2-2 新居
玄関のドアが開き、ふたりで並んで中へ足を踏み入れた瞬間、律子は思わず息を呑んだ。
これまでにも何度かこの街を訪れていたけれど、「ただ訪れる」のと「ここで暮らす」のとでは、まるで心の重みが違っていた。
圭祐が新婚生活のために用意してくれたのは、水辺の向こうに広がるダウンタウンの一帯が望める高級コンドミニアムの一室。
広々とした玄関から階段を上り、廊下を抜けてリビングへと足を進めた律子の目に、思わず声を飲むような光景が飛び込んできた。
大きく切り取られた窓の向こうには、すぐ目の前にヨットが静かに揺れるハーバーと、その先に穏やかな水面をたたえたフォールスクリークが広がっていた。
水の向こうには、ガラスに光を反射させる高層ビル群が立ち並び、バンクーバーのダウンタウンが一望できる。
視線を少し上げると、空の青さと、遠くに連なるノースショアの山並みがひとつの絵のように重なっていた。
「……すごい……」
自然とこぼれた声は、リビングに静かに溶けていった。日が傾き始めた午後の光が室内にも柔らかく差し込み、まるでこの新しい暮らしのスタートを祝福してくれているようだった。
「こんな素敵なビューを見ながら、毎日お料理したり、リビングでくつろいだりできるなんて……」
律子は心からそう思った。