【2】
昨日はロボットショップで二周刻待ち。
今日の礼拝も、そろそろ同じくらい経ったんじゃないかしら。
今は「ツェル」である彼女は、うっかり出かかった欠伸を噛み殺して、手をぎゅうっと握りしめた。
港街カナンのシンボルたる大聖堂は、今日も静かそのもの。平和なことこの上ない。敬虔な信者たちは姿勢一つ崩さず、皆長椅子の上で慎ましく両手を揃え、大司教の説法に耳を澄ましている。
ツェルはといえば、ひとり祭壇の脇に置かれた大きな飴色の椅子に座っている。ここは「女神の御子」の定位置だ。
ものすごく目立つ位置な上、お祈りよりも御子様に会いたい、なんて旅人たちも大勢やってくる。欠伸なんて許されない。
ツェルは吐き出せない溜め息を、小さな鼻からふうっと出した。
暇すぎる。でも、昨日のことなんて思い出さなければ良かった。うっかりダルジェのことまで思い出しちゃった。
いつものパターンからすると、次にハフラムで目覚めるのは二、三日後。ダルジェの消費期限はとうに過ぎている。簡易固着ではジェリーは一日しか形状を保てない。今ごろはすっかり溶けて、サジュナが片付けてしまっただろう。
せっかくおじいさまと一緒に選んだのに。一番形が良くて、一番いっぱい入っていそうなのを念入りに選んだのに。それなのに、あんなときにツェルに替わっちゃうなんて。
祭壇の上に立つ父が紡ぐ、すっかり聞き飽きた聖典の一節が眠気を誘う。
陽が高く昇ったことを、ステンドグラス越しの明るい光が示している。祭壇の後ろに鎮座する民家ほどの大きさもある巨大竪琴「オーヴェル」がその光りを照り返す。その後ろにそそり立つ、天井に届くほど大きな白い女神像も内から光輝いているよう。
でも、一番きれいなのはやっぱり、女神像が携える長い杖――その突端で煌めく大きな蒼い宝玉「蒼石」だ。
星のような点をうちに散りばめた大きな石。深い海のような、満点の星空のようなその色を窓明かりが透かして、ツェルの膝まで落ちてきて、ゆらゆらと揺れている。
ツェルはローブの裾を撫で、水面のような揺らめきに見蕩れた。
(もっと近くで見れたらなあ。でも、本物はもっともっと綺麗だって)
と、ふいに出入り口の扉が大きな音を立てて開き、ツェルは椅子から飛び上がった。
参列者たちがざわめき、入り口を守る聖堂騎士たちも身構えている。しかし、その構えはすぐに解かれた。
「団長。何かありましたか」
扉を開け放ったのは、騎士の甲冑を身に着けた大柄な男、ノイ・ス=エバン。この街の領主であり、かつ大聖堂を守護する聖堂騎士の長だ。
もっとも、領主としての務めは元々領主一族の息女であった妻が手腕を振るっており、彼自身はもっぱら「騎士団長」として街の人々から親しまれている。
彼は声をかけた騎士を手で制し、小走りで祭壇に向かってきた。祭壇の上の大司教、すなわちツェルの父がよく通る声でそれを諫めた。
「礼拝の最中ですよ」
「すまん」
団長はマントを広げて背後からの視線を断った上で、大司教に向け手で合図を送った。人差し指を海の方角に向け、親指で二度、胸を叩いてみせる。教会の総本山であるザンダストラ本国に関わる話だ、という合図だ。
大司教は静かに頷き、顔を上げて参列者に向けて微笑んだ。
「皆さん、ご心配にはおよびません。実は午後から領主様とお約束がありまして。礼拝がまだ終わっていないことをご存じなかったようです。こうしてわざわざ迎えに来てくれたものを追い返すのも忍びないですから、此度の礼拝はこちらでおしまいとさせてください。お話の続きは、夕礼拝のときに致しましょう。それでは御子ツェル・ト=リァン、お願いします」
