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ここはなにかが欠けている

勘違い平行線

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/22

「ですから、これでは依頼達成にならないんですよ」


受付嬢さんの声が冷たい。チラ見してみたが、視線も冷たい。

今、冒険者組合の受付では、ようやく成人したばかりぐらいの五人組が、

採集依頼の是非を巡って受付嬢さんと揉めていた。

俺は併設されてる食堂からそれを眺めてる。


「いや、ちゃあんと青葉草十本が五組あるでしょ?見てくださいよ!」


この五人組の代表らしい、焦茶色の髪の男が受付嬢さんに食って掛かり、

残りの四人も、そうだそうだと興奮気味に喚きたてている。


「青葉草は、葉の部分に薬としての有効成分が含まれているんです。

 こんな風に潰れたり切れたりしていては、有効成分が減るんですよ。

 採集は、ただ採ってくればいい、というものじゃないんです。

 雑に扱われてしまったら作れる薬も作れなくなるんですよ?

 依頼の意味を考えてください。


 それに、青葉草以外のものまで混ざっているじゃないですか。

 これとこれは別の草です。薬草じゃありません」


「そんなの知りませんよ!同じにしか見えないじゃないですか!

 とにかく、ちゃんと採集してきたんだから報酬出してください!」


焦茶色がごねる。他四人もごねる。いや、ちゃんとしてないだろう。

こいつらは熱冷ましに下剤が混ざっていても、なんとも思わないのか?


「重ねて言いますが、これで報酬は出すわけにはいきません。

 これは期限が切られている依頼ではないので、やり直してください」


「横暴だ!」

「こき使って、薬草を余分に取らせるつもりなのね!」

「新人だと思って舐めるな!」

「報酬をケチるつもり!?」


ぎゃあぎゃあと喚く彼ら。勘違いがひどすぎる。

焦茶色が厭らしい笑顔を作って、受付嬢さんを見る。


「のちのち後悔しなければいいですけどね、貴女。

 僕達『閃光の伝説』はいずれ竜をも討伐する一行ですよ。

 貴女のような木端職員なんて、後で泣いて媚びるしかないんです」


その栄光の未来予想図は現状のどこから湧いて出た?

つか、そんな名前なんだ、この一行。今のところ全く光は見えないが。


「そうよ。言わないでおこうかと思ったけど、わたしは貴族令嬢よ。

 他のみんなだって令嬢令息なんだから。

 わたしたちの家が全部動けばどうなるのか、思い知ればいいわ」


はー、こんな典型的なアホ貴族って、実在する生物だったんだ。

しかし。


「ではやってごらんなさい。やれるものなら」


あーあ。この受付嬢さんって確か…


「まだ名乗っていませんでしたわね。わたしはここの領主の三女です。

 つまり伯爵令嬢。従兄弟には王国騎士団長の次期公爵がいます。

 冒険者で有望な人材がいれば、引き抜きを持ちかけるためにいます。

 少なくともあなた方は引き抜き候補にはかすりもしませんが」


五人組の野次が止まる。こいつらは貴族と言っても下の方らしい。


「もう一つ言っておきましょう。

 皆さんの家は、すべて把握していますよ?嫡子でないことも。

 冒険者登録をする際、家系や犯罪歴を調査するのは規則ですから。

 お顔も存じあげてます。男爵家と準男爵家でしたね、皆さん全員」


五人組はもはや声も出ず顔色も真っ白だ。

つか準男爵は貴族じゃなくて準貴族だろう。ただの名誉爵位じゃん。


「冒険者組合員への逆恨みからの暴言と恫喝。

 当然お家の方にも連絡させていただきます。

 今後もまともに活動出来ると良いですね?」


五人組は半泣きで頭をこすりつけ詫びはじめた。

その態度はすこーし遅かったねぇ。


『閃光の伝説』か。いきなり閃光のように伝説を作ったな。

「冒険者というやつらは」の受付嬢とは別の町の別人です。

書いててなんとなく「育毛剤に脱毛剤を混ぜる」という脅迫を思い出した。

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