ありがとうございます、ラインハルト様」
夜空に瞬く星々の下、俺たちは静かに、それでいて確かな決意を胸に、明日の決戦へと備えるのだった。
◆◆◆
魔王城への突入を控えた翌朝、最終準備をしている最中だった。
「それじゃあ告白しますね。かつて魔王だった私がどうして聖女になりたかったか、を」
そう切り出したソレイユは普段の快活さが鳴りを潜め、どこか覚悟を決めたようだった。彼女らしくない、本気を感じ取った。
俺たちは顔を見合わせ、そして頷いた。焚き火の始末やテントの撤去等で手は動かし続けるが、これから語られるソレイユの告白に俺達は耳を傾け、彼女の言葉を待った。
「では――順番にお話ししますね。きっかけは、そうですね……魔王の頃でしたか」
ソレイユは静かに語り始めた。
魔王だった頃の彼女はあらゆる魔法を極めていた。大地を裂き、海を割り、空を闇で覆いつくす。地震、雷、火事、嵐といった天変地異すら魔王にとっては児戯に等しかった。新たな魔物を誕生させることも造作も無く、正に万能だったのだ。
「その頃の私は正直に言うと、人間はおろか世界なんてどうでもよかったんです。ただひたすら、魔法という理を極めることだけが目的でした。人間を滅ぼそうだなんて考えてもいませんでした。ただ、私の魔力に影響された魔物や魔族たちが人間を襲うのを、止めていなかっただけで」
魔王としての彼女は率先して動かなかった。しかし、ひとたび研究を邪魔されれば塵一つ残さず消滅させられた。魔王の怒りに触れて地図上から消え去った国は数えきれない。山となり埋もれ、海となって沈み、瘴気が覆う死の大地と化していった。
そんな魔王のもとに、当時の勇者と聖女がやってきた。
「勇者様の聖剣も強かったですけど、それ以上に驚いたのが、聖女様の奇蹟でした」
そう語るソレイユは興奮し、その目をいつになく輝かせていた。
「私が今まで極めてきた魔法は、全て理屈があって、原理があって、学べば必ず届く場所にあるものでした。でも聖女様の奇蹟は違ったんです。原理も理屈も何もない。祈りと想いだけで死にゆく命を繋ぎ止める。壊れた大地を癒す。……あれは、魔法とはまったく別の、もっと輝いたものでした」
決戦は長く続き、勇者一行が勇者と聖女のために次々と魔王の魔法によって散っていった。それでも勇者と聖女は涙をぬぐい、諦めずに勇気を振り絞った。最後に聖女が聖なる光を発し、目を奪われた魔王に勇者の聖剣が振り下ろされた。
討伐され、命が尽きる瞬間。彼女は自分を討った聖女が涙を流しながら、自分の亡骸に向かって祈りを捧げるのを見たという。それは魔王が今までに見たことも感じたこともないほど、尊い姿だった。
「恨まれて当然の魔王だった私に、あの聖女様は涙を流して祈ってくれたんです。……ああ、これが人の慈愛なんだって、その時にようやく理解しました。魔法よりもずっと心にしみわたる、神が与えた素敵な概念なんだって」
だからこそ、今度生まれ変わるなら次は聖女になりたい。あの温かくて優しい奇蹟を、今度は自分の手で体現したい。そう願って、転生の魔法に己の全てを賭けたのだと、ソレイユは過去語りを締めくくった。
なお、余談だが魔王と人間との間では多くの生き物を経由した、と彼女は後ほど面白おかしく語ってくれた。虫だったり魚だったり大樹だったりと、人間として生まれ変わるまで数世代かかったのはそのせいだとか何とか。
「今世で聖女に選ばれた時は、本当に嬉しかったんです。だから色々無茶もしちゃいましたけど……ラインハルト様、いつも付き合ってくれてありがとうございます」
「……いや、無茶の内容についてはまだ言いたいことが山ほどあるが」
俺がそう言うと、ソレイユは朗らかに笑った。
その笑顔に、俺が口から出そうとしていた小言はどこかへ吹っ飛んでしまった。
まったく、敵わない相手だ。
「じゃあ次、私からも話す」
続いて口を開いたのは、エレインだった。
心なしか頬が赤らんでいる。
……まさか、あの奥手だったエレインが、とうとうやるのか?
この鈍感レベル100の男に対してついに?