腰を浮かせたままだったツェルは、「はい」と声を上げて祭壇に上がった。
入れ替わりに祭壇を降りた大司教は、控え室へと続く扉の前で騎士団長と声を潜めあっている。参列者には届かないが、ツェルにはぎりぎり拾える声だ。
「ノイ。もう少しやりようはなかったのですか。聖堂内は走らないでください。子供たちが真似をします」
「んな学校の先生みてえな小言は良いんだよ」
「学校ではこんな低俗なことは教えませんよ。せいぜい養児院と言ってください」
大司教の小言はさらりと聞き流して、騎士団長は身を屈めて大司教の耳元で何事か囁いた。
肝心なところが聞こえない。
ツェルは思わず後ろを振り返った。冷静沈着な大司教が大きく目を見開いていた。
「本当ですか」
「ああ。使われたのは普及光錘だ。折れたのが近くに転がってた。相当な瞳の持ち主なのは間違いねえな。白昼堂々とは、ずいぶん度胸のある鼠だぜ」
「猊下には」
「追跡の途中で伝令を飛ばした。で、門のところでさっそく返事を受けた。とっとと始末をつけろって言われると思っていたんだがな、なぜか俺やおまえと話がしたいと仰せだ。取り急ぎ元老院塔に向かうぞ」
光錘ですって?
そわそわと背後に気を取られるツェルの腕を、下に立つ誰かがくいと引いた。白に近い銀髪を持つ神官見習いの少女、テュナ。ツェルの幼馴染みで親友だ。
「ツェルさま。みなが待っています」
気がつけば壁際に沿って立っていた神官たちは祭壇前に並び、長椅子の信者たちは立ち上がり、じっとツェルを見つめている。
「あっ、あのっ」
驚いて声をあげたとき、うっかりローブの胸元に隠し持っていた兎のぬいぐるみが祭壇へ転げ落ち、ころころと転がって、信者たちが居並ぶ中央の通路で止まった。
列席していた信者たちの間に小さな笑みが広がる。ツェルの頬はかあっと熱くなった。頭が真っ白になり、言葉が浮かんでこない。最後のごあいさつをしないといけないのに。
神官のひとりによってそっと回収されてゆくぬいぐるみを、信者たちは微笑ましそうに見送っている。もう、最悪だ。
絶望のあまり泣き出しそうなツェルの耳に、下にいるテュナの落ち着いた呟きが飛び込んできた。
「今日もわたくしたちは、我が母レイェスの御心に……」
そうだ、そうだった。
ツェルは震えながら息を吐いた。泣いたって、この場をやり過ごすことはできない。
「……今日もわたくしたちは、我が母レイェスの御心に従いましょう。目の前の光糸を大切にし、その輝きがより揺るぎなきものになるよう、隣人に親切にしましょう。糸なきところには新たな糸を紡ぐように努め、初めて出会う人々にも喜んで手を差し伸べましょう」
壮年の司祭がやってきて、ツェルに向かって恭しく杖状の聖具を差し出した。ちょうどツェルの肘から親指の付け根くらいの長さをした木製の道具だ。持ち手のすぐ下の部分に丸く膨らんだ錘が付いている。「光錘」と呼ばれる教会の聖具だが、これは儀礼用の模造品で、本物とは違い特別な力はない。
ツェルは模造光錘を受け取った右手を動かして、右で一度、左で一度、軽く空を打つようにし、最後に左手も添えて、胸の前で垂直に立てて祈りを唱えた。
「今日も善き糸が紡がれますように」
「善き糸が紡がれますように。御子を信ずる我々を、母の蒼き光が照らしますように」
ツェルの言葉に信者たちが続く。軽く握った右手を胸に当て、その手を前に真っ直ぐ伸ばす「絆の挨拶」の所作を行う。
役目を終えたツェルは、傍らの司祭に光錘を戻しつつ、ぬいぐるみを回収した神官の様子を確認した。彼女は胸元にしっかりと抱え、控え室に続く扉の前に立っている。ツェルはちょっぴりほっとした。あの様子なら、無事、部屋まで届けてもらえるだろう。
