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遅延と、夜の帰国
羽田空港行きのキャセイパシフィック航空の便は、機体整備のため大幅に遅延していた。ラウンジで長時間待たされた末に搭乗したものの、到着はすでに夜の11時を過ぎていた。
キャビンアテンダントが配るアメニティの袋を受け取りながら、律子はどこか虚ろな心でそれを受け取った。
隣の圭祐は、あまり話しかけてこない。
それが、逆に息苦しかった。
(このまま黙って一緒に帰るの?)
飛行機が静かに羽田に着陸すると、到着ロビーでキャセイのスタッフが名前を呼び、遅延客のために手配したホテルの案内をしてくれた。
「ご夫婦ですよね? こちらのダブルルームで――」
その言葉に、律子は思わず声を上げていた。
「別の部屋にしていただけますか?」
スタッフが一瞬戸惑いながらも、「かしこまりました」と応じた。
圭祐は何も言わなかった。無表情のまま、ルームキーを受け取る律子を見送った。