2-10 味方のいる場所
中央線の電車を降りて、人混みに紛れながら改札を抜けた律子は、小さく息をついた。
祖母の死、英樹との再会、親戚の優しい言葉……心の中には様々な思いが入り混じり、どれが本当の気持ちか、もうよくわからなくなっていた。
一泊だけ立ち寄った圭祐の実家では、義母が律子の顔を見るなり「おばあさま大変だったわねぇ」と言葉をかけ、すぐに「で、バンクーバーの生活はどう?」と話題を変えた。
台所に並ぶ料理は、相変わらずどこかアンバランスだった。
肉じゃがに、グラタンに、お刺身まで並ぶ食卓で、「主人ったらまた冷蔵庫にバニラアイス買い込んでてねぇ」と笑う義母の声だけがやけに大きく響いていた。
──私はいま、ここに“家族”として迎えられているんだろうか?
律子は笑顔を作りながら、静かに箸を進めていた。
空港の出発ロビーは、人々の足音とアナウンスが混ざり合う、せわしない空気に包まれていた。
約束の時間より早く着いた律子がぼんやりとベンチに腰掛けていると、後ろから「律っちゃん!」と呼ぶ声がした。
振り向くと、キャリーケースを引きながら一華が駆け寄ってくる。
「間に合ってよかった……電車、ギリギリでさ」
一華の存在に、律子は思わず目頭が熱くなった。
久しぶりに会った親友の顔を前に、ふっと心がゆるむ。
「ちょっとだけでも顔見たくて。戻る前に……一人で抱えないで、ちゃんと話してほしかったんだよ」
空港内のカフェで短い時間を過ごす中で、律子はぽつぽつと胸の内を語った。
乾燥機のこと、カメラのこと、圭祐の笑顔が怖くなったこと……全部は言葉にならなかったけれど、それでも一華には伝わっていた。
「律っちゃん、いい? どんな選択をしても、何があっても、私は律っちゃんの味方だから。
たとえ世界中が敵になっても、律っちゃんのことは、ちゃんと信じてる」
その言葉に、律子はとうとう涙をこぼした。
静かに、でも確かに、自分には「味方」がいるのだと思えた。
ボーディングの時間が近づき、律子が搭乗口に向かおうとした時、一華がふいに手を握った。
「怖かったら、戻ってこなくてもいいからね。戻ってきたくなったら、私の家に泊まればいい。ね?」
──ありがとう。
その言葉は、声にならないまま、律子の胸に深く染み込んでいった。




