09 ミーちゃんの思惑
「トモキ、少し手伝ってくれないか」
朝食を取っているとアラゴに言われた。
村は人手不足らしい。
畑仕事を、手伝ってほしいようだった。
「わかった。僕は何をすればいい?」
「トモキは、井戸から水を汲んで畑まで運んでくれ」
井戸で水を汲み手桶に入れる。
手桶を畑まで運び、水を柄杓で撒く。
結構、重労働だな。
何往復しないといけないんだ?
これ、アラゴが毎日やっているんだよな?
元の世界だったら、水道にホースを繋げて水を流すだけで終わる。
昔の日本だと、何かいい方法があったような気がするけど。
水車とかだっけ?
薄っすらイメージできるけど作れるほどではない。
魔法で水を降らせられれば楽なのにな。
僕は、井戸と畑を何回も往復して水を撒いた。
「お疲れさん」
疲れて地面で座っていると、アラゴが通りかかった。
アラゴは裏庭で薪を割っていたようだ。
僕は、気になったので聞いてみる。
「水って魔法で降らせるとか出来ないの?その方が楽でしょ?」
「あー。水魔法を大量に使えるやつがいなくてな。確かに魔法が使えれば楽かもしれないが」
ミーちゃんはアラゴさん家の家事をしてくれている。
布団を干したり、洗濯などだ。
「二人のお陰で助かるよ。普段は俺一人だもんでな」
自給自足も大変なんだな。
割と楽なのかなと思っていたのだけど。
勘違いをしていたようだ。
「「おーーい」」
遠くから獣人の村人が、必死の形相で走ってきた。
顔が青い、何かあったのだろうか。
「誰か、ポーション持ってないか?アスティーが木から落ちて怪我したんだ」
「俺は持っとらんぞ。トモキは?」
「僕も持ってない。ミーちゃんはどうかな。訊いてくるよ」
僕は走ってアラゴの家に向かう。
ミーちゃんは外で洗濯物を干していたところだった。
「ポーション?持っとる訳なかろう。そもそも店で買っておらんし…誰か怪我したのか?」
「木から落ちたらしい」
「ワシの魔法で何とかなるかもしれん」
僕らは木から落ちたというアスティーの所へ向かった。
アスティ―は猫の獣人だった。
誤って足を滑らせたらしい。
「『回復魔法』」
ミーちゃんがアスティ―の腕に魔法をかける。
みるみる傷が塞がっていく。
「「おおおっ!」」
「凄え!跡形もない」
村民たちが、アスティ―の怪我が忽ち治ったので驚いていた。
「ミーちゃん回復魔法使えたんだ」
「まあ、ワシが回復魔法を使えると思っていると、「いつでも大丈夫」と安心してしまうじゃろ。油断せんように黙っておった」
「魔法を使えるとは思っていたが、まさかヒールが使えるとはな。ミーシャは凄いな」
アラゴが驚いていた。
ヒールは使える人が希少らしい。
「ポーションは買っておいた方がいいじゃろう。ワシらもずっとおるわけじゃないしな」
「それもそうなのだが…。高くて買えないんだよな。銀貨十枚だし」
銀貨十枚は一万円相当らしい。
結構な値段だ。
自給自足の村では、厳しい金額なのかもしれない。
教会へいけば回復魔法をかけてもらえるらしいが、獣人は差別されていて倍の金額を吹っ掛けられるとか。
差別が酷いな。
「僕がポーションを作れればいいのに…なんて出来ない事を嘆いても仕方ないか」
ミーちゃんが優しく微笑む。
「友樹は優しいの。出来たら叶えてあげたいか?」
彼女は首を傾げた。
たまに見せるしぐさが、幼く見えて可愛い。
「そうだね。出来れば叶えてあげたいかな」
「今から、神様にお願いしてみるがどうじゃ?」
へ?神様?
ミーちゃんは何を言っているんだ??
僕を見る金色の瞳が、楽しそうに笑っていた。