19 逃避行
*** 聖女キッテイ 視点
私は水晶で、引き続きミーシャを覗き見ていた。
同じ姿勢で長時間座っていると、少し疲れてくる。
『そろそろ姿を現したらどうかの』
ミーシャが、彼らの様子を伺っていた男たちに近寄っていた。
建物の陰に隠れていた男、数人が慌てて逃げ出そうとしている。
「うわーバレバレじゃない。王城の密偵って大したことないわ」
「いや、そうじゃなくてミーシャが規格外なんだと思うぞ」
私が言うと、タツヤが反論する。
タツヤって、ミーシャの肩をやたらと持っている気がするんだけど。
「好きだからって、彼女をひいきしているんじゃないの?」
「バカ、オレ以上の能力者だって言っているんだ」
勇者以上の能力?
この世にそんな能力を持っている人がいるはずが無いじゃないの。
ミーシャは元猫だという彼の推測は私には全く理解できない。
「オレには魔法の攻撃が効かない。女神の加護なのだろうよ。逆に回復魔法も効かないときたもんだ…だが彼女に関しては別だ。彼女の魔法がオレには通用する。つまりオレ以上の能力者ってことだ」
「なにそれ、世界最強ってこと?」
『覗き見ているお前ら。不愉快だから切るぞ』
「え?」
突然、ミーシャを映していた水晶が光を失った。
「嘘…見られている側から映像を切られるなんて…ありえない」
「だから言っただろ。規格外だって」
あながち、彼の言った事は嘘ではないのかもしれない。
*** 日下部 友樹 視点
「ミーシャ…」
目の前に拘束魔法で、グルグル巻きにされた男たちがいた。
敵には容赦しないな。
「『何でワシらをつけていたか教えて貰えるかの?』」
顔は笑ってるけど、目が笑っていない。
怖いんですけど。
「お、王から監視しろと命令がありまして…」
「おい、それは!」
事情を話し出した男は、困惑の表情を浮かべている。
「あれ?何で俺、喋ってしまったんだ…」
「あー尋問するのが面倒だからの。少し自白の魔法を使わせてもらったのじゃ。気に病むことはないぞ」
いつの間に魔法を使ったんだ。
ミーシャって敵に回すと怖いのかも。
「友樹。ワシが敵に回る事はないから安心せい」
「うん…そうだね」
「しかし、面倒な事になったのう。このままつけられるのは嫌じゃし、かといって…友樹逃げるぞ!」
「「えええっ?」」
僕は、ミーシャに手を取られ一緒に走り出した。
「『転移』」
場所が瞬時に変わり、緑の風景に一変する。
空気が爽やかになった。
「ここは?」
「獣人の村近くじゃよ。とっさに思いつく場所に移動したのでな」
僕たちは村の外に転移していたらしい。
王都から馬車で三日以上かかる場所だ。
「ここに来たってことは…ミーシャ、もしかして山を越えるつもり?」
「そうじゃの。国境を越えたほうが王国も手も出せなくなるじゃろうし…心配せずとも魔法で移動するから体力は使わんよ。後の事を考えれば、自力で越えたほうがいいのじゃがな」
「『浮遊』」
ミーシャが呪文を唱えると、足が地面から離れた。
眼下に森が広がっている。
「さあ、二人で楽しい空中散歩といこうかの」
僕は、ミーシャと手を繋いで遥か上空を飛んでいた。
今まで、見たことのない景色。
新鮮な空気。
「もう少し楽しみたいが、もう着いたようじゃ」
あっという間に楽しい時間は終わり、地上へと降り立つ。
山を越えた先はどんな所なのだろう。
「金貨ってこっちでも使えるのかな?」
ふとした疑問を口に出した。
「何とかなるじゃろ。たぶん」
国が変わると紙幣も変わる。
すっかり忘れていたよ。