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翌朝、凍りついた空気
窓の外では朝の光が海を照らしていた。
でも部屋の中は、前夜の空気をそのまま引きずっていた。
圭祐はいつものように律子に声をかけようとしたが、その表情を見て、何も言わずにシャワーへと向かった。
律子はメイクを終えた後も、鏡の前に座ったまま動かなかった。
(このまま、何事もなかったふりをするの?)
でも、いま圭祐と普通に接したら、きっと自分が壊れる。
そう思った。
だから――何も言わないことにした。
“避ける”ことを選んだ。
それは幼稚で、解決にもならないかもしれないけれど。
少なくとも今は、これ以上、自分の心を傷つけないための唯一の方法だった。
圭祐の視線が時折、こちらをうかがうのがわかる。
けれど、律子は気づかないふりをした。
二人で行くはずだったレストランも、予定していた観光地も、なんとなく流れ解散になっていく。
そして――沈黙のまま、香港での最終日が近づいていた。