表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/22

07 獣人の村

「こんなところに村があるなんて…」


 深い山奥に村はあった。

 丸太を重ねただけの簡素な家々。

 人々の頭に耳と尻尾のようなものが見えた。


 獣人だろうか?

 薪を運んだり、農作業をしている。


 村の入口で、槍を持った一人の獣人が立ちふさがった。

 茶色の耳は丸く、短い尻尾がふさふさしており背が高くてがっしりとした体格。

 ギラリと銀色の眼光が光っている。


「悪いが、人間は立ち入り禁止だ。この村は獣人しかいないものでね。みなが怯える。引き返してくれ」


 熊の獣人が、槍を横にして僕たちの行く手をはばむ。


「ミーちゃん…」


 僕は彼女に視線を送る。

 ここまで歩いてきたのに入れないなんて。

 せめて一休みしたい。


「ワシは人じゃない。猫だ」


「は?どう見てもお前、人間だろう?」


「仕方ない…『魔法解除マジックキャンセル』」


 魔法の光の粒子が、ミーちゃんにクルクルと絡みつく。

 ミーちゃんはみるみる縮んでいって…同じ場所に黒猫が佇んでいた。


「これで良いか。ワシはこれが本来の姿じゃ」


「…お前変わっているな。好き好んで人に化けるなどと。しかも獣人ですらないのか」


「愛しの者が人なのでな」


 金色の瞳はちらりとぼくを見る。


「み、ミーちゃんてば…」


 恥ずかしすぎるんですけど。


「そういう事か。仕方ねえな。前の姿に戻っても良いぞ。それと今回は特別だからな」


 僕たちは、村の中に入る事を許された。





「ほおー。お前たちが、異種族同士のカップルか」


 ミーちゃんは再び女性の姿になった。

 黒髪の彼女と、腕を組んで歩く。

 少し恥ずかしいな。


 村の中を二人で歩くと、物珍しさなのか村人たちが寄ってくる。

 村人はウサギの耳や猫の耳、様々な獣人がいるらしい。


「猫が人間を好きなんだって?変わってるな」


「泊るところに困っている?なら家に来ればいい」


 村人たちはみな親切で声をかけてくれる。


「この村に、ずっとここに住んでもかまわないぜ。アンタたちみたいのだと、他の場所は生きにくいだろうからな」


 門番に立っていた獣人アラゴ。

 今まで立ち寄る人間はロクな人が居なかったらしい。

 だから風当たりが強かったのか。


 逞しい体つきなのだが、可愛らしい耳と尻尾が何とも言えない。

 本人には悪いが可愛くて仕方ない。

 触って撫でてみたい。


 僕って動物好きだったんだな。


「ダメじゃ友樹。今、あの男に触りたいって思っとるじゃろ?彼はプライドが高いから怒り出すぞ?」


 僕が、アラゴの耳と尻尾をジロジロ見ていたのでバレたらしい。

 もふもふしていて柔らかそうなんだもん。


「友樹は今、猫のワシを見るのと同じ目をしとるからな。触るならほれ、こっちを…」


 僕は彼女に手を掴まれて、そのまま彼女の豊満な胸に手を押し付けられた。

 マシュマロのような柔らかい感触。


「男はこっちの方も好きじゃろ?」


 ゴクリ。

 誤って変な気を起こしそうだ。


「ちょ、ちょっと…何もこんな人前で…」


 何でミーちゃんてこんなに積極的なんだ?

 嬉しいけど…困っちゃうよ。

 手を離さないといけないのに、胸に手が吸い付いたようになってしまった。


「お二人さん、仲が良いのは分かったからよ。今晩は俺の家に泊まっていけ」


 アラゴが見かねて、僕たちを家に案内する。





 家に入って、僕たちが町を探していると言うと。


「町に行きたいだと?方向が逆じゃないか。しかも遠回りをしているぞ。ちょっと待ってろ地図持ってくるから」


 アラゴが部屋の奥から、羊皮紙で書かれた地図を出してくれた。

 山と川、大雑把な町くらいしか書いていないが無いよりはだいぶ良い。

 地図によると、最初に行ったハコベダ村近くに町があったみたいで。

 わざわざ山を登る必要は無かったようだ。


「すまんのう。ワシが見落としたばかりに…」


 千里眼スキルは、遠くは見通せるようだが、俯瞰ふかんして見えないのかもしれないな。

 僕は、ずっとミーちゃんに頼ってばかりだから責められない。


「いや、ミーちゃんの所為じゃないよ。知らない所だもん。迷って当然だよ」


「お前ら、一体どこから来たんだ?地図を持っていないなんて無謀すぎるぞ」


 僕は、アラゴさんから地図を貰った。

 何処から来たって訊かれても、正直に言えないよね。

 異世界から来たなんて。


「ワシらは異世界から来たんじゃ」


「ミーちゃん??」


「ほう、異世界人か。聞いたことあるぞ。人間の国では召喚の魔法を使って呼び寄せるのだとか…勇者ってやつか?」


「全然違います!僕たちは、たまたまここに来たというか…」


「恋の逃避行じゃよ」


「ははは、面白い。そういう事にしておいてやろうか」


 僕は、アラゴさんにバシバシと背中を叩かれた。

 結構力強くて痛い。

 全く、ミーちゃんが言うと冗談に聞こえないんだよね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