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夫の不倫相手は既婚、子持ちの友人でした~よくある話なんて言わないで!~  作者: 華蓮
第一章

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アフタヌーンティーの告白

クラシカルな弦楽四重奏が、ペニンシュラ香港のラウンジに優雅な音のレースを広げていた。

天井まで届く窓からは柔らかな午後の日差しが差し込み、白いクロスのテーブルに並べられた3段のティースタンドには、見目麗しいスイーツとサンドイッチが整然と並んでいる。


律子は銀のフォークでミニサイズのレモンタルトをひと口。甘さよりも、どこか冷たさが舌に残った。


「昨日の夫妻、すごく仲よさそうだったね」

圭祐が紅茶に砂糖を落としながら言った。


「……うん、そうね」

律子はカップを口元に運びながら、答えた。


(話すなら今しかない)


この数日、香港の煌びやかな街並みの中で、律子の心はずっと曇っていた。

深圳で見た、何気ない優しさがにじむ夫婦の姿――

あれを目の当たりにした今、黙っていることの方が裏切りに近いとさえ思えた。


「圭祐…」

名前を呼ぶと、彼は穏やかな顔を向けた。


「なに?」


律子は一瞬、視線をテーブルに落とした。そして、静かに続けた。


「車に、盗聴器。仕掛けてたよね?」


その瞬間、ティーカップの中でスプーンが「カラン」と音を立てた。

けれど、圭祐の表情に驚きや戸惑いはなかった。


「……あぁ、そのこと?」


あまりに軽い反応に、律子は目を見張った。


「“そのこと”って、何? どうして私を疑ったの? エステに行くって言っただけで?」


「だって、急に予約して行ったじゃないか。怪しいって思っても仕方ないだろう」

そう言って圭祐は、まるで軽口を叩くかのように笑った。


律子の頬に熱がのぼる。

怒りというより、屈辱と悲しさだった。


「私、あなたに疑われるようなこと、何かした?」

声が震えるのを抑えきれなかった。


圭祐は肩をすくめる。「いや、だから確認したかっただけだよ。何もなかったんだし、いいじゃないか」


その瞬間、律子の中の何かがぷつんと切れた。


立ち上がり際、椅子の脚が大理石の床に音を立てて引かれる。

レストラン中がふと静まり、数組の視線がこちらに向いた。


「……先に部屋に戻るわ」


それだけ言い残し、律子はハンドバッグを取り上げると、何も振り返らずにラウンジを後にした。


目の前に並んでいたスイーツたちは、どれも美しく、そしてひどく味気なく思えた。


彼の言葉の軽さと、それを笑って済ませる神経。

この旅のために選んだドレスの光沢さえ、いまは空虚に思えた。


部屋に戻るエレベーターの中、律子は深く息を吐いた。


(どうして私は、いまここにいるんだろう)



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