29 モテ期?
「え、えっと…」
何故か、女子三人と一緒に帰る事になってしまった。
すれ違う人たちは奇妙な物を見るような目で二度見している。
そりゃそうだろう。
僕は、三人の可愛らしい女子に囲まれているのだから。
右隣は、木崎要さん。
教室で告白してきた人だ。
髪が短くてボーイッシュな感じ。
左隣は、青木美結さん。
木崎さんの友達で肩まで髪が伸びている。
後ろを歩いてくるのは、相沢まことさん。
眼鏡をかけていて髪を一つに縛っている。
よく教室で本を読んでいる。
「みゆは部活じゃなかったっけ?」
「かなめと二人きりになるんじゃないかと心配で…さぼっちゃった」
「さぼるのは良くない」
相沢さんは歩きながら本を読んでいる。
歩きスマホは見るけど、歩き読書はあまり見ないな。
「日下部くん、相沢さんの事見てる。私の事見てよ」
「歩きながら読書って危ないと思って。転んだら大変だし」
僕は心配しているだけなのに、木崎さんが文句を言う。
「あれ、友樹の友達かの?」
家の前まで来ると、玄関前でミーシャが立っていた。
たまたま外に出て帰ってきたところらしい。
手には買い物袋を持っている。
「日下部くんのお姉さん?」
「それにしては違うような…」
「外人さん?」
「ミーシャ、訊いてよ?今日ちょっと変なんだよ」
僕は三人と別れて、家に入ろうとしたのだけど。
「「「おじゃまします」」」
女子三人は、何故か僕の家に上がり込んでいた。
一体何でこんな事になったのだろう。
「友樹はこんなにモテたのじゃのう」
「違うから」
「友兄ってこういう人だったんだ…」
沙也加に冷たい目で見られている。
三人にはリビングで座ってもらい、冷たいお茶を飲んでいる。
「お母さん、日下部君を私に下さい!」
「ちょ、かなめ抜け駆けは…」
「それはずるい」
キッチンにいる母に、木崎さんが話し掛けた。
キョトンとした顔で母さんが言う。
「これは魔法かしらね?」
「お母様、上手いことを言う。恋の魔法ですね?」
魔法ってそんな訳ないだろう?
僕は魔法が使えないのだから。
ミーシャは壁に寄りかかり、腕を組んで考え込んでいた。
「友樹、魅了魔法使っておらんよな?」
「使えないし、ミーシャも分かってるでしょ?」
「魔法ってガチの魔法?」
「お姉さん魔法使えるんですか?」
「興味深い」
「どうも魔法の気配を感じるのじゃが…強力な奴を。あやつの仕業かのう」
『睡眠魔法』
ミーシャは三人に魔法をかける。
女子三人は座ったまま眠ってしまった。
「眠っている間に、三人にかかっている魔法を解くとするか。先ほどの会話の記憶も消しておかないとじゃな」
*** 相沢 まこと 視点
「あれ?ここどこ?」
「えっと…」
「坂之下町公園じゃないかな」
気が付くと知らない場所のベンチに座っていた。
服は制服だし、学校帰りだとは思うのだけど。
木崎さんと青木さんは友達だから分かるとしても、自分は友達でも何でもない。
何故一緒にいるのかさえ分からない。
「相沢さんだよね?悪いけど、学校まで道分かる?」
「スマホの位置情報で見れば家に帰れる…と思う」
「あー成程。分かったありがとう」
木崎さんに話しかけられ、訊かれたから答えた。
道に迷った時はスマホで探すのが一番だ。
木崎さんと青木さんはスマホで現在位置を調べ始めた。
自宅を入力すると、家に帰れると思うけど。
「あー分かった。まことちゃんありがとう」
「え?」
いきなり名前呼び?
「ああ、ごめんね。みゆって直ぐ名前で呼ぶんだ。ちょっと馴れ馴れしいよね」
「別に大丈夫…」
青木さんってこんな性格なんだ。
「良かったら、一緒に帰ろうよ。家が近くだと良いけど」
「うん」
今まで話したことが無い人たち。
何故…知らない所に一緒に居たのかは疑問だけど、仲良くなれるだろうか?
「相沢さんっていつも本読んでるよねー。気になってたんだ」
「そうなの?」
木崎さんが、笑いながら話し掛けてくる。
話してみると意外と話しやすくて。
学校へ行くのが少し楽しみになった。




