34 嫉妬
「へえー。彼女を見ていたら、授業中に偶然目が合ったと。…このシュワシュワ好きだのう」
僕と木崎さん、ミーシャはファーストフード店にいる。
ミーシャにはコーラを飲んで座ってもらった。
彼女の最近の好みは炭酸飲料らしい。
少しは機嫌が直ってくれると良いのだけど。
駅前の店は、学校帰りの学生で溢れかえっている。
「まあ、たまたま日下部くんと目が合っただけだし、気にしないで?ほら、そういう事もある…よね?」
「そ、そうだよ。たまたまだよ」
「ふうん?たまたまのう」
ミーシャが僕を睨んでる。
家に帰ったら理由を説明するつもりなんだけど。
こういう時、念話とか使えたら便利なのになぁ。
「……」
「……」
「……」
店内には明るいポップな曲が流れていて、僕たちは口を閉ざしていた。
…この空気どうしようか。
どうしようか考えていたら、木崎さんがミーシャに話を振った。
「え、えっと、ミーシャさんって凄く美人さんですね…外国の方ですか?それにしては日本語がお上手で…あっ!私、木崎かなめと言います。日下部くんのクラスメートで…」
ああ、自己紹介をすっかり忘れていた。
ミーシャは黒髪だけど、肌は白いし眼は金色だし…日本人っぽくないよね。
「ワシはミーシャじゃ。女神をやっておる。姿は人間に似せておるが…」
「「わーーーーっ」」
僕は慌てて、ミーシャの口を手で塞いだ。
いきなり何て事を言うんだ。
女神だなんて、信じてもらえないだろう。
「ミーシャさんは女神様なんだ。じゃあ、日下部くんは最強の彼女を味方につけているんだね」
*
「最強の彼女か。木崎さんは良い事を言うのう」
帰り際、ミーシャは上機嫌になっていた。
木崎さんと二人で居るところを見つかった時は、どうしようかと思ったけど機嫌が直って良かった。
ミーシャと、やっと二人きりになったので、僕は教室での出来事を話す事にする。
薄暗い路地を歩く。
街灯がチカチカと切れかかっている。
「僕、感覚が鋭くなったみたいなんだよね。彼女を教室で見てしまったのも匂いに敏感になったから…つい」
香水の匂いに気が付いたから、つい見てしまったんだよね。
「確かに甘ったるい匂いがしたのう。だったら、最初からそう言えば良かろう…ワシは、変な誤解をしてしまったではないか。でも、その様子だと他にも変化があるかもしれんな
…でも友樹が、他の女子と仲が良いのは嫌じゃのう」
ミーシャの頬はぷくっとむくれた。
あれ?僕に嫉妬してくれているのかな。
「木崎さんは学校でのただのクラスメートだよ。僕の好きな人はミーシャしかいない」
僕は、彼女の華奢な肩を優しく抱き寄せる。
「そうだといいのじゃがな。やはりワシも学校に行くべきでは…」
ミーシャはまだ納得していない様子だ。
ぶつぶつ呟いていて、小さな声はよく聞き取れなかった。
「おかえりー。遅かったね。あれ?二人とも一緒だったの?」
沙也加がエプロン姿で、玄関まで出迎えてくれた。
「偶然、途中で会ったんだよ」
「黒いしゅわしゅわをご馳走になったぞ」
「デートといえば、デートかな?」
「あっ!アイスを食べればよかったのじゃ!」
「ミーちゃん。冷蔵庫にハーゲンダッツ入ってるよ。ってご飯食べてからね」
「「わーい」」
「ご飯食べてからにしなさい!」
台所に向かったミーシャは、沙也加に怒られてしょんぼりしている。
女神と言ったけど、人間ぽくてとてもそう思えないよ。




