ただいま
肩をとんとんと叩く。
『ん?』
『少し、外に出てくる』
『…え?』
『心配は無用だ。ただ、やりたいことがある』
『いやいや、心配はしてないよ。ただ、一人で大丈夫?』
『…それを、人は心配と呼ぶんだ』
家からでて、森を歩く。
僕がやりたいことには、金がいる。
しかし、僕は今無一文だ。
稼ぐ方法などいくらでもあるが、僕にとって、それは価値がない。
だから。
僕は、効率の悪い方法を選ぶ。
じゃないと、意味がないから。
僕はまず、木を、切り倒した。
切り株に座り、それを削り、形を作る。
見えないけど、見えないだけだ。
しばらくして、小さな人形がいくつか出来た。
…どうだろう、これぐらいで十分だろうか。
それらを袋にいれて、僕は町に向かった。
彼女と来て以来だろうか。
一歩一歩、歩いて行く。
景色なんて概念、もうしばらく接していないが、なんとなく、それが浮かぶようだった。
町に着いた。
どこで売ろうか。
売買の権利は誰にでもあるようだから、適当なところで、広げよう。
そう思って、なんとなく歩いて、場所を決めた。
布を広げて、人形を置く。
後は、待つだけだ。
僕にとっては一瞬…
『兄ちゃん、これ、売り物かい』
『はい』
男が話しかけてきた。
早い。想像よりずっと。
『触ってもいいか』
『はい』
男はそれを手に取り、食い入るように見ていた。
『…これを、あんたが?』
『はい』
どれぐらいの値打ちが付くだろうか。
最低で考えても、おそらく足りるだろう。
『兄ちゃん、これ、いくらだ』
『あなたの意見を聞かせてもらえますか』
『…そうだな、ここまで精巧な作りの木偶は見たことがない。それに、どこか神秘的で、言いようもない雰囲気を醸し出している』
『金貨数枚は下らないだろう』
『…そうですか。なら、銀貨3枚です』
『兄ちゃん。俺は優しいからいいが、もしあくどい商人が聞いたら、言質を取ったと好き勝手しちまうぞ』
『大丈夫です。売る相手は選びます。あなたなら、僕が心配する必要はない』
『あなたはこれを、子供にプレゼントしようとしている。なら、これがいい』
直感で、人形のうちのひとつを選んで、差し出した。
『…なんでわかったんだ』
『そんなこと、どうでもいいでしょう。いま大事なのはそこじゃない』
『…そうだな。これをもらおう』
『毎度あり』
こんな風に、人形は売れていった。
金は十分集まった。
これからが肝要だ。
彼女が欲しいものがあればいいのだが。
そう思いながら、通りを歩く。
しばらくして、なんとなく、これだと思ったものがあった。
『すいません』
『はい!何かめぼしいものでもありましたか』
『これ、いくらですか』
『銀貨五枚です』
懐から銀貨を取り出して、差し出した。
『はい。確かに受け取りました。どうぞ』
『ありがとう』
何枚か残ってしまったな。
何かあったときのために、持っておこうか。
帰路に着く。
…帰路。
僕には見えないが、空は暗くなりはじめていたことだろう。
少し、遅くなってしまったな。
選ぶのに、時間がかかりすぎてしまった。
家が見えてきた。
すると、扉の前でキョロキョロと辺りを見渡している、彼女がいた。
何かあったんだろうか。
そう思っていると、彼女の視線が僕を捉えた。
僕が家に着くまで、ずっと僕を見ていた。
『おかえり』
『ただいま』
一緒に、家に入った。
『ねぇ、何しに言ってたのか聞いていい?』
『これ』
『…髪留め?』
『君に』
『…うそ。その、お金は?』
『受け取ってくれ』
『…ありがとう』
『今日は、君の誕生日だろう』
『え!なんで知ってるの?』
『わからない。いつの間にか知っていた』
『そっか。ねぇ、私も祝いたいから、誕生日がいつか、教えてくれる?』
『…どれを誕生と言えばいいのか、分からないな』
『…よくわかんないけど、誕生日、ないの?』
『そうかもしれない』
『わかった。じゃあ、今日ってことにしよう』
『…どうして』
『私が祝いたいから』
『そう。なら、それでいい』
『ほんと?』
『あぁ』
『わかった。じゃ、一緒に言おっか』
『誕生日、おめでとう』『おめでと!』