「フィン。正直、全部片付いて落ち着いてからにしようと思ってたけれど……止めた。この際だから言っとく」
「はい、何でしょうか? 勿論、僕はエレイン様の言うことなら何でも――」
「ちょっとだけ黙ってて、話しにくいから」
フィンをじろりと睨みつけ、エレインは咳払いをした。
「私とフィンはね、幼馴染なの。小さい頃から一緒にいて……昔からフィンは、大真面目なくせにどこかズレてて、周りの女の子にすぐ勘違いされるようなことばっかり言うわけ。本人は全然自覚ないんだけど」
「僕はただ、勇者様の素晴らしさを語っているだけですよ」
「それよ! それが一番タチ悪いの!」
エレインが叫ぶと、ソレイユが「分かります分かります」と激しく頷いた。俺も同意しかけて……止めた。さすがに俺とフィンとの間には男の友情というものがある。せめて俺だけでもフィンをフォローしないと。
「フィンってば、私にも「聖女様の奇蹟は皆の希望そのものです」とか、旅の宿の女将さんにも「あなたの作る料理は魔法よりも心を癒します」とか、誰彼構わず本気の褒め言葉を振りまくんですよ。本人は勇者一筋って主張してますけれど、傍から見たら立派な女たらしですね」
「その通りよ! そうやって無自覚に色んな女の子を惚れさせて、こっちは気が気じゃなかったんだから」
エレインの声には、隠しきれない悔しさと、それ以上の熱がこもっていた。
あまりにも切実な打ち明けにフィンは驚く他無かった。
おい、こっちに視線向けるな。さすがにこれは擁護出来んぞ。
「私、ずっと昔からフィンのことが好きだった。でも、フィンは勇者様、勇者様って、いつも私を〝勇者〟としてしか見てない気がして……私が勇者になったから敬ってるの? それが、悔しくて、苛立たしくて」
「エレイン様……」
フィンが珍しく神妙な顔をする。この鈍感野郎、エレインが言葉にしてようやく気付いたらしい。エレインもエレインで、ソレイユから常々「きちんと言葉にしないとフィンは気付きませんよ!」って言っても「でもでもだって」を繰り返してもどかしいままだったから、お互い様だ。
エレインは真っ赤になった顔を隠すように俯く。
「べ、別に今更どうこうって話じゃないから! 話はこれで終わりよ!」
「エレイン様。僕から一つ、よろしいでしょうか」
フィンが居住まいを正した。いつもの飄々とした空気が消え、真剣な眼差しがエレインに注がれる。エレインもそんなフィンの変化に気付き、わずかにたじろいだ。
「本当なら全てが終わってから伝えようと思っていましたが、気が変わりました。エレイン様にここまで言われて黙っていられませんので」
「フィ、フィン?」
「僕にとって、この世で最も大切な存在は……エレイン様――貴女です。勇者としての貴女ではなく、幼い頃からずっと隣にいた、エレイン様その人が」
「な――!?」
おー、エレインがいつになく動揺している。
凶暴な魔物相手にも恐れずに立ち向かう勇者はフィンだけにはポンコツなんだよな。
今目の前のエレインは乙女心大爆発だ。
「僕が他の方々に向ける言葉は、あくまで敬意と感謝の表れに過ぎません。ですが貴女に対する想いだけは全く違う。……鈍いと言われればそれまでですが、これだけははっきりと言っておきましょう」
沈黙が場を支配した。
エレインは口をぱくぱくとさせながら、みるみるうちに耳まで赤く染めていく。
「な、な、なに今更……! そういうのは、もっと早く言いなさいよ、この馬鹿!」
「申し訳ありません。他の方も仰る通り、僕は鈍感でして」
「自覚してるなら直しなさいよ!」
叫びながらも、エレインの声はどこか弾んで聞こえた。
ソレイユが「きゃー!」と黄色い声を上げ、俺はやっとかと思わず苦笑を漏らす。
……おい、ソレイユ。なんだ、その期待のこもった眼差しは?
「さて、ラインハルト様。今度はラインハルト様の番ですよ」
「は? ……やっぱこの流れ、そうなるよなぁ」
残念ながら出発の準備完了まであと一歩。俺が語る時間は充分に残されている。
俺は小さく咳払いをして、言葉を紡いでいく。
何気なく語ろうと思ったのだが、思いのほか心臓の鼓動がうるさい。
「俺がなぜ、皇太子でありながら勇者パーティーに加わったか、という話か」
「はい!」
「単純な話だ。ソレイユに一目惚れしたからだよ」
俺が正直に告げると、ソレイユは目を丸くした。
そんで、「ふぇ?」と間の抜けた声を発した。
してやったり。
「初めて教会でソレイユに会った時――未来の聖女を選定する祝福の儀式で、迷子の子供を優しく抱き上げているソレイユを見た瞬間、俺は恋に落ちた。皇太子という立場上、本来なら危険な旅に自ら志願するなど許されるはずもない。だが、どうしても……ソレイユのそばでソレイユを守りたいと思ったんだ」
「ラインハルト様……」
「聖女の護衛という名目で無理を通して、周囲の反対を押し切って同行を決めた。……まあ、蓋を開けてみれば、護衛どころかソレイユに振り回されっぱなしの一年だったわけだが」
俺がそう締めくくると、その場に笑いが起きた。
ソレイユは頬を染めながら、それでも嬉しそうに破顔する。
「私だってラインハルト様のこと、大好きですよ」
不意打ちのその言葉に、俺の方こそ言葉を失ってしまった。
「ふ、ふんっ! 俺の方がソレイユのことをもっと好きだぞ。山よりも高く、海よりも深くな」
「そんなことありません! 私の方がもっともっとラインハルト様が大好きです! 夜空に輝く星々よりもうんと、うーんとです!」
「なにおう、だったら俺は――」
俺、帰ったらソレイユに告白するんだ。
とばっかり考えていたのですっかり予定が狂ってしまったが、これで良かったのかもしれない。
パートナー同士の気持ちを分かり合い、これで最後ではなくこれを乗り越えて幸せを掴もうという気になれる。
やる気に満ちたところで俺達は決戦の地へと向かうことにした。
だが――そうした穏やかな時間の裏で、俺の胸には小さな影が差していた。
ソレイユが語った、かつての魔王の物語。魔王だったソレイユすら感銘を受けたという大聖女がどうして魔王となったのか。そしてどうしてそれが俺を含めて人々に知られていないのか。俺たちはまだ知らない。
今の魔王――かつての聖女だという存在に、いったい何が起きたのだろうか?
