03 ハコベダ村
「ミーちゃんさ、何で魔法が使えるの?」
「ああ、それは転移する時に神様から貰った能力なんじゃよ」
神様?僕、会ってないけど?
背中越しに、声が聞こえる。
僕はまだミーちゃんに背負われたままだ。
「友樹が眠っておった時に貰ったのじゃ」
「そうなの?僕も神様に会いたかったな…僕も魔法使いたいし」
「友樹も使いたいのか?」
「そりゃ、せっかく異世界に来たんだから使ってみたいじゃない」
「そうか…村に着いたようじゃの」
木の看板に異世界の文字が書いてある。
「ハコベダ村。あれ、読める。何でだろ」
「転移した時に、言語理解能力も神につけてもらったからの。相手の言葉も分かるようになっておる」
「お前ら他所もんだな。冒険者か?」
茶髪の中年男性が声をかけてきた。
腰には長剣がぶら下がっている。
「いいや。冒険者ではないが、今日泊まるところを探しておっての。どこか無いだろうか?」
「そうか、村長に訊いてくるわ。ちょっとそこで待ってろ」
村の入口付近で、しばらく待つ。
「何だかあっさり泊めてくれそうだね」
「友樹を見て、怪我をしたと勘違いをしたのかもしれんな。怪我の功名ってやつじゃの。流石に重いのでそろそろ降ろしたいのじゃが」
僕は、大きな石の上に降ろされてしまった。
「流石に疲れた…」
ミーちゃんが肩をぐるぐる回していると、中年男性が戻ってきた。
今度は中年男性が僕を背負う事になった。
うーん。
筋肉で固い男性の背中よりは、柔らかいミーちゃんの方が良かったな。
僕とミーちゃんは村長の家へ案内された。
空き家で良かったのだけど。
村長の息子が、ちらちらとミーちゃんを見ている。
ああ、そういう事か。
ミーちゃん、黒髪がミステリアスな雰囲気で美人さんだもんなあ。
気に入られたのかもしれない。
「ところで、君たちはパーティ仲間なのかな?」
「えっと…」
「友達です」
僕が考えあぐねていると、直ぐにミーちゃんが答える。
友達…まあそうなんだけどね。
正直に話すことも無いだろうし。
「どうした?友樹。ワシら友達じゃろう?」
僕が怪訝な顔をしていたのか、ミーちゃんから訊ねられた。
「変わった喋り方をする女性ですね。良かったらお名前を教えて頂けませんか?」
「…ミーシャじゃ」
「トモキとミーシャですね。俺はザッハです」
名前を一瞬で考えたのだろうか。
ミーシャ綺麗な名前だ。
村長のお宅は、客人用の寝室があってそこへ案内された。
他の村人の家よりも広いので余裕があるのだろう。
「ところで、トモキは怪我は大丈夫なのですか?村で回復魔法を使える者を呼んできましょうか?」
「良いのですか?よろしくお願いします」
「治してもらえるのはいいが、ワシら金持っとらんぞ?」
「お金は要りませんよ。代わりに村で何か手伝いをしてもらえれば」
灰色髪のザッハが、ミーちゃんに向かってニコリと笑った。
*** ザッハ 視点(村長の息子)
「ミーシャか。ギルが言った通り、見たことが無い美人だな。口調が変わっているがそれも愛嬌と思っていいだろう」
俺は、ギルが連れてきた旅人のミーシャを気に入った。
「ザッハ坊ちゃん、上手くやって下さいよ?」
「分かっている」
ミーシャは今まで見たことが無いタイプだ。
冒険者が度々村を訪れるが、男性と一緒の女性は付き合っているのがほとんどだ。
今回は友達と言っていたから、深い仲ではないのだろう。
彼女を、取り巻きの一つに加えても良いかもしれんな。
「男の方は、適当に金でも握らせておけばいいか」
金を握らせれば、大概の男は言う事をきく。
そうやって今まで、女性を捕まえてきた。
飽きたら捨てればいいだけの話だな。




