26 報復
*** 伊藤(友樹の同級生) 視点
「はぁはぁ…酷い目にあったぜ」
「まさか、店員が出てくるとはな」
ショッピングモールで、思い切り走った。
こんなこと初めてだな。
「もう大丈夫だろ」
追いかけられている訳では無いのだが、店から遠く離れたので一息をつく。
汗を手で拭って、壁に寄りかかった。
「冷たいものでも飲むか?」
俺たちは、近くにあったファストフード店に入った。
まだ昼前なので、混んでいないようだ。
コーラとポテトを注文し、席でつまみながら喋る。
「あんな美人オレ初めて見たぜ。学校でも中々いないだろ」
日下部と仲良さげな黒髪の女性。
かなりの美人で、瞳の色が金色だった。
外国人なのだろうか?
陰キャのアイツとは明らかに不釣り合いだ。
「珍しく反抗的だったものな。アイツどうしちまったんだ?」
「女の前でカッコつけたかったんじゃねえの?」
「ああ、そういうこと」
アイツも男だって事か。
そういう気持ちは分からなくもないな。
「明日、学校で憂さ晴らししようぜ」
「はは、そうだな」
田中も俺と同じで他人を虐めるのが好きらしい。
世の中弱肉強食だからな。
学校なんて、教師に良い面見せておけば良いんだ。
「伊藤は優等生なんだからすげえよな。先生から一目置かれてるし、オレは勉強はからきしだからな」
「学校の成績が良いからってどうってことないだろ」
「嫌味かよそれ」
成績が良いと、先生は可愛がってくれ特別扱いされる。
多少悪い事をしても、見逃してくれるからな。
*** 日下部 友樹 視点
翌日。
学校へ登校すると、僕はいきなり伊藤たちに呼び出された。
「昨日はよくもやってくれたな!」
未使用の教室で、伊藤と田中に囲まれている。
朝から呼び出されたけど、授業は受けなくて良いの?
というか、明らかに逆恨みだよね?
「あの…授業は…」
「イライラしてやってられっかよ。お前をぶちのめしたら教室に戻る」
教室には戻るんだ。
真面目なのか不真面目なのか分からない。
僕は、襟首を掴まれ持ち上げられて顔を殴られる。
「「ゴン!」」
「痛った…」
伊藤が右手をプラプラしている。
「ん?どうした」
「顔を殴ったんだが…こいつ石みたいに固いぞ。今までこんな事なかったのに」
伊藤は、苦虫を噛み潰した顔だ。
実は、昨日ミーシャに防護魔法をかけてもらっていたんだよね。
翌日、逆恨みして虐められるかもしれないからと。
予想通り、僕は呼び出されていた。
魔法は数日は持つらしいから、そのうちに諦めてくれればいいけど。
「「ガツン!」」
鈍い音がした。
どうやらまた殴られたらしい。
痛くないから、殴られた感覚が全くないんだよね。
何かが、ぶつかった感触はあるけど。
「な、なんだこれ?どうなってんだ?手の方が怪我をしそうだ」
数分、僕は殴られ続けたけど、全く痛くない。
伊藤たちは顔がみるみる青ざめていく…。
「「「ば、バケモノだ!!」」」
そのうち空き教室から出て行ってしまった。
勝手に殴っておきながら、バケモノ呼ばわりされてしまった。
もうこれで手を出してこないだろう。
「あ、教室に帰らないと。目立つから、授業終わってから戻ったほうが良いかな」
それから、予想通り伊藤たちは僕に手を出してくる事はなくなった。
*
「伊藤たちは怖がって、逃げ出したよ」
夕方、家に帰った僕はミーシャに学校の事を話していた。
「ふん!いいきみじゃわい」
「友兄、虐められてたんだね…だから友達がいなかったんだ」
そういえば、沙也加に学校で虐められている事は言ってなかった。
心配されるのが嫌だったからね。
「友樹、殴り返したのか?」
「いいや?暴力は嫌いだからね」
「もったいないのう。防護魔法はもうすぐ切れるのじゃから、今のうちに殴っておけばいいのに」
「……」
ミーシャは物騒な事を言うなあ。
学校では、相変わらず友達はいないけど過ごしやすくなった。
ミーシャには感謝しないとね。