その答えを知る時、俺たちはきっと、もっと重たい真実と向き合うことになる。
そんな予感がした。
◆◆◆
いよいよ魔王城を眼前に捉えて俺達勇者一行に緊張が走った。
武者震いだと見栄を張ったエレインの手は明らかに震えていた。
フィンも故郷に伝わるおまじないを呟きながら精神を集中させている。
俺とて周りを観察して恐れやおののきをごまかしている状況だ。
いくらここまでの道中で様々な困難を乗り越えてきた勇者一行でも、絵本で描かれるような無敵の勇者のようにはいかない。この四人で魔王城に突撃したところで無数の魔物に囲まれて命を落とすに違いない。
作戦は単純で、魔王城に残る魔物たちはここまで遠征してきた人類連合軍がおびき出す手はずだ。現に魔王城の周囲を徘徊する魔物の数は目に見えて少なくなっている。これなら俺達は戦わずして魔王城に突入出来るだろう。
魔王を討伐する。
これで世界に平和が戻るはずだ。
……本当に? ソレイユは言ったではないか。今の魔王はかつての聖女だと。
「魔王城、ってみんな言いますけれど、どこが魔王城なのかは時代によって違います。ちなみに私が築いた魔王城は今だと帝国の首都になってますね」
そんな俺達に向けて、ソレイユは唐突に語りだした。
「旧市街地にある旧魔王城がまさかソレイユの居城だったなんて夢にも思わなかったぞ」
「逆に現魔王城は……かつて教国の聖都のあった場所でした。前世の私を討伐した当時の勇者様と聖女様たちはここに凱旋したらしいです」
「……それも初耳だ」
言われてみれば視界の先に広がる魔王城やその城下町は、美術の講義で学んだ建築方式で築かれているのようにも見える。けれど魔物は補修に興味無いのか、栄華のなれの果てといった具合に荒廃している。
「そうですね……。当時の記憶が残留思念として、まだ少しだけ残っているかもしれません」
崩壊した建物が両脇に広がる道路を進み、俺達は大広場に到着した。かつては美麗だっただろう噴水の中央、像の口から垂れ流れるのは瘴気で汚染したヘドロのような黒い液体だった。その少し先には赤黒く彩られた床に高台の残骸、そして処刑器具が散らばっていた。
ソレイユがそっと手を触れると、床がぼんやりと淡い光を放ち始めた。
「念視の奇蹟、俗にサイコメトリーというやつです。……見えますか、皆さん」
光は次第に粒子となって周囲へと展開されていき、やがて俺たちの目の前に、まるで舞台劇のような光景を映し出し始める。
光が映像となって再現したのは、まだここが人類圏で最も栄えていた時代、勇者一行の凱旋で歓喜に沸く聖都の光景だった。
「勇者様! 聖女様! 万歳!」
「魔王討伐、おめでとうございます!」
民衆が両手を挙げて叫び、花びらが舞う中を、二人の男女が馬車の上から手を振っている。ソレイユは若き勇者と若き聖女を、それぞれを勇者ガレス、聖女リーゼロッテだと紹介した。
「僕たちはついに、長きにわたる魔王の脅威を終わらせた!」
勇者の高らかな宣言で民衆の歓声はさらに大きくなる。隣に立つ聖女はあふれるばかりの人々の笑顔と喜びに涙を浮かべながら優しく微笑んでいた。
やがて場面は移り変わり、大聖堂での結婚式を終えた勇者と聖女が大衆の前で豪奢な馬車に乗りながら手を振っていた。紙吹雪と花吹雪が舞い、人々はこの新郎新婦を心から祝福していることが分かった。
「リーゼロッテ、俺は生涯、貴女だけを愛すると誓う」
「私もです、ガレス様。貴方と共にこれからの人生を歩んでいけて、嬉しいです」
誓いの口づけを交わす二人。
その光景は勇者が取り戻した平和と幸福、それ以外の何者でもなかった。
しかし、俺の隣でソレイユが静かに涙を流しているのに気づいた。
「……ここまでは幸せだったんです。魔王も魔物もいなくなって、世界に平和が訪れて。勇者様と聖女様は結婚して、誰もが二人を英雄として讃えていました。聖女様が願った太平の世が来た……筈でした」
だが、この時が二人の幸福の絶頂だった。
やがて、戦いの果てに掴み取った筈の平穏に人々は満足しなくなっていく。
そして……愚かにも人々は悲劇を繰り返そうとしていた。今度は自分たちの手で。
平和が訪れて数年。かつての魔物や魔王といった共通の敵を失った人間たちは、今度は互いを敵とみなし始めた。国境を巡る争い、資源の奪い合い、些細な諍いが積み重なり、やがて大規模な戦争へと発展していく。
「これ以上、罪のない人々を戦火に巻き込むわけにはいかない! 俺はこの戦争に反対する!」
「皆様、どうか思い出してください! あの血と涙が流れ続けた悲惨な光景を! 共に試練を乗り越えた人々が、どうして互いに刃を向けねばならないのでしょうか! 今こそ隣人と手を取り合い、共に歩んでいくべきです!」
場面が移り変わった映像の中で、勇者ガレスや聖女リーゼロッテが市民の前で声を張り上げる。だが、彼の言葉に耳を貸す者は少なかった。更なる栄華を求めて戦争を渇望する貴族たちに人々は扇動され、既に国は開戦へと傾いていた。
しかしガレスは数多の魔物を斬り伏せて魔王を対峙した勇者。そんな勇者に慈愛の聖女が賛同すれば、大衆もやがて非戦を訴えるようになるだろう。であれば、もはや魔物も脅威でなくなった世界に勇者など不要。邪魔者には消えてもらうしか無い。
やがて映像は、暗く陰湿な牢の中を映し出す。
「大罪人ガレス。貴様には教国皇女殿下への姦通未遂、および国家への反逆の罪で、死罪を申し渡す」
「それは事実無根だ! 俺は皇女殿下に指一本触れていない! 神の前で誓わせてくれ!」
魔王すら打ち倒した勇者は強者だった。けれど人間の悪意には全くの無力だった。
