表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コシュマール 〜薔薇の心臓〜  作者: 路明(ロア)
Episodio due 死者の部屋
7/79

Finestra ci sono fantasma. 幽霊のいる窓 III

「話にならん」

 ランベルトは早足で部屋の出入口に向かった。

 部屋を出る。

「お供しましょうか」

 アノニモがあとをついてくる。

「何の意味があって」


「あら、ランベルト様」


 特徴のあるソプラノの声がした。

 高音と重厚さが混じった、妖艶な声質。

 長い黒髪をハーフアップに結い上げ、臙脂(えんじ)色のドレスを品よく着こなした令嬢が侍女とともに歩みよる。

 陶器(とうき)の人形のように整った顔立ち、すべらかな肌。

「ダニエラ殿……」

 ランベルトはつぶやいた。

 なぜここに。ランベルトは嫌悪感が出ないよう表情をおさえた。

 外見は信じられないほどに美しいのだが、彼女にはどうしても違和感を覚える。

 まがいものを見せられているような、どこかニセものっぽいような。

「いや……」

 ランベルトは口籠(くちごも)った。

「体調がすぐれないとお聞きしましたが、もう大丈夫なのかしら」

 ダニエラがほほえみかける。

 ウソなどとっくに見抜いているような気がした。

「あなたこそなぜここに。この階は当主一家と側近の私室くらいしか」

「こちらにいらっしゃるかと思いまして」

 ダニエラが答える。

 本当にただ見当をつけてきただけか。

 先ほど窓から見ていたときに気づいていたのでは。

「わたくし、嫌われているのかしら」

 ダニエラが真紅の唇を上げる。

 困ったような表情だが、計算してのものに思えた。

「いや……というか」


「ランベルト様、医師殿がお待ちですので」


 不意にアノニモが口をはさむ。

「あまり長話をされてはまた体調のほうが」

 ランベルトは、仮面の顔を振り向いた。

 霊と言っていた。

 ダニエラにも見えていると思って対応してよいのだろうか。

 アノニモが令嬢に向けて礼をする。

「申しわけありませんがダニエラ殿、のちほど菓子など運ばせますので」

「けっこう」

 ダニエラが高飛車に応じる。

 ランベルトは目を眇めた。

 付き人に対して、ムダに傲慢な態度をとる人なのか。

 出身家の考え方もあるのだろうが、やはり虫が好かない。

「あなたは従者かしら?」

 ダニエラが見下すような様子でアノニモを見る。

「なぜ顔をかくしているの?」

 アノニモが見えているのか。

 ランベルトは横目でアノニモの様子を見た。

 アノニモが指先で仮面をおさえる。

「先立って負傷し、大きな傷が残っておりまして」 

「まあ」

 ダニエラは妖しく微笑した。

「主人を守っての負傷かしら?」

 「いや……」とランベルトは口をはさんだ。

僭越(せんえつ)ながら、四人の暴漢に襲われた主人(あるじ)の身代わりを務めさせていただきました」

 アノニモが胸に手を当てる。

「それは忠義ね」

 ダニエラがそう返す。

 四人の暴漢というのは、あの女悪魔どものことだろうか。

 ランベルトはあきれて仮面の顔を見た。

 その身代わりで、ずいぶんと長いあいだ濃厚な接吻をしていたなとどうでもいいことを思いだす。

「ですが見目のよさも従者の条件の一つでは? 顔に傷が残った従者など、ほかの者と取りかえたらよろしいのに」

 ダニエラが当然のようにそう提案する。

「あなたはずいぶんと……」

「ありがたいことに、屋敷内の身の回りのお世話であればよいであろうと」

 アノニモがそう答える。

 ほう、とダニエラが声を上げた。

「ずいぶんとお気に入りの従者なのですわね、ランベルト様」

 ダニエラが、アノニモの顔をじっと見つめる。

 非常に怖い目に思えた。

 黒曜石のような黒い瞳が、ランベルトには一瞬だけ血の色に見えた気がした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