20 病気の正体
「魔法使いさま」
地上に降りてしばらくすると、白いエプロンを着た中年女性が来て、深々と頭を下げてきた。
「丁度お見かけしたので、声をかけてしまいました。どうか、主人を助けて下さい」
空を飛んでいるのを見られていたらしい。
女性の言っていることは、ただ事じゃなさそうだ。
「魔法使いは僕じゃなくて、こちらの彼女だよ」
僕はミーシャに目を向ける。
「ん…ひとまず用件を聞くだけじゃぞ?一晩泊めてくれぬかの」
「分かりました。ありがとうございます」
小さい小屋に案内される。
「家は貧しくて、このような物しかなくて」
夕食を用意してもらった。
固い黒パンに、野菜のスープ
気持ちだけでありがたい。
夫が病気の為、家を空ける事もできないらしい。
彼は床に臥せっていて、しばらく寝たきりのままなのだとか。
「魔法で、病気を治してくれというのは無理じゃぞ?」
「え?何で?」
僕はミーシャに訊ねた。
「魔法は、怪我は治せるが病気は薬じゃないと治せんしな」
「そうなのですね…医者にかかるにも、恥ずかしながらお金が無くて…」
「一応、状態は確認するがの」
「よろしくお願いします」
顔色の悪い、白髪交じりの中年男性がベッドで横たわっている。
瞼を閉じて眠りについているようだった。
「『鑑定』」
ミーシャは男性に鑑定魔法をかける。
病人の状態が見られるだけでも凄いと思うけど。
「…旦那は、最近何か変わったものを食べなかったか?」
「そういえば、病気に良いと聞いて近所の人に珍しい果実の実を貰いましたが…」
「…他には?」
「度々、同じ方から食料を頂いたりしてますけど?」
「今後、その者から何か貰っても食べないほうが良いかもしれんな。代わりにこれを食べさせてあげると良いじゃろう」
ミーシャが、空間に手を突っ込んで何かを取り出した。
「メープルシロップ?」
瓶に入った甘い液体でホットケーキにかけるものだ。
あれ?
僕が持っていた物のような気がする。
「はちみつほどではないが、栄養があるからの。それと友樹、回復ポーション作ってもらえるか?」
「うん。いいよ」
ポーションをイメージすると、手の上に瓶入りのポーションが出現した。
ミーシャに手渡す。
「これも飲ませると良いじゃろう。あと、体調がよくなったら適度な運動もな」
「勝手に、友樹の持ち物を渡して悪かったの」
用意された寝室に入った時、ミーシャに謝られた。
「メープルシロップの事?別に良いよ。すっかり忘れてたし。もしかして僕の持ち物全部持ってきてたの?」
「まあ、そういう事じゃ。アイテムボックスは無限に収納できるからの」
「それにしてもよく分かったね。病気治せないって言ってたのに」
「栄養失調じゃったからの。栄養をつければ元通りになるじゃろうて」
「貰いものがどうって言ってたのは?」
「食物アレルギーだと思うのじゃが…アレルギー物質を食べるとやっかいじゃろ?最悪死ぬこともある」
ああ、そういうことだったのか。
「この世界だとそういう概念がないのじゃろうな」
念のため、数日様子を見ていたが男性はみるみる元気になっていった。
もう心配ないようだ。
「ありがとうございました」
僕たちは、旦那さんと奥さんに何度もお礼を言われて別れる。
地図を貰い、近くの町に行ってみる事にした。
「湖がキレイな町なんだって。どんな所だろうね」




