08 僕の本心
*** ミーシャ視点(黒猫ミーちゃん)
「男はこっちの方も好きじゃろ?」
らしくない。
多分これは嫉妬というものじゃろう。
友樹が獣人のアラゴを見てたのは、恋愛感情ではない。
獣人の耳を撫でたいだけ。
第一、アラゴは男じゃ。
頭では分かってはおるのじゃがな。
ワシは友樹の手を取り、自分の胸に押し当てる。
友樹はギョッとした表情をして狼狽えた。
嫌ではなさそうだが、恥ずかしいようじゃの。
全くワシらしくないわ。
*** 日下部 友樹 視点
あーびっくりした。
ミーちゃんもそうだけど、自分自身にも。
ドキドキしてどうにかなりそうだ。
ミーちゃんは冗談のつもりだったと思うのだけど。
体が反応してしまった。
落ち着かないと…いけない。
僕たちは、アラゴさんの家に案内された。
村の入口では人間を追い返すためか、迫力が凄かったけど仲良くなるとお節介なくらいに優しい。
地図を貰ったり、食事をご馳走になった。
夜になり、部屋を案内された。
広めの部屋で大きめのベッドが一つある。
僕とミーちゃんは一緒の部屋でいいだろ?とアラゴが言う。
恋人同士なら、一緒に寝るのが普通なのだろうけど。
僕はチラリとミーちゃんを見た。
あれ、ミーちゃん照れてない?
何でだろ?
アラゴは自室に戻ったようだ。
「今宵…とうとうワシは友樹と結ばれるのじゃな…」
「はあ?…いやいや、そんな事しないし」
窓の外は真っ暗で、室内は燭台のほのかな明かりのみ。
ロマンチックな雰囲気は恋人にはピッタリだけど。
「抱かないって事は、ワシの事が嫌いなのか?」
「そんな訳ないよ」
何で両極端なんだろう。
エッチしないから嫌いだと思われているの?
判断基準が理解できない。
猫だからなのだろうか。
「一緒に寝るって言っても、エッチな事はしないからね。僕はまだ十五歳なんだよ」
そもそもミーちゃんは猫なんだ。
猫じゃなかったら僕は彼女を抱いていたのだろうか。
二十歳に見えるお姉さんを?
イヤイヤイヤ、ないでしょ。
「もう十分、大人だと思うがの」
今のミーちゃんは刺激的だ。
白い手足はスラリと伸び、背が高くてどこかのモデルよりも美しく、漆黒の髪は艶やかでいい香りがしている。
正直、目の毒だ。
僕は興味のないふりをして、彼女に背中を向き寝る事にした。
「明かり消すよ。おやすみ」
テーブル上の燭台の明かりを消した。
部屋が漆黒に包まれる。
「おやすみ…友樹のばか…」
背中から小さく呟きが聞こえた。
ごめんよ。
ミーちゃん。
ミーちゃんが朝からムスッとしている。
昨日断ったからなのだろうか。
白い腕が後ろから伸びてきて、抱きつかれた。
「み、ミーちゃん?」
突然の事で驚いた。
柔らかい感触が背中に当たっている。
「ワシの事、女として見てくれていないのか?」
「ミーちゃんは大事な家族だよ」
実は昨日、興奮して眠れなかった。
家族と言っておきながら、女性として意識しているのかもしれない。
体は正直なんだよね。
「そうか…ワシでは友樹の恋人になれないのかのう。猫じゃからな」
ミーちゃんの声が暗い。
正直、自分でもよく分かっていないんだ。
どうしたらいいのだろう。
「猫じゃなかったら…と思うと自分でも分からなくなるよ」
ミーちゃんが一人の女性だったとしたらどうなのか。
仮定をしても仕方がないのだけど。
ドアを開けて、アラゴが部屋に入ってきた。
「はぁーお前ら、なに朝から痴話げんかしてるんだ?人間だの猫だのもうどうでもいいだろ?」
「どうでも良くないよ」
「全く、凄えなって感心してたのに…あまり気にすんな。朝飯食うか?」
アラゴがいうとそんな気もしてくる。
僕が考えすぎなのかな。
もう、元の世界に戻れないのだから、自分の気持ちに素直になったほうが良いのかもしれない。
この世界は色々な種族がいるようだから。