勘違い平行線
「ですから、これでは依頼達成にならないんですよ」
受付嬢さんの声が冷たい。チラ見してみたが、視線も冷たい。
今、冒険者組合の受付では、ようやく成人したばかりぐらいの五人組が、
採集依頼の是非を巡って受付嬢さんと揉めていた。
俺は併設されてる食堂からそれを眺めてる。
「いや、ちゃあんと青葉草十本が五組あるでしょ?見てくださいよ!」
この五人組の代表らしい、焦茶色の髪の男が受付嬢さんに食って掛かり、
残りの四人も、そうだそうだと興奮気味に喚きたてている。
「青葉草は、葉の部分に薬としての有効成分が含まれているんです。
こんな風に潰れたり切れたりしていては、有効成分が減るんですよ。
採集は、ただ採ってくればいい、というものじゃないんです。
雑に扱われてしまったら作れる薬も作れなくなるんですよ?
依頼の意味を考えてください。
それに、青葉草以外のものまで混ざっているじゃないですか。
これとこれは別の草です。薬草じゃありません」
「そんなの知りませんよ!同じにしか見えないじゃないですか!
とにかく、ちゃんと採集してきたんだから報酬出してください!」
焦茶色がごねる。他四人もごねる。いや、ちゃんとしてないだろう。
こいつらは熱冷ましに下剤が混ざっていても、なんとも思わないのか?
「重ねて言いますが、これで報酬は出すわけにはいきません。
これは期限が切られている依頼ではないので、やり直してください」
「横暴だ!」
「こき使って、薬草を余分に取らせるつもりなのね!」
「新人だと思って舐めるな!」
「報酬をケチるつもり!?」
ぎゃあぎゃあと喚く彼ら。勘違いがひどすぎる。
焦茶色が厭らしい笑顔を作って、受付嬢さんを見る。
「のちのち後悔しなければいいですけどね、貴女。
僕達『閃光の伝説』はいずれ竜をも討伐する一行ですよ。
貴女のような木端職員なんて、後で泣いて媚びるしかないんです」
その栄光の未来予想図は現状のどこから湧いて出た?
つか、そんな名前なんだ、この一行。今のところ全く光は見えないが。
「そうよ。言わないでおこうかと思ったけど、わたしは貴族令嬢よ。
他のみんなだって令嬢令息なんだから。
わたしたちの家が全部動けばどうなるのか、思い知ればいいわ」
はー、こんな典型的なアホ貴族って、実在する生物だったんだ。
しかし。
「ではやってごらんなさい。やれるものなら」
あーあ。この受付嬢さんって確か…
「まだ名乗っていませんでしたわね。わたしはここの領主の三女です。
つまり伯爵令嬢。従兄弟には王国騎士団長の次期公爵がいます。
冒険者で有望な人材がいれば、引き抜きを持ちかけるためにいます。
少なくともあなた方は引き抜き候補にはかすりもしませんが」
五人組の野次が止まる。こいつらは貴族と言っても下の方らしい。
「もう一つ言っておきましょう。
皆さんの家は、すべて把握していますよ?嫡子でないことも。
冒険者登録をする際、家系や犯罪歴を調査するのは規則ですから。
お顔も存じあげてます。男爵家と準男爵家でしたね、皆さん全員」
五人組はもはや声も出ず顔色も真っ白だ。
つか準男爵は貴族じゃなくて準貴族だろう。ただの名誉爵位じゃん。
「冒険者組合員への逆恨みからの暴言と恫喝。
当然お家の方にも連絡させていただきます。
今後もまともに活動出来ると良いですね?」
五人組は半泣きで頭をこすりつけ詫びはじめた。
その態度はすこーし遅かったねぇ。
『閃光の伝説』か。いきなり閃光のように伝説を作ったな。
「冒険者というやつらは」の受付嬢とは別の町の別人です。
書いててなんとなく「育毛剤に脱毛剤を混ぜる」という脅迫を思い出した。




