5-2 夕暮れのテーブル
ホームパーティーの準備を始めるにあたって、まず最初に実佳に連絡した。
「今度、うちでホームパーティするの。実佳さんもぜひ来て!」
ところが、すぐに「その日はちょっと難しいかも…」と、意外な返事が返ってきた。
いつも明るく、どこにでも飛びついてくるような実佳にしては、あまりにもそっけない反応だった。
少し胸の奥に引っかかるものを感じながらも、「実佳さんがいないとつまらないじゃない」と笑って言うと、電話の向こうで一拍の沈黙のあと、「じゃあ、少し遅れて行くね」と返ってきた。
当日。午前中からキッチンに立ちっぱなしで、律子はせっせと料理を作った。
まぐろとさらわのカルパッチョ、サーモンのマリネ、ローストビーフ、ほたてのグラタン、トマトのカプレーゼ、ズッキーニとフェタチーズのオーブン焼き…
手を抜くことなく、色とりどりの皿がダイニングテーブルに並んでいく。
最後には、カナダ産のいちごをたっぷり使ったムースケーキも用意した。
「律子さん、本当にすごいですね…」と口々に褒められて、照れながらも嬉しかった。
圭祐も、「すごいだろ、うちの奥さん」と、まるで手柄を自分のように話していたが、それも嫌ではなかった。
賑やかな声がキッチンまで届いてくる。
赤ワインのグラスが傾けられ、笑い声が重なる。
律子は、ここでの暮らしにも少しずつ馴染み始めた実感を得ていた。
そこへ、実佳がふらりと現れた。
ワインレッドのシャツワンピースに、濃紺のスカーフ。
派手すぎず、それでいてどこか視線を引く装いだった。
「ごめんなさい、遅れちゃって」と、何食わぬ顔で微笑むその姿に、遅れてきたことのわだかまりはすぐに溶けた。
「わあ、実佳さん、来てくれてありがとう!お腹すいてるでしょ、好きなだけ食べてね」と律子は声をかける。
圭祐の部下で、若手の健もその場にいた。
朗らかで気配りのできる青年で、律子も好感を持っていた。
彼がふと、律子に向かって言った。
「律子さん、料理ほんとにお上手ですね。どこかで習ったんですか?」
「え、ありがとう。カナダに来てからのほうが時間があったから…でもほとんど独学よ」
そのやり取りのすぐ近くで、実佳がグラスを口に運びながら、じっと見ていたことに、その時の律子はまったく気づかなかった。




