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夫の不倫相手は既婚、子持ちの友人でした~よくある話なんて言わないで!~  作者: 華蓮
第六章

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6-3 沈黙という選択

そのメッセージは、ぬいぐるみの音楽がまだ耳に残っている頃に届いた。


「ねえ、プレゼント届いた?」


たったそれだけ。

あまりにも軽く、あまりにも無邪気な一文。


律子は、スマートフォンを見つめたまま、しばらく動けなかった。

胸の奥で、何かがぷつりと切れる音がした。


——もう、逃げられない。

——逃げてはいけない。

その夜、律子はついに一人で抱えきれなくなった。



圭祐が帰国する前のことだった。


証拠の写真を、スマートフォンから一枚ずつ表示する。

肩を組む二人。

腕を絡める二人。

そして、車の中で唇を重ねる二人。


義両親と、同居している義妹の前で、律子は声を震わせながら説明した。

自分が見たもの。

感じてきた違和感。

そして、どれほど怖かったか。


最初に声を荒げたのは、義妹だった。

「……ありえない。子どもが生まれたばかりで、何やってんの」


義母は写真を見つめたまま、言葉を失っていた。

義父は、深く息を吐き、低い声で言った。

「これは……説明が必要だな」


怒りは、はっきりとした形でそこにあった。

誰も、律子を疑わなかった。

それが、かえって律子の胸を締めつけた。


——もう、戻れない。


圭祐が帰国して数日後、話し合いの場は設けられた。

義妹が「私が蓮を見てるから」と言い、別室で子どもを預かってくれた。

襖一枚隔てた向こうから、蓮の小さな声が聞こえる。


居間に残ったのは、義父、義母、圭祐、そして律子の四人。

湯呑みのお茶は、誰一人口をつけなかった。


「圭祐」

義父が静かに切り出した。

「この写真について、説明してもらおうか」


律子は、圭祐を見なかった。

見てしまえば、感情が溢れてしまいそうだった。


沈黙。


圭祐は、腕を組み、視線を落としたまま動かない。

義母が震える声で言った。

「……アンタ、何やってるの!」


それでも、圭祐は何も言わなかった。

否定もしない。

謝りもしない。

言い訳すらしない。


その沈黙が、何よりも残酷だった。


律子の中で、最後の希望が音を立てて崩れた。

——説明してくれれば。

——一言でも、向き合ってくれれば。


けれど圭祐は、立ち上がった。

椅子が床を擦る音が、やけに大きく響いた。


「……もういい」


それだけ言って、圭祐は律子を一度も見ずに部屋を出た。

玄関の扉が閉まる音が、家の中に重く残った。


誰も、すぐには動けなかった。

義母は顔を上げ、目を潤ませながらも圭祐を睨みつけた。

「……情けない」

それだけ言って、拳を膝の上で強く握りしめた。

義父は、黙ったまま天井を見つめていた。


律子は、ただ座っていた。

涙も、怒鳴る声も出なかった。


襖の向こうで、蓮が笑った。

何も知らない、澄んだ声だった。


——この子の前で、私は強くいなければならない。


そう思った瞬間、

律子ははっきりと理解した。


圭祐は、選んだのだ。

説明しないことを。

向き合わないことを。

そして、私たちから離れることを。


その事実だけが、冷たく胸に残った。

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