聖堂脇に控えていた神官たちが進み出て、竪琴を奏ではじめる。その音色を背に、人々は小声で歓談しながら礼拝室を出て行った。
最後のひとりが去ると、まだ竪琴の音が止み終わらぬうちに聖堂騎士たちが扉を閉めた。
ツェルは祭壇下のテュナに視線を送った。テュナは大司教たちを見て首を傾げてみせた。大人たちはまだ話が済んでいないようだ。いつもなら自由時間に入るところだが、ここで待っていた方が良いだろうか。
ツェルは祭壇を降りてテュナの元に向かった。
「テュナ。さっきはありがとう」
「いえ、元はと言えばうちのお父さまのせいですから。まったく信じられませんわ、礼拝中に走って入ってくるなんて」
「急いでたんだよ」
ちょうど話を終えたところらしく、騎士団長がやってくる。弱り顔の父の背をテュナは容赦なく平手で打った。
「せめて裏口から入って、神官に言付ければ良かったでしょう。みんな驚いたんですからね」
「わーった、次からはそうするよ。まったく、日に日に母さんに似てくるよなあ。早くにしっかりしてくれて、いいんだか、悪いんだか。娘もいいが、こうなるとやっぱり息子だよな。跡取りにも困らねえし、一緒に手合わせできるし、下世話な話も気兼ねなくできて、家で邪魔もの扱いされる気分をわかってくれる」
「あら、息子だからって、お父さまに似るかどうかはわからないでしょう。汗臭いのはお父さまだけで充分、弟なんて要りませんわ。それより、早くツェルさまに謝ってください」
騎士団長は頭をがしがしと掻き、ツェルに頭を下げた。
「驚かせて悪かったな、ツェルちゃん」
「い、いえっ、そんな。仕方ないです」
「もっと怒っていいのですよ、ツェル。テュナの言う通りですから」
神官たちに何かしらの指示を出していた大司教もまた、あきれ顔で近づいてきた。
「とはいえ、ツェル、あなたもあなたです。いかなる時も平常心でいなさいと、いつも話しているでしょう。今後はこのような失態を見せないよう、よくよく気を付けなさい。テュナ、さっきはきみのおかげで助かりました」
「い、いえ」
テュナは困ったようにツェルを見ている。俯いて手を握りしめるツェルの肩に、騎士団長の大きな手が載せられた。
「そういうなって、ルキ。おまえさん、自分の子だからって、ちょいとツェルちゃんに厳しすぎやしないか」
「この子は御子ですから。普通の娘と同じようにはいきませんよ」
「そりゃあまあ、そうだろうけどよ」
大司教は騎士団長の言葉を遮るように言葉を続けた。
「さあ、天気も良いことです、ふたりとも外で遊んできなさい。私たちはこのあと元老院塔へ行くため、帰りは遅くなると思います」
テュナが「猊下かしら」と呟いた。塔にはいま、教会の一番偉い人が滞在している。
「聖皇さまとお会いされるのですか」
大司教はツェルの目を避けた。
「あなたが気にすることではありません。それより、少しは身体を動かさないと。あなたは色も白すぎるし、腕も細すぎますよ」
お父さまだって細いじゃない。軽く背に当てられた父の手に逆らって、ツェルは足を踏ん張った。
「お庭に出るのなら、先にお着替えしてきます」
と、純白のローブの胸元を軽く引っ張ってみせる。
「あなたが着替えの時間を勿体ないというので、わざわざそのローブに変えたのですよ。それならリボンを解くだけで上着は脱げるし、下は丈が短いですから、そのままの格好で遊べるでしょう。ああ、それと二人とも。今日はいつもより多く聖堂騎士が見張りに立っています。彼らの目の届かないところには行かないように」
「どうしてですか」
「色々とあるのです」
ツェルはしぶしぶローブから手を離した。
