5-13 笑えない夢
律子は、昼夜を問わない授乳とおむつ替えに追われながらも、実家のサポートと友人たちの励ましに支えられて日々を過ごしていた。
それでも、圭祐に対してはどこかモヤっとした気持ちが消えないままだった。
そんなある日のこと。律子は妙にリアルな夢を見た。
それは──圭祐と実佳がベッドの中にいるところを、実佳の夫・ジョナサンが突然見つけてしまう、という夢だった。
夢の中のジョナサンは真っ赤な顔をして、流暢な日本語で叫んでいた。
「お前たち、何をしているんだ!」
その迫力に、律子は自分が叱られているかのような恐怖を覚え、飛び起きた。
「……夢、か」
心臓はまだ早鐘を打っていた。
赤ん坊の泣き声ではなく、自分の夢で目を覚ますなんて久しぶりだ。
翌日、電話で実佳にその夢の話をしてみた。
きっと「何それ〜!圭祐さんと浮気なんて、ありえない、ないない!」と笑い飛ばしてくれると思っていた。
だが、実佳から返ってきたのはまったく予想外の言葉だった。
「えー!ジョナサンが日本語話すなんて、見てみたかったー!ウケるー!」
電話口で弾けるように笑う実佳。
律子は、受話器を握りしめたまま一瞬言葉を失った。
……そういう反応なの?
普通なら「浮気なんてありえないよ」って否定してくれるはずなのに。
夢の内容そのものではなく、“ジョナサンが日本語を話す”ことにだけ反応するなんて。
「ふふっ、変な夢見ちゃったな」
そう自分に言い聞かせ、笑い話として済ませようとした。
けれど──笑えば笑うほど、胸の奥でじわじわと別の感情が膨らんでいく。
あのとき圭祐が口にした「贅沢だな」の一言、彼が電話の端々で口にする「実佳が前に言ってたけど」の言葉、そして今の実佳の妙な反応……。
ひとつひとつは些細なことのはずなのに、点と点が少しずつ線で結ばれていくようで、律子は拭いきれない違和感に包まれていった。
今回もお読みいただきありがとうございます。またお楽しみいただけましたら幸いです。
前回の更新からしばらくお時間いただいてしまい、申し訳ありませんでした。