無実の罪を着せられてしまった。それも、弁解の余地もなく。
勇者の悲痛な訴えも虚しく、彼の首には無情にも刃が振り下ろされた。
「ガレス様……!」
牢の外で元聖女、リーゼロッテが崩れ落ちるように膝をつく。愛する夫を、身に覚えのない罪でむざむざと奪われた絶望が、自分たちの都合で正義をでっち上げる醜い人々への憎しみ、そして恨みが、その顔を大きく歪ませた。
「これで邪魔な脅威は消えた。次は聖女も消してしまおう。そうだな……教皇聖下に身体を使って誘惑しようとした魔女とでもしておくか」
そんな俗にまみれた聖職者たちの密談する声が、夜な夜な冷たく響く。
そして映像はこの広場に戻り、火刑台に立つ聖女の姿を映し出した。
「私は何もしていません! どうか異端審問のやり直しを! 神はこのような罪をお許しになりません!」
「聖女でありながら悪魔に魅入られて国を混乱に陥れようとした魔女よ! 死してその大罪を償うがいい!」
「ではせめて、どうか、お願いです! ガレス様の名誉だけは、どうか……!」
「関係ない! ガレス共々地獄に落ちろ!」
炎が聖女の体を包み込む。
身を焼かれるリーゼロッテはもはや万物を慈しみ、皆を愛する聖女ではなかった。
自分を、そしてガレスを破滅させた者への呪詛を振りまく魔女だった。
こうして、元聖女は自分たちに理不尽な運命を与える神への信仰を捨てた。
「神よ! これが人々のために尽くした私やガレス様への仕打ちですか!? これもまた試練だなんて仰るのなら……私はもう神なんて信じない!」
その断末魔にも似た叫びを、俺たちは声もなく見つめることしかできなかった。
映像がそこで途切れ、広場の光が消える。
あまりにも衝撃的すぎて、俺たちはしばらく誰も口を開けなかった。
「……酷い」
最初に声を絞り出したのはエレインだった。その目には涙が浮かび、怒りで拳が握りしめられる。
「あんなに世界を救った英雄なのに……。人間って、こんなにも身勝手で、残酷になれるものなの」
「政治的な思惑に利用されて、使い捨てにされたんですね。……許せる仕打ちではありません」
フィンも珍しく、怒りを滲ませた声で呟いた。
俺もまた強い憤りを覚え、頭に血が上った。
かつての勇者と聖女の献身がこうも無惨に踏みにじられた事実に、今を生きる人として言いようのない罪悪感すら覚える。
「聖女――リーゼロッテは、その後どうなったんだ」
俺の問いに、ソレイユは静かに続きを語り始めた。
「処刑されたリーゼロッテの魂は、絶望と憎しみに染まり切っていました。愛する人を奪われ、自分自身も濡れ衣を着せられて殺された。……その恨みは、彼女を人間ではないものへと変えてしまったんです」
魔物としてこの世に舞い戻ったリーゼロッテは、やがて強大な力を蓄え、ついには魔王へと成り下がった……いや、成り上がった。そして、自分と愛しい人を虐げた世界への復讐を果たすべく、動き出したのだった。
「聖女様は人間そのものが罪深い存在だと断じ、この世から排除しようとしています。当然です。彼女を裏切ったのは、人間という種そのものだったのですから」
「じゃあ、たまに魔王軍を率いて現れたあの凄く強いスケルトンの騎士は……」
エレインの言葉にソレイユは頷いた。
スケルトンの騎士。たまに部隊を率いて現れるソイツは、超が付くほど強かった。旅を始めたばかりの頃に遭遇した際は逃げるのが精一杯なほどで、直近の直接対決でも四人がかりでやっと互角の勝負になるほどの歴戦の戦士だった。
「はい。あれは、かつての勇者様――ガレス様です。魔王となったリーゼロッテ様が、取り戻した亡骸の彼を禁断の魔法で蘇らせたんです。スケルトンの魔物として。……でも」
ソレイユの声がわずかに震える。
「魔王の騎士となった今も、ガレス様はきっと、リーゼロッテ様を心から想っているはずです。彼が今も彼女に付き従っているのは、忠誠心もあるんでしょうけれど……。いつか彼女が復讐から解放されて、この呪われた運命から救われることを、ずっと願っているからだと思います」
過去の映像を見終えた俺達は再び魔王城へと進んでいく。大半の魔物は人類連合軍が引き受けてくれていても、まだ城下町を徘徊する魔物は少なくない。余計な戦いを避けるために裏道を縫うように進んでいった。
「聖女様。あなたは、かつての自分を討伐した聖女――リーゼロッテ様に、深く感銘を受けたんですよね」
フィンが静かに問いかけると、ソレイユは頷いた。
「はい。あの人の奇蹟に憧れて、私は聖女になることを選びました。……でも、まさかあんな結末が待っていたなんて、当時の私は知る由もありませんでした」
「だから、あなたは今世で、リーゼロッテ様を救いたいと思っているんですね」
ソレイユは少し驚いたように目を見開き、それから静かに微笑んだ。
「……フィンさん、鋭いですね。はい、そうです。私は聖女の奇蹟であの人たちを――聖女様と勇者様を救いたいと思っています。……あの時私に教えてくれた希望と愛を思い出してもらうために」
俺は彼女の横顔をじっと見つめた。
「ソレイユが積み重ねてきた無茶な修行は、全部、この日のためだったのかもしれないな」
「はい、これが昨日の晩に言わなかったもう一つの大きな理由です。癒しも解毒も解呪も……全部、いつかあの二人に手を差し伸べる力になるって信じて……」
俺は静かに手を伸ばし、ソレイユの手を握った。
「なら、俺たちも力を貸す。ソレイユ一人に、そんな重い願いを背負わせはしない」
「ラインハルト様……」
「私も手伝う。ガレス様とリーゼロッテ様……なんだか、他人事とは思えないもの」
エレインがそう言うと、フィンも大きく頷いた。
