12 行方不明の勇者
ん?
一体誰?
異世界に知り合いはいないはずだけど。
「え?悪い悪い。知り合いと間違えちまったようだ。黒髪は珍しいからな」
後ろを振り向くと、赤髪で鎧を着た男が立っていた。
鎧、重そうだな。
「勇者と間違えてしまって…」
赤髪の男は頭を掻いていた。
何だか嫌な予感しかしない。
「勇者?」
ギルド内がざわざわと騒がしくなる。
勇者さまが来ているのか!と声が聞こえてきた。
「君、ちょっとこっちへ」
「えええ?ちょっと何ですか?」
僕は赤髪に腕を引っ張られ、ギルドの外に出た。
路地の人気が無い場所へ。
「勇者が行方不明でね。今探している所なんだ。彼はよく居なくなるから」
「僕、その人に似てましたか?」
「背格好は似ているが、よく見ると全然違うな。アイツはもっと軽薄そうだから」
王城では探し回っていて、ここ一週間みつかっていないらしい。
異世界から召喚された勇者。
同じ日本人なのだろうか。
「人騒がせじゃな。その勇者ってやつは」
「本当ですよ。こちらは好待遇で尽くしているのに、何が文句があるのやら…っと、もし見かけましたら、フレンディ城へ連れてきて頂けると助かります。申し遅れました。わたくし第一騎士団のドラゴと申します」
どこかで聞いたような名前だ。
「黒髪で、背格好は友樹くらいの…変装しているとは思わないのか?」
「変装されていたら、探し出せませんね。困りました」
「何か…その勇者の持ち物があれば、探し出せると思うのじゃが。魔力感知って解かるかの?」
「ああ、その手がありましたか!早速城に戻ってやってみます。ありがとうございます!」
「えっと、ドラゴさん。その勇者って日本人ですか?名前とか…」
何故か召喚されるのって日本人って言うイメージなんだよね。
そういうアニメばかりだからなのだろうけど。
「ニホン?名前は「タツヤ」様です」
名前からして日本人らしい。
タツヤなんてありふれた名前だ。
某アニメで、昔有名だったキャラの名前だし。
「黒髪のタツヤさんだね。見かけたら知らせるよ」
今夜は町の宿屋に泊まることになった。
お城かぁ。
ヨーロッパに行ったこと無いからどんなものなのか想像つかないな。
テレビでしか見たことが無いし。
「城は王都にあると思うがの」
ミーちゃんって僕の考えを読んでいる時あるよね。
まあ別に良いけどさ。
宿の部屋は二人で一つの部屋。
別々に部屋を取ると値段が倍になるんだもの。
寝るだけだし、いいよね。
「部屋は一緒のわりに、何もしてこないからの。友樹の事がよく分からんわい」
僕はミーちゃんの事がよく分からないよ。
「ワシは友樹しか見ていないがの?」
金色の瞳が僕の顔に近づく。
ドキン!と心臓が驚いた。
最近の僕はドキドキしっぱなしだ。
どうしたらいいか分からない。
「ゆ、勇者って今どこに居るんだろうね?」
「さぁ?案外近くにいるかもしれんがの」
ミーちゃんから顔を反らした。
目を見ているとヤバい気がする。
トントントン。
「お客様、お体を拭くお湯をお持ち致しました」
僕がドアを開けると、宿の人が湯の入った手桶を持ってきた。
ん?何これ。
「この世界はお風呂が一般的じゃないんじゃよ。川で体を洗うか、タオルで体を拭くしかなくての」
「ではここに置きますね」
タオルとお湯の入った手桶が置かれた。
「ここで、体を拭くの?」
「そういうことじゃ」
「ミーちゃん先でいいよ。僕…後ろ向いてるから」
「ええ?一緒で構わんのに」
「僕が困るの!」
知らなかった。
お風呂って当たり前に入れると思っていたから。
この世界だとお風呂無いんだね。
「いつ見ても構わんぞ?それ以上の事でもいいが」
「…っ!何を言ってんだよ。ミーちゃんてば」
僕の後ろで、彼女が服を脱ぐのを想像すると色々とヤバイ。
見たい――けど見ちゃダメだ。
タプン!
水しぶきの音が聞こえる。
「はぁー。体を拭くだけでも気持ちいいのう…スッキリするわい」
そんな僕の気を知らずに、ミーちゃんは一人呟いていた。