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5-12 贅沢だなんて、どうして?

圭祐が帰ったあとも、律子の胸には妙なざらつきが残っていた。

実家に戻ってからの日々は、蓮を抱きしめ、ご近所や友人たちに囲まれて笑顔で過ごしている。それ自体は本当にありがたく、幸せなことだとわかっている。


けれど──夜、蓮を胸に抱きながら目が冴えるたび、圭祐の言葉が頭の中で繰り返される。

「律子は実家で、何から何までしてもらって贅沢だな。」

あの言い方は何だったのだろう。

私をねぎらうでもなく、まるで「誰かと比べている」ような響きがした。


出産経験のある友人たちが訪ねてきてくれる。

母乳や寝かしつけのコツ、夜中の授乳のつらさ……経験談を笑い交じりに話してくれて、律子は少し救われた。

「夫が全然来てくれなくてね、あのときは泣いたよ」

「産後なんて誰だって手助けが必要なんだから、贅沢なんかじゃないよ」


友人たちの言葉は慰めになったが、圭祐の発言の棘は消えない。

彼は仕事で忙しいのはわかっている。だが、それでも──この距離感は何なのだろう。

電話で話しても、どこかよそよそしい。

時折、「実佳さんが前に言ってたけど…」と何気なく話に出す圭祐の口ぶりが、妙に気になる。


実佳のことは大好きだ。バンクーバーでたくさん助けられたし、彼女ならではの出産アドバイスもありがたい。

けれど、圭祐の口からその名前が出るたび、なぜか胸がざわついた。


──どうして?

私はここで蓮と格闘して、母になろうとしているのに。

贅沢だなんて、どうしてそんなふうに言えるの?


律子の胸には、まだ自分でも正体のわからない不安が、じわじわと広がっていくのだった。



久し振りの更新となってしまいました。

お読みいただきありがとうございます。

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