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3-5 バンクーバーの空の下で

バンクーバーの夏は、爽やかな風が街を抜け、濃い緑が太陽の光を受けて生き生きと揺れていた。

律子は、19世紀の邸宅を改装したカフェ「Caffè Cittadella」のテラス席で実佳と向かい合っていた。

ヴィンテージの木製テーブルに置かれたのは、キンと冷えたハーブティーと、小さなレモンケーキ。

それぞれのカップから立ちのぼる微かな香りに包まれて、二人は自然に笑みを交わす。


「律子さん、最近どう?」

実佳がゆっくりとカップを手に取りながら、柔らかく問いかける。


「うん。だいぶ慣れてきた。……実佳さんのおかげで、こっちの生活にも。」

律子は照れくさそうに笑って返した。


バンクーバーでの暮らしは、最初こそ不安もあったが、実佳の存在がその心細さを埋めてくれていた。言葉や習慣の違いに戸惑いながらも、律子はこの街で少しずつ自分の居場所を見つけ始めていた。


実佳は優しく微笑みながら、そっと律子の手に触れる。

二人の間には、肩書きや立場を超えた、信頼と親しみの空気が流れていた。


週末には近くのグランビル・アイランドへ出かけたり、スタンレーパークを歩いたりするうちに、二人は気づけば姉妹のような関係になっていた。

律子にとって実佳は、遠い異国で最初にできた「家族」とも言える存在になりつつあった。



やがて、圭祐の会社の東京支社立ち上げに伴い、律子と圭祐は日本へ一時帰国することになる。

律子自身は圭祐の会社では働いていなかったが、元経営者としての知見や感覚を、圭祐は心から頼りにしていた。


「きっと、東京に戻ってもすぐに活躍しちゃうんだろうな」

別れ際、実佳が冗談めかして言ったとき、律子は笑いながらも少し寂しそうに目を細めた。


離れても、二人の関係は変わらなかった。週に一度のビデオ通話が習慣になり、何気ないやりとりの中で、お互いの近況を伝え合った。

バンクーバーでの時間は、律子にとって、人生の転機にそっと寄り添ってくれた静かな季節。

その空の色、風のにおい、人のぬくもりは、これからもずっと、心の中に息づいていくのだった。


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