38 喧嘩 1
*** 日下部 沙也加 視点
玄関が騒がしい。
何事かと思ったら、友兄をめぐって取り合いをしていた。
え?何?信じられないんですけど。
友兄ってモテる人だったの??
「ただいまなのじゃー」
ミーちゃんが、肩をうなだれて家に入ってきた。
友兄を迎えに行くって、意気込んで学校までの道先を訊いてきたのだ。
友兄と一緒に帰って来るはずなのだけど。
「どうしたん?ミーちゃん」
「友樹に悪い虫が付いたのじゃ…ワシはどうしたらいいのじゃ…」
悪い虫ねえ。
友兄はミーちゃんにぞっこんだから、心配しなくても平気だと思うけど。
彼女のミーちゃんとしては心配なのかもしれない。
「ワシが彼女を学校まで魔法で転移させたら…怒られた。初めてじゃ、あれほど怖い顔は…友樹に、嫌われたのかもしれんのう」
転移魔法?
一般人に魔法を掛けたのだろうか?
そりゃ、わたしだって怒るわ。
ていうか、ミーちゃんてこんなポンコツだったっけ?
普段ならこんな事しないと思うのだけど。
「うーん。謝ろう。それしかないよ」
「ワシ、悪い事しとらん」
そこからか。
「ミーちゃんさ、魔法の無い世界でいきなり転移されてみなよ?自分だったらどう思う?」
「ワシ?魔法が無いって…そんな事あるはずが」
全く理解していない。
どうやら説得が長引きそうだわ。
わたしは、自室にミーちゃんを招いてじっくり話をする事にした。
*** 日下部 友樹 視点
「ただいま」
「おかえり、友兄大変だったね」
「ああ?ミーシャから聞いていたのか」
しょんぼりとした、ミーシャ。
僕が注意しようとしたけど、元気が無い。
「ミーちゃんには代わりに叱っておいたから。ありえないでしょ、転移魔法って」
「……ごめんなのじゃ」
「それ、僕じゃなくて木崎さんに謝るんだ。彼女は怖い思いをしただろうから…」
ミーシャがどうして、あんな事をしてしまったのか分からない。
しばらく頭を冷やしてもらったほうが良いな。
「少し、冷却期間を置こう。ミーシャは学校に来ないように。それと僕にあまり近づかないでくれ」
「と、友樹?」
「友兄…それは」
「しばらく、天界に帰ってもらっても構わない」
「解ったのじゃ。しばらく帰る」
「ミーちゃん?」
ミーシャの姿はその場から居なくなっていた。
「友兄…言い過ぎだよ」
「いくら神様って言ったって、今回のはやり過ぎだ。木崎さんも怖い思いをしただろうから」
「あら、どうしたの?貴方たち?ミーちゃんは?」
母さんが、僕と沙也加を見ている。
「ミーシャはしばらく実家に帰ったんだ」
「そう?また帰って来るのよね?」
僕も頭に血がのぼっていた。
少し、言い過ぎたのかもしれない。
*
夜になり、一人きりのベッドが寂しい。
いつも隣に居た黒猫がいない。
「ミーシャ…帰ってくるよね?」
僕が追い出したのだけど、もう寂しくなっていた。
彼女の、去り際の寂しそうな横顔を思い出し、胸が痛くなった。




