表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/54

ペニンシュラの夜、独りの部屋で

ドアを閉めた瞬間、律子は背中から力が抜け、壁にもたれかかった。

ペニンシュラのスイートルームは豪華な絨毯と調度品に囲まれ、窓の向こうにはビクトリア・ハーバーの夜景が宝石のようにきらめいている。


だけど――そんな煌びやかさが、今はかえって虚しい。


律子はハイヒールを脱ぎ捨て、ソファに深く腰を下ろす。

視界がぼやける。あぁ、泣いているのだと、ようやく気づく。


「なんで、あんなことができるの…?」


ぽつりと、声が漏れた。

裏切られた、とは少し違う。信じていた「関係性」が、自分の知らぬところで別の形をしていた――そんな喪失感だった。


(私はあの時、笑って式を挙げた。でも、あの瞬間にもう、この人との間に“何か”が壊れてたんだ)


誰にも相談できなかった。誰にも言えなかった。


結婚式直前に見つけた盗聴器。

それでも「きっと、誤解だ」と思いたかった。


でも、今日の彼の態度は――誤解ですらなかった。


彼は疑いを、確信に変えるために動いていた。

それを恥じるどころか、「仕方なかった」と笑って済ませた。


「……私、何のためにここに来たんだろう」


香港が大好きだった。

この街を、愛していた。


でも、この旅はもう、記憶に刻まれた“愛しいもの”にはならない。

豪華なホテルも、煌びやかな夜景も、香港スイーツも、ぜんぶ空回りしている。


律子はベッドに入り、電気を消した。

圭祐が戻ってくる音を聞きたくなくて、眠ったふりをする。

本当は眠れないのに――ただ、暗闇の中で目を閉じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