04 策略
「疲れたー」
ミーちゃんは、バフッとベッドに体重を預ける。
用意された寝室で僕はミーちゃんの隣に座る。
「ごめん。僕が未熟だから…」
「不可抗力だから仕方ないのう。謝ることは無いぞ」
「でも凄いね。ミーシャって名前とっさに思い付いたの?」
「ああ、あれは本名じゃ」
「本名??」
「…それより、あのザッハの奴何か企んでおるようじゃの」
何か隠しているような気がするけど、問い詰めないほうが良いかな。
きっといつか話してくれるだろうし。
「企むってぶっそうだなあ」
親切に家に泊めてくれたのだから、疑う事はしたくないんだよね。
村の手伝いから戻ってくると、ザッハが一人いて部屋で待ち構えていた。
「これ、何ですか?」
目の前に金貨の入った革袋を渡された。
ずっしりと重い革袋。
金貨の価値は知らないけど、かなりの金額なのは分かる。
「ミーシャと別れろ。俺とミーシャは付き合う事にした。それは手切れ金だ」
そんな話、全然聞いていないんですけど。
「ミーちゃんから聞いていないのだけど?」
「これから話をするつもりだ。これだけ金があったらしばらく遊んで暮らせるだろう?」
彼女の意志は関係ないのか。
良い人だと思っていただけに、イラっときた。
「一体、何をやっておるのじゃ?」
彼女が、部屋に入ってきた。
ザッハを一瞥して、僕の隣に来る。
「丁度良かった。ミーシャ、俺と一緒に暮らさないか?お金は沢山ある。沢山、愛してあげるよ」
「愛?」
「そう、俺は君の事が好きなんだ。是非一緒に暮らしてほしい」
「断る」
「だから…ってええ?俺の誘いを断るだと?」
信じられないと言った表情を浮かべるザッハ。
今までも同じ事を他の女性にしていたのだろうか?
「な、何でだ?何もせずとも、裕福な暮らしが手に入るのだぞ?」
「別にいらん。ワシは友樹がいればそれでいいのじゃ。ワシは友樹の事を愛しておるのじゃからの」
「え?ちょっと待って…ミーちゃん?」
「ワシの事嫌いか?」
ミーちゃんは、僕の眼前に顔を近づける。
彼女の口が僕の唇に触れた。
え?えええ?
ザッハは肩を落として、床に座り込んでいた。
「ミーちゃん…」
「ごめん、ごめんて」
僕は、ミーちゃんに必死に謝られていた。
「いくら演技でも接吻はやりすぎじゃったよな。いくらでも謝るから…何か、してほしい事はあるか?」
愛してる…のくだりも嘘だったという事か。
友情はあっても恋愛感情はないのだろう。
変な話だけど、僕はがっかりしていた。
「別にいいよ。悪い気はしなかったし。それより、直ぐにこの村から出て行ったほうが良いかもね」
ザッハは村長の息子。
何を言ってくるか分からない。
「ワシの気が済まんのじゃ」
「だったら…もう一度キスしてくれる?僕、初めてでよく分からなかったから」
この感情が何なのか、ハッキリしそうな気がする。
「友樹?ああ、お安い御用じゃ」
今度は優しく唇が触れ合う。
軽く触れただけなのに、電流が流れるような刺激。
「はぁ…」
無意識にため息が漏れた。
この感じは…。
「そうか。接吻は初めてだったのじゃな。悪い事をした」
心臓がドキドキと高鳴っている。
僕、猫のミーちゃんを好きになってしまったのだろうか。
今は人間の姿なのだけど。
「ううん。断るのに恋人の方が分かりやすかったからだよね?」
「それもあるが…友樹に、一度触れてみたかったのじゃよ」
頬を染めて僕を見つめるミーちゃん。
その表情はまるで恋する乙女のようだ。
「ワシが本当に愛する者じゃからな」
僕はミーちゃんに抱きしめられていた。