「僕も、微力ながらお力添えいたします。あの悲劇を繰り返さないためにも」
固い決意が四人の間で交わされ、いよいよ俺達の目の前に魔王城が立ちふさがる。
俺たちの旅はいよいよ最終局面へと差し掛かろうとしていた。
◆◆◆
魔王城の中は驚くほど静かだった。もっと魔物が跋扈する中を突き進む他無いと覚悟していたんだが、まるで生命の息吹を感じさせない廃墟の中を歩いているようで、俺達の足音の存在感が一番大きいほどだった。
「……ここが、魔王城」
エレインが光の剣の柄を強く握りしめながら呟く。警戒しながら魔王城の中を進むと、魔力の宿った石像や鎧が配置されていたので、それらは起動させないよう慎重に避ける。逆をいうとそういった無機物の魔物ばかり配備されていて、生きた魔物とは一度たりとも出くわさなかった。
この城の置くまでたどり着けば、魔王――かつての聖女リーゼロッテと、その騎士――かつての勇者ガレスと対峙することになる。ソレイユの語った悲劇を知った今、俺たちの胸にあるのは単なる平和を取り戻す使命感だけではなかった。
「皆さん、今一度確認させてください。明日の戦いの目的は、魔王様とその騎士様を討伐することではありません。私は……あのお二人を救いたい」
「ああ。ソレイユに愛と勇気を教えた二人だ。今度はソレイユが彼女達に思い出させる番だ」
ソレイユの声に、迷いはなかった。
「とはいえ、奇蹟での浄化を行うにはまず戦って弱らせなきゃ駄目です。厳しい戦いになるとは思いますが……どうか、力を貸してください」
「当たり前だ」
俺は即座に頷いた。
フィンとエレインも迷いなく首を縦に振る。
「僕たちはこの旅を通して何度も助け合ってきましたからね。今更迷うことなんて何もありません」
「そうそう。それに――あの二人の話を聞いた以上、放っておけるわけないじゃない」
エレインたちの言葉にソレイユは目を潤ませながら小さく頭を下げた。
「……ありがとうございます、皆さん」
そして魔王城をだいぶ進んだ俺達の前には門にも思えるほどの巨大な扉が立ちふさがった。俺達は直感で察した。この先には魔王が、そして魔王を守る骸骨騎士が待ち受けているのだ、と。扉越しに感じる重圧がそれを何よりも物語っていた。
俺は無意識の内にソレイユへと視線を向けていた。
これから先、生きて帰れる保証はどこにもない。
そう思ってしまうと、後でと思ってしまったこの思いはもう押さえきれなかった。
「ソレイユ」
「はい?」
「この先は何が起こるか分からない戦いになる。だから――今のうちに、どうしても伝えておきたいことがある」
ソレイユは少し驚いたように俺を見つめた。
灯りに照らされた彼女の瞳を俺はまっすぐ見返す。
「出会った日から愛している、とはずっと伝えたかった。昨日それは伝えた」
「はい」
「……その先を伝えたいと思う。ソレイユ、俺は貴女と結婚したい」
「……結婚も何も、私たちって婚約関係ですよね?」
「違う。聖女と帝国皇太子としてじゃない。俺はソレイユのことを愛している。聖女としてのお前だけじゃない。無茶ばかりして、俺を何度も振り回して、それでも誰よりも眩しく笑うお前自身を、俺は心から愛している。だから……俺がソレイユという女性と結婚したい、と言っている」
言った。言ってしまった。
あらかじめ立てていた告白計画は総崩れだ。
けれど後悔はない。どうしても今、この瞬間に伝えたかった。
ソレイユの目に、みるみるうちに涙が浮かんでいく。
「ラインハルト様……」
「過去にどんな経緯があろうと、ソレイユが何を背負っていようと関係ない。俺は、これから先もずっと、ソレイユの隣にいたい」
「私も……私もです、ラインハルト様」
ソレイユは涙を拭いながらはにかんだ。
「実は、ずっとお伝えしたかったことがあるんです。無茶な修行に付き合わせてしまって、いつも心配をかけて……それでも、見捨てずにそばにいてくれるラインハルト様のことが、私、大好きです。出会った時から、ずっと一緒にいたいと思ってました」
まさかの告白だった。
ソレイユが俺に想いを寄せていた素振りは無かった筈だ。
思わずエレインたちの方を見ると、信じられないとばかりに非難の目を向けてきた。「今更気付いたの? この鈍感」とでも言いたげだった。
しかし、やがてその言葉に実感が湧いてくると、俺の胸の中で長年燻っていた想いが一気に解き放たれていくのを感じた。
「必ず聖女様と勇者様のお二人を救いましょう。そして――生きて帰って、私たちも未来に向けて出発です」
「ああ、そうしようか」
俺たちは静かに手を取り合い、しばしその温もりを分かち合った。
ずっとこうしていたかったが、さすがにエレインたちが抗議してきそうだったので、慌てて手を離して扉に手をかける。
重厚な扉が開かれ、壮大な空間が広がる部屋へと足を踏み入れる。奥からはすさまじい威圧感、背筋を凍らせる冷気、恐怖を煽る瘴気が俺達を襲う。それでも俺達は有機を振り絞って前へと進み、ついに魔王と対峙した。
葬式の時に袖を通すような漆黒の法衣に身を包む魔王は静かに玉座に座るのみ。その傍らに控える魔王の騎士が殺気を発し、俺達をけん制していた。骨だけの体に朽ちた鎧を纏ったその姿、アイツがかつて勇者だったガレスのなれの果てか。
瞳を失って何もない虚ろな眼窩の奥だったが、しかしどこか悲しげな光が宿っている気がした。
「……ガレス様」
ソレイユが静かにその名を呼ぶ。魔王の騎士は答える代わりに、手にした大剣をゆっくりと構えた。
「あれが、話に聞いた元勇者、魔王騎士か」
俺も弓を構えて矢をつがえる。
エレインが皆の前に出て勇者の聖剣を抜いた。
