21話
ロズ・ソーンは店内をゆっくりと見渡した。
並べられた品々を眺めるその視線は、値札を確かめるというより、どこか遠い場所を見つめているようだった。
「……不思議なお店ね」
ロズは懐かしい雰囲気を感じたような口調で呟いた。
棚の一角で、彼女の足が止まる。
そこにあったのは、茨の文様が刻まれた、時の止まった懐中時計だった。
「その懐中時計は昔からお店にあるんです。壊れているわけではないのに、なぜか動かなくて......」
ロズは一瞬だけ目を細め、微笑んだ。
「……ええ。知っているわ」
クロノ助が懐中時計に前足を伸ばし、「にゃあ」と鳴く。
まるで、それを選べと言うかのように。
「あなたも、これがいいと思うのね」
ロズは懐中時計を手に取り、胸元で静かに握った。
「この懐中時計でいいんですか?」
私の問いに、彼女は静かに頷く。
「ええ。この時計がいいの。これは“約束”のためのものだから」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「長い間、待っている友人がいるのよ。その子と再会したときに……必要なの」
胸の奥が、わずかにざわついた。
けれど、理由を尋ねる前にロズは言葉を切る。
「……お代はいくら?」
私は首を振った。
「その品は、もともと動かないまま置かれていたものなので。お代は結構です」
ロズは少し驚いたように目を瞬かせ、それから、どこか懐かしそうに笑った。
「そう……やっぱり、この店は優しいのね」
彼女は懐中時計を外套の内側にしまい、扉へ向かう。
「また来るわ、ハル。」
ベルが鳴り、ロズ・ソーンの姿は店の外へ消えた。
足元で、クロノ助が小さく鳴く。
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