外遊びは好きだが、聖堂の庭園に集まってくる街の子供たちがツェルは苦手だった。少しでも時間を引き延ばそうと、訊き方を変えてみる。
「でもお父さま、理由がわからなければ何に気を付けたら良いのかわからないわ。別に、苺を摘むのに少しくらい森に入っても大丈夫ですよね」
大司教はじっとツェルを見下ろし、諦めたように身を屈めツェルの耳元に囁いた。
「それはいけません。次の満月で切断を予定していた咎人のうち、ひとりが亡くなりました。犯人は捕まりましたが、取り調べが済むまで森は立ち入り禁止です」
「えっ」
切断は御子だけが――つまりツェルだけが行える処罰の手段だ。近々、ツェルの代になってから初の切断が行われる予定だった。その対象のひとりが命を奪われたのなら、ツェルも関係者だ。
眉を下げるツェルの肩に大司教は手を置いた。
「あくまで念のため、ですよ。心配はいりません。どうやら単独での犯行だったようですし、現場もここから離れています。ただ、念のため、しばらく人目につかない場所へは行かないようにしてください。いつもの護衛だけより、聖堂騎士もいた方がより安全ですから」
「亡くなったのはどなたですか」
そう訊きながら、ツェルはふとサジュナのことを思い出した。そういえば、「向こう」でも同じような話を訊いたのだった。
「例の減刑を受けた者です」
ツェルはどきりとした。
「断崖監獄にいたはずなのに、誰が、どうやって?」
大司教は緩く首を振った。これ以上説明する気はないらしい。
しかし、ツェルには犯人の心当たりがあった。
殺された罪人はもともと熱心な教会の信者で、ツェルも顔見知りだった。彼はある商人の家に盗みに入り、家の者に気付かれて揉み合ううちに、その家の後継者を殺めてしまったらしい。聖堂騎士団に現行犯で捕まった彼は、動機をこう話したという。
「あの商人は聖遺物『聖者の光錘』を隠し持っていました。あれは以前、教会から奪われたもの。それが闇市に流れて、あいつが競り落としたんです。私は何度も手紙を送り、門を叩き、聖遺物の個人所有は違法であり、教会に返納すべきだと訴えました。しかし冷たくあしらわれました。彼は一度も会ってくれなかった。そんなときに聖皇猊下が本国からいらっしゃると知って、これはお導きだと直感したのです。一刻も早く聖皇猊下にお返しする機会だと」
競りに出された聖遺物の噂は、実は教会でも把握していた。だがその光錘が贋作だとわかっていたので、特に対応を取らなかった。もしも教会で適切に取り締まりを行っていれば、未然に防げたかもしれない事件だった――そう司祭たちが話しているのを、ツェルはこっそり聞いていた。
強盗は本来、絞首刑だが、教会のトップである聖皇が減刑を決めた。
「強盗は赦されざることですが、信仰心を正しく導けなかった点については我々聖職者にも責任があります。その点を鑑み、まっさらな人生からやり直す機会を与えましょう」
そうして刑罰は切断に決まった。
切断とは、御子の手による「絆の糸の裁断」である。御子が絆の糸を断ち切ると、人は切られた絆に関する記憶を失う。よって、すべての絆を切れば、その者は言葉すらも忘れてしまう。これを重犯罪者の更生に用いようというのだ。
切断を行うには光錘が必要だ。
そして光錘の中でも、ひときわ力の強い「真の光錘」は御子のみが造れる特別な道具である。
ちょうど教会の上層部の中では「そろそろ御子ツェルに切断を」という声が高まっていた。ツェルは事情を何も知らされないまま、真の光錘の最初の一振りを完成させた。そしてつい最近、光錘を造った目的と刑罰のこと、その日取りが決まったことを知らされたばかりだった。