◆◆◆
「フィン、援護よろしく!」
「承知しました、エレイン様。存分に力を振るってください!」
魔王騎士ガレスが一歩踏み出し、俺達の方へと飛び込んでくる。そして無言のまま大剣を振りかぶり、全てを両断すべく振り下ろされた。エレインはそんな必殺の一撃を盾を掲げ、巧みな捌きで上手く受け流す。
その一撃には長年積み重ねられた怨念だの、堕ちた聖女を救ってほしい懇願だのといった雑念は一切感じられなかった。あるのはただ己の聖女を守り抜くという決意のみだった。
「ソレイユ! まずは俺達で彼の動きを抑える!」
「はい、ラインハルト様!」
決戦の火蓋がついに切られた。
魔王騎士の一撃は想像していた以上に強烈だった。コイツはこれまで退けてきた伝説級の魔物や魔王軍の幹部を凌ぐ、まさに世界最強の剣士と呼ぶべきだろう。現に勇者エレイン一人では受け身に回るのが精一杯で、俺達が援護して何とか勝負になっていた。
大剣が地面を叩くたびに城の石床が砕け散る。城の石柱が盾代わりにならず、両断されて崩れ落ちていく。ただ、何らかの魔法がかかっているのか、瓦礫と化した石材は自然に修復され、この空間が崩壊することはなかった。
「フィン! 左に回り込むから隙を作って!」
「ええ、分かりました!」
フィンが魔法で炎の矢を放つ。ガレスの注意を逸らしている間に、エレインが素早く彼の側面へと回り込んだ。迎え撃とうとするガレスの背後にはソレイユがいて、彼女が持つ聖女の加護を帯びた錫杖が輝く。
「ガレス様、もう終わりにしましょう!」
ソレイユの叫びに、しかし骨だけの騎士は答えない。あくまでもリーゼロッテの剣であろうとする彼の大剣を振るう動きは止まらなかった。それでもソレイユは諦めずに言葉による説得を続ける。もしかしたら、過去には魔王だったソレイユに向けて聖女だったリーゼロッテもこうして魔王すら救おうとしたのかもしれない。
「リーゼロッテ様に無実の罪を着せた人たちは天罰で滅びました! 神様はきちんとリーゼロッテ様とガレス様のことを見ていたんです! もう復讐で手を血で染める必要は無いんです!」
ソレイユの言葉が届くと信じ、俺は矢継ぎ早に矢を放ちながら立ち回る。ガレスが剣のみならず時折闇を発して後方の俺やフィンに攻撃してくるためだ。けれどそれがエレインが攻め込む隙にもなる。
「今のリーゼロッテ様とガレス様が世界に振りまいているのは悲劇ばかりです! 罪を犯していない子ども、今を一生懸命生きる村人、そんな弱い人たちが真っ先に犠牲になる、過去の悪夢が再来しているんです!」
ソレイユの言葉がガレスに届いたのか、骸骨騎士の動きが一瞬、確かに鈍った。
その隙を逃さず、エレインの聖剣が振るわれ、ガレスの剣が骨の腕と共に宙を舞う。
その刹那を、ソレイユは見逃さなかった。
「解呪の奇蹟!」
錫杖の先から溢れ出した清浄な光がガレスの体を包み込む。ガレスが身に纏っていた漆黒の瘴気が蒸発するように抜け出ていき、骨の体が軋むような音を立て、彼はその場に崩れ落ちるように膝をついた。
「ぐ、う……おお……!」
くぐもった、しかし確かに人間の言葉に近い呻き声が、骨の顎から漏れる。
「悪夢は終わったんです。どうか、天国で安らかに眠ってください」
「コノ光ハ……セイ、ジョ……」
ソレイユが跪き、ガレスの手を取った。もはや魔法の影響が抜けて動くすべを失った筈の骨だけの手が、わずかに震える。
「はい。私は今代の聖女です。あなたの無念、あなたの想い、全部知っています。だからこそ、今ここであなたを完全に解放します。……安らかに眠ってください、勇者ガレス様」
ソレイユの錫杖が再び淡い光を放つ。今度の光は攻撃ではなく、ガレスを安らかに眠らせるために優しく包み込むようだった。
「どうかリーゼロッテ様のことは私たちに任せてください。きっと救いますから。ですから……ガレス様は一足先に眠って、見守っていてください」
ガレスの体が音を立てて崩れていく。
「……聖女サマヲ……りーぜろってヲ……たのむ……」
「……はい。必ず」
「……ああ、安心した……」
その一言を最後に、ガレスの体は完全に光の中へと消えていった。穏やかな、どこか安堵したような表情を浮かべた、ように俺には見えた。
「……リーゼロッテ様」
自分の伴侶、勇者の最後を見届けたかつての聖女、今の魔王はなおも静かに座ったままだった。額に輝くのは聖女が宿す聖痕が反転して漆黒に染まった紋章。黒真珠より黒く済んだ目が俺達へと向けられる。
「ガレス……。そう、彼を倒せるほどの勇者と聖女が現れたのですね。私はさしずめ勇者と聖女に討ち果たされる魔王、っていったところですか。ふふ、おかしいの。自分では魔王だなんて名乗ったことは一度も無いのに」
透き通った、けれど抑揚の無い声が魔王から紡がれる。
魔王騎士との死闘を終えた直後なのに、彼女の声は妙に俺達の心に染み渡り、安心させた。その事実に恐怖する。
「リーゼロッテ様。もう止めませんか?」
「止める? 何を?」
「貴女の無念は全部知っています。ガレス様への愛、人間に裏切られた絶望、その全てを。でも、復讐は人々からただ奪うだけで何も生みません。どうか、もう一度だけ信じて、世界を今を懸命に生きる人たちに任せてもらえませんか?」
「裏切られて何もかも奪われたのに? 神などいないことを皆さんに知らしめることこそが今の私の使命です」
「いいえ、神はいます。そして人々を愛しています」
ソレイユの断言にリーゼロッテの瞳に怒りにも似た昏い光が宿る。
「それを教えてくれたのは他ならない、リーゼロッテ様ですよ」
