2-13 三人の午後
「今度、週末空いてますか?」
英語学校の帰り道、ふと実佳からのメッセージが届いた。
まだ知り合って間もないのに、少し驚きながらも律子は「はい、大丈夫です」と返す。
週末の午後、ダウンタウンのカフェで待ち合わせたのは、実佳と千賀子、そして律子の3人。
最初はどこかぎこちなかった会話も、千賀子の屈託ない笑顔と、実佳のさりげない気配りで自然と和らいでいった。
「ここ、前から気になってたの。いつか律子さんを誘いたいと思ってて」と実佳。
「おしゃれだし、美味しいし、当たりでしょ?」と千賀子が笑う。
気がつけば、紅茶のお代わりを頼みながら、恋バナや仕事の話に花が咲いていた。
「律子さん、やっぱり東京の人って洗練されてる。話してて落ち着くー」
実佳がふと口にした言葉に、律子は「そんなことないですよ」と笑いながらも、なぜか少しだけ心地よさを感じた。
それからというもの、3人での集まりが増えていった。
ある日はサウスグランビルへ出かけ、雑貨屋や洋服の店を回ったり、
またある日は千賀子の提案で韓国料理の店に入り、辛さで涙ぐみながら笑い転げた。
「律子さんって本当に聞き上手ですね」
「うちの旦那、最近ずっとゲームばっかでさ〜」
そんな日常の愚痴を交わしながら、他愛ない会話に安心を覚える日々。
実佳からは、時折ふいに電話がかかってくるようになった。
「ちょっとだけ話したくて…ごめんね、迷惑だった?」
「ううん、大丈夫だよ」と律子は笑って返す。
やがて、お互いの家を行き来するようにもなった。
「旦那は子どもたち連れて義母のとこ行ってて、今日は一人なの」
「じゃあ、ちょっとだけお邪魔しようかな」
律子の住まいにも実佳と千賀子が訪れ、紅茶と手作りスコーンで小さなティータイム。
ソファに腰かけ、静かな午後の陽射しを浴びながら「バンクーバーって、こういう時間が贅沢よね」と語り合う。
その頃の律子はまだ知らなかった。
実佳のその穏やかな笑顔の奥に、どんな計算があったのかを——




