4-3 ふたりの姉
東京の空気は、どこか張りつめていた。秋も深まり、街路樹の葉が黄金色に染まる頃、律子と圭祐は東京支社立ち上げのため、一時帰国していた。
ふたりが暮らすのは、圭祐の実家が所有する、築浅の一軒家。モダンで機能的なつくりながら、玄関先に植えられた柿の木が、どこかほっとさせてくれる家だった。
日中は律子ひとりで過ごすことが多かったが、夕方になるとふたりで圭祐の実家へ向かうのが日課になった。
「今日は鯛めしよ。日本橋高島屋のね」
そう言って義母が並べる食卓は、季節のデパ地下グルメで彩られていた。料理はあまり得意ではないらしいが、それを明るく笑って済ませてしまえるのが、この義母の魅力だった。
そして、そこにいる義姉の雅美と、妹の真弓。
雅美は世田谷に夫と小学生の息子と暮らしており、落ち着いた雰囲気と芯のある言葉遣いで、いつも律子を安心させてくれた。一方の真弓は、少し天然でにぎやかだが、ひとり息子と共に実家で暮らしながら家業の手伝いもしており、どこか律子に似た一生懸命さがあった。
「二人も“姉”ができるなんて、不思議だけど、すごくうれしい」
ある晩、食卓を囲んだ帰り道、律子がそうつぶやくと、圭祐は「それは良かった」とだけ言って、どこか遠くを見るような目をしていた。
律子には実の姉がいる。だが、ここ数年、一言も交わしていない。何がきっかけだったかも忘れるほどの距離が、今では当たり前になってしまった。
だからこそ、雅美と真弓――年上の“義姉妹”に包まれるようなこの日々は、律子にとって、心から安らげるものだった。
そんな穏やかな暮らしの中で、お腹は日に日にふくらんでいった。妊娠がわかったのは、東京へ来てしばらくしてからのことだった。秋が冬に向かい始めた頃だった。
そのころから、圭祐との間にふとした違和感が生まれ始めていた。会話が短くなり、夜の帰宅が遅くなった。
でも、それはただの疲れのせい。律子はそう思い込もうとした。むしろ、自分の身体の変化のほうに気を配るべきだと、心を落ち着かせるようにしていた。
そして――ある日、律子は中学時代からの友人・君子と久しぶりに再会することになる。