「何をわけの分からないことを……。いいでしょう、聖女として私を討ち滅ぼせるものなら、やってみなさい。私は呼ばれている通り魔王らしく、恐怖と絶望を与えましょう」
リーゼロッテはゆっくりと立ち上がり、玉座の脇に置かれていた禍々しい杖を手に取った。杖の先から黒い瘴気が渦を巻きながら溢れ出す。玉座の間全体が不気味な闇に包まれていった。
「神が本当にいるのなら、ソイツの下に召されるがいいわ!」
リーゼロッテの放った闇の奔流が、俺たちに向かって押し寄せてきた。
◆◆◆
闇の奔流が玉座の間を埋め尽くす直前、ソレイユが杖から発した閃光が闇と拮抗した。魔王とソレイユが互いに力を込めても光と闇の境界線は丁度中間付近から動こうとはしなかった。
「エレイン! 今です!」
「分かってる!」
エレインが聖剣を高く掲げると、刃が眩い輝きを帯びる。そして一閃。闇が切り裂かれ、その向こうにいるリーゼロッテの姿があらわになった。エレインは臆することなく飛び込んでいき、リーゼロッテへと斬りかかる。
「甘いですね」
リーゼロッテが杖を一振りすると、彼女の後方で魔法陣が幾つも浮かび上がり、中から黒い触手のようなものがエレインに向けて伸びていく。けれどエレインは迎撃する様子はなく、そのまま突撃を続ける。
「させませんよ!」
エレインを援護したのはフィンが放った巨大な炎の塊だった。エレインを掴む前に触手は炎の餌食になり、一瞬で焼き尽くされた。かつて魔王軍の一団を消し飛ばしたこともある、フィンの十八番たる大魔法だ。
「さすがね、フィン!」
「援護はお任せを!」
二人の連携はまるで長年連れ添った夫婦のように息が合っていた。エレインが斬り込み、フィンが魔法で援護する。魔王騎士ガレスという前衛を失った元聖女のリーゼロッテは近接戦闘が不得手らしく、呪術や冥術で応戦するものの、明らかにエレインたちが押していた。
無論、俺達とて黙って観戦するわけにはいかない。ソレイユが光の防御幕で勇者一行を淡く包み込み、リーゼロッテの攻撃による傷をたちまちに癒していく。俺もまた的確な場面で矢を放ち、リーゼロッテの動きを阻害し続けた。
「ええい、鬱陶しい! こんなにしつこくまとわりつかれては、思うように魔法が使えないじゃないですか……!」
「あ、リーゼロッテ様。その言葉、そっくりそのまま返してもらいます」
「? 一体何を言って……?」
なるほど、ガンガン行こうぜが魔王に有効な戦術だと前夜にソレイユが言っていたが、実体験に基づいているのか。だとしたら、リーゼロッテとガレスが同時に襲いかかってきたらまず勝てなかっただろうに、どうしてガレスだけをけしかけたのやら。
忌々しいげに顔を歪めたリーゼロッテの杖を、ソレイユの聖剣が切り落とした。彼女が剣先を喉元に突きつける前に、リーゼロッテは大きく飛び退いて距離を置く。追撃しようと試みたが、彼女から発せられる気迫が俺達を威圧する。
「馬鹿ですね。人間は愚かですよ。魔王を討ち滅ぼした勇者と聖女は脅威以外の何者でもありません。阻害され、排除されるのが歴史の常です」
「ええ、そうですね。人間とは過ちを繰り返す生き物です」
「勇者や聖女なんて神の操り人形に過ぎません。用が済んだらポイ捨てされるだけです。無駄です、意味なんて無いんですよ、その頑張りは。なのにどうして戦うんです?」
「そんなの決まっています」
実感を伴ったリーゼロッテの言葉だったが、ソレイユは揺るがなかった。
「聖女はみんなの笑顔を取り戻して、それを守るのが役目ですから」
ソレイユの断言はこれまで俺達のしたどんな攻撃よりもリーゼロッテを打ちのめした。そんな気がした。
それが何より許せなかったのか、凄まじい形相でかつてないほどの怒りを迸らせる。
「戯言を……! 今すぐ黙らせてあげます!」
リーゼロッテの右手に光、左手に闇が収束する。
魔法は専門外の俺もひと目で分かる。アレは、ヤバい。
避けるか、迎え撃つべきか。そんな判断する時間すら与えられなかった。
「魔王の権能と聖女の奇蹟の融合、闇と光の奔流を食らいなさい!」
昼と夜が同時に襲ってきた。そんな矛盾が現実化した。そんな印象だった。
しかし、そんな圧倒的な力は、俺達の目の前で弾かれていく。
光と闇で輝いた壁に阻まれて。
「素晴らしいです、さすがはリーゼロッテ様!」
「聖域の結界!? でも、どうして闇を伴って……!?」
「ですが、負けませんよ。こちらは聖女の奇蹟と魔王の権能の統合、光と闇の結界ですからね!」
「……!? どこかで見たことがあるかと思ったら、まさか貴女は、魔王ソレイユですか……!?」
ソレイユの奇蹟がリーゼロッテの魔法を凌ぎきった。
けれど奥の手が対処されたことより、かつての魔王が聖女となって自分の前に立ちふさがった事実の方が衝撃が大きいようだ。
「どうして」
「決まっています。貴女を救うためです。他ならない、貴女から教わった慈愛で!」
戦いはまだ続いている。一瞬でも敵が我を忘れた絶好の機会は見逃さない。
「フィン、お願い!」
「承知しました、エレイン様! この魔法に僕の全てを込めます!」
フィンが詠唱して生み出した大魔法の光と、エレインの聖剣が発した光が一体となる。太陽のように輝く剣を振りかぶり、エレインがリーゼロッテめがけて突撃した。リーゼロッテは何かしようとしたようだが、そうはさせない。彼女の手を射抜いて妨害する。
「必殺の、超勇者斬りだあっ!」
そのネーミングセンスはさておき、必殺の一撃がリーゼロッテを引き裂いた。彼女が纏っていた膨大な瘴気が光の粒子と共に消えていく。闇の法衣の奥にあった彼女の身体は……ガレスと同じく肉や内蔵が無い骨だけのスケルトンだった。冥府より蘇ったアンデッド、それが今のリーゼロッテか。
