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船上/戦場 ステルスゲーム

「こっち、そこに非常用のボートがあるから」


 レルナに導かれながら、看板を移動していく。

 確かに手すりの向こう側には、赤い小型の船が何台か括り付けられている。

 しかし真っ直ぐ辿り着けるかといえば、兵士が多くて通り抜けられない。


「着替えないんですか、レルナさん……」


 紫がかった黒のソックスに、クスミの着ていた大きめの青いパーカーを来ただけの姿。

 大事なところは見えてないとはいえ、思春期の男の子には刺激が強い。


「逃げるのが先決。それより鈴っぺは、なんでシャワー室に来たのよ」


「助けを呼ぼうと、一回あの和室に戻ったときに、拾って……でも誰もいなかったから、色んな部屋に隠れながら逃げていたら、レルナさんと会って」


「さん付けは鬱陶しい。それより、ちゃんと背後を見ていて」


 初めて船に乗ったクスミでも、この船は大型なものだと分かる。

 そして兵士たちの監視が行き届いていることも。


「レルナさ……じゃなくてレルナ、さっきの素早い動きで1人ずつ仕留めることはできない?」


「無理。あれは肉体を無理矢理強化してるだけだから、使えるのはあと2回くらい。2回目は使った途端に疲労で動けなくなるけどね」


「じゃあ、他にスゴイ技なんかは……」


「……私が使える技はこれだけ。相手みたく、自分以外の誰かを催眠にかけることは、できない」


「……そうか」


 目を伏せたレルナにそれ以上の追求はせず、クスミは鞄の中にある御守りを確認する。

 いざとなればこの赤い鈴でどうにかするが、銃を持った相手に使うのは初めてだ。


 白い鈴は、危機を知らせる鈴『白払子』。

 緑の鈴は、呪いや侵蝕を払う『宝鉢』。

 赤い鈴は、邪悪に立ち向かう『紅蓮』。


 残り3色と合わせて、クスミは鈴によって戦う術を考えていた。



 りぃん



 白い音が鳴る。

 クスミがレルナの肩を叩くと、同時に兵士が曲がり角から姿を現す。

 人間の五感のうち、本人すら気づかない些細な違和感を増強し、白の鈴は共振する。

 虫の知らせ、直感と呼ばれるものを音で知覚したものだ。


「……鈴っぺ、よく気付くね」


「伊達に野田舎の自然で過ごしてたわけじゃないから」


 救命ボートまで辿り着いた2人は、レバーを下ろして、揺れる波の中に着水させる。

 が、そこで一息とは行かない。


「初めて使うけど、運転ってどうやるのかしら」


「……他に手段は?」


「お爺ちゃんが運転できたはず。でも兵士の彷徨く船内で探し出すのは難しい」


 クスミは眉を潜め、彼女の腕に賭けるか、もう一度船上/戦場に戻るか悩む。

 だが、その決断を下すのは自分ではなかった。

 船首のスピーカーから、せせら笑いの混じった声が響く。

 マイクの声も、その先にいる赤いジャケットの男を、レルナたちは知らない。


「……クスミ、分かってるわね」


「うん……」


「お二人さん、ランデブー寸前で悪いが貨物室まで来れるかい? この爺さんを殺して、お前らの小さな船を沈没させるか、俺に遊戯(ゲーム)させてくれるのか……?」



 ◻︎◻︎◻︎



 暗い貨物室へやってきたクスミは、立ち尽くす老人の前に立つ。

 巨大な空洞は、クスミの幼い頃読んだ海獣の胃袋の絵にそっくりだった。


「それじゃあ……まずは何もしないで質問しよう。催眠もなしだ、それで正直に話せるなら1番だからな……だろ?」


「催眠……? 何言ってるか分からないな。俺たちを解放して消えろ」


「口が悪いねぇ……俺と気が合いそうだぜ……」


(いいわよ、鈴っぺ)


『私は、チョウのように舞い、ハチのように刺す』


 扉の先に隠れていたレルナは、自己暗示と共に飛び出した。

 5秒間の身体強化は、50メートル以内の人間であれば敵1人を気絶させることなど容易い。

 催眠術士であろうとも、その催眠がかかる前に倒せば問題ない。

 クスミに敵の意識が向いているうちに、赤ジャケットの男の背後にまで回り込み、首を絞めた。

 時間制限を迎え、一気に負担が来る。

 レルナに言わせれば、フルタイムで出場したバスケの決勝戦くらいの疲労が押し寄せた。


「……はぁっ!! これで……!」


「違うレルナ、そいつはダミーだ!」


「その通り!」


 その時、レルナに襲いかかったのは先ほどまで立ち尽くしていたはずの久穏だった。

 疲れきったレルナは抗うこともできず羽交い締めにされ、そうして暗闇の奥から男が現れる。

 気絶した身代わりの兵士からジャケットを剥ぎ取ると、袖を通してピシッと襟元を弾いた。


「よく見抜いたな……やっぱり俺と気が合うぜ! どうだ少年、このヒッピアと一緒に働いてみないか?」


「貴方は何がお望みだ」


「話を急かすのは、俺好みじゃないな……だがまあ、彼女が人質になって焦るのも分かる。だから答えてやる」


 ヒッピアはクスミに笑いながら、懐に入れたスマホを指でなぞる。


「お前らの目的はなんだ?」


 クスミはシャツの下に隠されている6色の鈴が鳴り響いてるのを感じていた。



「俺だって知りたいよ」


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