謎の土台、平凡な新築家屋
なんとなく…、いつも歩いている散歩コースから少し外れた日の朝。
やや密集した住宅地の、決して広くはない道路の途中で…、古い家屋の取り壊し作業をしているのを見かけた。
白いシートで囲われた区画に、大きなショベルカーが入っている。玄関部分が大きく崩されており、まさに解体真っ最中といった感じだ。
田舎のおばあちゃんちみたいなにおいがするのは、年季が入った家屋の木材が破壊されたせいだろうか。
つぶした後、何か店でもできるのか、それとも駐車場になるのか…住宅地のど真ん中だし、やっぱり家かな?更地のまま残る可能性も、あるかな…。駐車場になるかもね。アパートかもしれないし、二・三軒建売でも建設するのかも?
私はわりと、建物が出来上がっていく様子を見るのが好きだ。
土台作りに柱立て、壁の組み立てに庭の造営…なんとなく、実物大のジオラマっぽいというか。
1つ1つ組み上がっていく様子を見ると、なんとなく人生の縮図を見ているようでね。 昔は特に気にならなかったのだけど、思考?嗜好は変わっていくといいますか。これが年を取ったということなのか…まあ良いや。
よし、明日からはこの道を通って散歩をすることにしようかな!
次の日、同じ場所を通ると…赤土と砂利の広がる空間ができていた。
あっという間に建物の名残が根こそぎ消えてしまった事に、驚く。
伸びきった植木に囲まれてて気がつかなかったけど…、ずいぶん大きな家屋だったようだ。ちょっとしたコンビニの駐車場並みに広い空間は、春の強風をさえぎるものがなくて…ずいぶんほこりが舞いそうに思う。…これは近所の人たち、大変そうだな。
次の日、同じ場所を通りかかると、早朝だというのに…前方に大きなミキサー車が止まっていた。…完全に道をふさいで作業をしている。
このあたりはわりと交通量が多いので…、時間の配慮をしたのかな?作業着姿のおじさんが立っていて、迂回路へと誘導しているのが見える。
「すみませんねえ、ご協力感謝します!!」
近くに行くと、元気に声をかけられた。
協力するとは一言も言っていないものの、まあ素直に指示に従い、迂回路へと、逸れた。
次の日、あの場所に行くと、なにやら…敷地内に紐が設置?されていた。
おそらく、土台を作るためのしるしだろう。
たぶん、紐の形に合わせてコンクリートを張って、その上に柱を立てていくと思われる。
「…アレ?」
なんだろう…気のせいか、紐の形がやけに…家っぽくない。遠目にはわからないが…、真横を通りかかると明らかな違和感が、ある。
やや歩く速度を落とし、さりげなく…観察など、試みる。
家にしては…玄関部分がないような…?
広い土地のど真ん中に、六角形の小さな囲い?
随分庭を広く取るみたいだ…もしかしたらガチキャンプ勢?
どう見ても、家のサイズ・間取りでは、ない。
もしかしたら、住宅ではなくて公園かなんかができるのかも…?
でも遊具にコンクリートの土台なんか作るかな……。
少しばかりの疑問を胸に、家に帰った。
次の日、同じ場所を通りかかると…コンクリートの土台?が増えていた。
広い敷地にいくつか点在する、凸型、△型、丸型…ホント、これ、なんなんだろう。
出来上がっていくのが楽しみだな、そんなことを思いながら通り過ぎた。
次の日から雨が降って…、しばらくあの場所を通ることができなかった。
久しぶりに通りかかってみると、土地全体がブルーシートで覆われている。……これでは建築の様子をうかがうことはできそうにない。
残念に思いながら、目の端に青い色を感じつつ…散歩を続けた。
仕事の都合と雨が重なり、散歩に行けない日々が続いたとある日、一週間ぶりにあの場所に向かった私は…驚くべきものを目にした。
ブルーシートが取り払われたあの場所に、ごく普通の住宅が建っていたのである!!
わりと敷地ぎりぎりまで塀が設けられていて…やや圧迫感を感じないでもないが、二台分のカーポートとルーフバルコニーがある、ゆとりが感じられるデザインの…、今風の住宅。
ウッドデッキからは2階に直接届く階段がのびていて、庭には、まだ貧弱な苗木が…何本か。わりとお高い部類の、住宅で…。
………。
………ちょっと待て、あの土台は、いったいどうなった。
通常、家の土台というのは家の形に沿ってできるものだ。
あのおかしな形のコンクリートの土台の上には、おかしな形の家が乗って然るべき物なのではあるまいか。
ここを通りかからない間に土台が入った可能性は無きにしも非ずだが、些か…引っかかるものが、ある。
ミキサー車をまた呼んだ?いつ?雨の日に?
追加でコンクリートを重ねるなんてこと、する?
………。
……外側だけ家っぽく見せているだけで、中身は…おかしな建物が建っている、とか??
よくよく見れば、やけに部屋数が多そうな…内側部分が広そう?な外観ではある。
狭小住宅が多いこの辺りにしては、やや目立ちそうな感じなのに、実にこう、しっくりと景色化しているというか……。いや、まあ、普通、住宅というものは…景観に溶け込むものではあるものだけれども。
もしやこれは…おかしな幻影でも見せられているのでは……。
怪しげな設備をカモフラージュするために、住宅の外側を装備させたパターンとか……。
明らかな違和感をぼんやりと誤魔化すような、摩訶不思議な何かが放出されていたりしないでしょうね……。
いや、そんな、まさか。
ごく普通の平凡な一般的市民が、そんなご大層なトンデモ展開に…遭遇するはずが、ない。
まったくもって、朝から愉快な妄想がはかどって楽しいことだ。
凡人ってのは、ホント些細な事でつまんない想像をして勝手に不安を覚えて怯えてさあ。
ただの傍観者が、いらんこと詮索して騒いだところで…何も起きやしないってのにねえ。
・・・そんなことを、思いながら。
私は、今後…、この場所に近づくのをやめておくことにしたのだった。