減刑が公にされたのはツェルが神学基礎を修了し、正式に聖職者として認められた祝いの日で、恩赦という形がとられた。その日、祝いの席の一角で、被害者の家族が減刑について抗議していたのをツェルは見た。御子様を祝う席だからと神官らに諭され、泣き叫びながら外に連れ出される背中を見た。ツェルが決めたことではないとはいえ、遺族の悲痛な叫びが耳に残ったその晩は眠れなかった。
咎人が殺されたのなら、あの遺族のうちの誰かに殺されたのではないか。だとしたら、犯人は咎人だけでなく、ツェルたち聖職者をも恨んでいるのではないか――ツェルはひっそりと、そんな不安を抱いていた。
「あの、聖皇さまはご無事なのでしょうか」
「猊下ですか?」
突然の質問に、大司教が怪訝な顔をする。ツェルは言い足した。
「今朝、おひとりでいらしていたみたいだったので。帰り道に、もし咎人とばったり会ってしまったら、と思って」
「それは知りませんでしたよ。どこでお会いしたのですか。一体どんなお話を?」
まさか、お父さまが知らなかったなんて。それなら聖皇さまは、もしかして、ツェルに会うためだけに来ていたのかしら。
「禊ぎのあと、お部屋に戻るときに中庭でお会いしました。そんなにお話はしていません。ご挨拶をしたら、ツェルが立派な女性に成長するのを楽しみにしているって」
大司教はなぜかほっとしたようだった。
「そうでしたか。きっと、いつものようにご挨拶に来てくださったのでしょうね。伝令を受けたばかりですから、猊下はご無事でいらっしゃるはずですよ」
いつものようにご挨拶を。ツェルにはそれが不思議だった。
聖皇は教会の一番偉い人だ。形の上ではもちろん女神の子であるツェルが教会の中の一番だが、まだ子供なので特別な権限は何もない。あくまで象徴としての存在だ。一方の聖皇は女神の代理人として、実質、教会組織を統率している。
カナンは教会にとっての要地なので、聖皇も毎年やってくるが、元老会議に聖職者会議にと、慌ただしく各地を飛び回り、用が済むなり忙しなく帰っていく。ほとんど眠っていらっしゃらないのではないか、と心配する声が聞かれるくらいだ。それなのに、どうしてだか、ツェルと会う時間は毎回必ず作ってくれる。いつも大した話はしない。ちょっと挨拶をして、最近はどうだったか、など聞かれるだけだ。
聖皇様はお優しい面と、厳しい面とがある人だ。子供がお好きでないことも、一部の人にはよく知られている。でも、ツェルのことはすごく気にしているみたいだ。
どうしてだろう。
御子だから、という理由以外にも何かありそうな気がして、ツェルはだいぶ前から不思議に思っていた。
「そろそろ行きましょう」
大司教は話を強制的に打ち切り、ツェルたちを控え室に連れて行った。そこにはすでに聖堂内の雑用をこなす仕女たちが、手に手に子供用の上着を持って待ち構えていた。
大司教は白い帽子を受け取ってツェルに被せた。すかさず仕女が式典用の長いローブを脱がせにかかる。その下に着ていた丈の短い簡易ローブの上に、春の花を刺繍したレースのガウンを着せかけられ、革のベルトで腰を絞る。こうすると一見してローブとはわからなくなり、商家の子が普段身に着けているスプリングドレスのようになる。最後に儀式用のサンダルから革靴に履き替えたら、立派な外着の完成だ。
同じようにされている隣のテュナは、薄く開いた扉越しに聖堂側を睨みつけている。そこには「俺がやってやろうか」と身振りで訴えている騎士団長の姿が見えた。
「いいですか。騎士たちの目の届くところにいるのですよ」
大司教がふたりの背を押す。
「行きましょう、ツェルさま」
テュナはツェルの手を引っ張り、裏口から外に出た。