力を失ったリーゼロッテの最後は確定している。それでもイタチの最後っ屁とも言うし、とどめを刺すのがセオリーなのだが……リーゼロッテの下にソレイユは駆け寄っていく。
「リーゼロッテ様」
ソレイユは力を失い倒れ込んだリーゼロッテの体をそっと抱き起こした。
「……なぜ、とどめを刺さないのですか。今の私なら簡単に殺せるでしょう」
「私は貴女を討つために来たんじゃないんです。救いたいんです」
「救う? 私を? ……いえ、このやりとりも……」
「はい。リーゼロッテ様からの受け売りです」
「……そう、ですか。まるで……昔の私が今の私を咎めに来たみたいです」
ソレイユは涙を浮かべながら錫杖を高く掲げる。
「ガレス様の最期の願いを、私は受け取りました。あなたを必ず救うと、約束したんです」
「ガレス……。彼は、私には勿体ない方でした……。こんなにも堕ちてしまった私になおずっと剣を捧げてくれて……守ってくれた」
「安らかに、光の中へと旅立ちました。最期まで貴女を案じながら」
リーゼロッテの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「浄化の奇蹟」
ソレイユの祈りと共に、錫杖から溢れ出た清浄な光が、リーゼロッテの体をゆっくりと包み込んでいく。それはまるで母が子を抱きしめるような、温かく優しい輝きを伴っているように感じた。
「ソレイユ……教えてください。私は……間違っていたんでしょうか?」
「いえ、しょうがなかったと思います。私も……愛する人を失ったら、復讐に染まってしまうかもしれませんから」
「なら、どうするのですか? 勇者や聖女なんて要らない、なんて皆さんから言われたら」
「聖女が不要なほどに平和になったら、静かに立ち去ります」
リーゼロッテは、ふっと微笑んだ。長年の憎しみが解け落ちたような、穏やかな表情だった。
「……ありがとうございます。私がきっかけであの時の魔王が私よりも立派な聖女になったのなら、私も少しは報われます」
その言葉を最後にリーゼロッテの体が崩れていく。最後には何一つ残さずに淡い光の粒子となって、開かれた窓から空へと昇っていった。その光の中で一瞬、ガレスの姿が寄り添うように浮かび上がったのを、俺は確かに見た気がする。
「ようやく二人は再会できた、のかな?」
魔王が去り、世界に光が戻った。
その証拠に、死の大地だったここ、広間に差し込む光が俺たちを優しく照らした。
◆◆◆
魔王討伐の報せは、瞬く間に大陸中を駆け巡った。帝都は祝勝の熱気に包まれ、俺たちは英雄として盛大に迎えられることとなった。
だが、エレインとフィンは、褒美として与えられる栄光と地位を丁重に辞退した。
それどころか旅で集めた勇者装備一式も聖剣を含めて帝国に献上するというのだ。
「私たち、生まれ故郷の村に帰ることにしたの。大層な暮らしより、二人で静かに暮らしたいから」
「エレイン様と共に、ささやかながらも幸せな日々を送りたいと思います」
二人は故郷の村で、親しい人々だけを招いたささやかな結婚式を挙げた。村の広場に飾られた花々の中、涙ぐむエレインの隣で、フィンは誓いの言葉を述べる。
「エレイン様。これから先の人生、誰に対しても今まで通り真摯でありたいと思いますが……この熱い想いだけは生涯ただ一人、貴女だけのものです」
「ほんっと、口説き文句だけは一人前なんだから……。でも、そういうところも、好きよ」
幸せそうに笑い合う二人の姿を、俺とソレイユは見守り、拍手した。
そして俺たちもまた、帝都の大聖堂で盛大な結婚式を挙げることとなった。
純白のドレスに身を包んだソレイユは、これまで見てきたどんな彼女よりも美しかった。祭壇の前で向かい合い、俺たちは永遠の愛を誓い合う。
「ラインハルト様、これからもよろしくお願いします。……ちなみに」
誓いの口付けを交わした直後、ソレイユが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「実は私、次の目標がもう出来てしまって」
「……嫌な予感しかしないんだが」
「極東の方に、陰陽術という神秘の技があるらしいんです! 魔法とか聖女の奇蹟とはまた違う、未知の体系の神秘なんですよ! ぜひ習得してみたいなと思っていまして、ハネムーン代わりに行きましょう!」
目を輝かせながらそう語るソレイユに、俺は思わず天を仰ぐ。
まったく……ソレイユはどこまでも俺を振り回し続けるつもりらしい。
だが、不思議と嫌な気はしなかった。
「……分かった。好きにすればいい。ただし、今度も俺と一緒に行くこと。お前を一人で危険な目に遭わせるわけにはいかないからな」
「ラインハルト様! さすがです、話が早い!」
満面の笑みで俺に抱きつくソレイユを、俺は苦笑しながら優しく抱き留めた。
これから先もきっと彼女は突拍子もないことを言い出し、俺を振り回し続けるのだろう。だがそのたびに俺は呆れながらも、彼女の隣に立ち続けたいと思う。
元魔王にして聖女、そして俺の永遠の伴侶、ソレイユ。
彼女と歩むこれからの人生に、俺は心からの期待を抱きながら、鐘の音が鳴り響く大聖堂の中、彼女の手をしっかりと握り返したのだった。
お読みいただきありがとうございました。
異世界恋愛? ハイファンタジー? 両方を織り交ぜた作品は頻繁に見かけますが、こちらもその1つです。カテゴライズは悩みましたが、あくまで恋愛要素がメインでファンタジー要素はサブなのでこのカテゴリーに。
ご意見、ご感想お待ちしています。




