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コシュマール 〜薔薇の心臓〜  作者: 路明(ロア)
Episodio quindici 玉座の薔薇の女王

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Regina delle rose sul trono. 玉座の薔薇の女王 II

 扉が開けられ広間に通される。

 広間内は、先日よりも明るく見通しがよいことに気づいた。

 バルドヴィーノが広間内へと促す。

 以前は暗くてよく見えなかったが、広間の奥は大きな窓が並んでいるのだと気づいた。

 奥に立つ諸侯と思われる者たちは、ほとんどの者が葬儀のような黒いヴェールを顔にかけている。

 天井から吊り下げられたシャンデリアは非常に大きく、黒瑪瑙(くろめのう)や煙水晶と思われる飾りを数多くつけていた。

 広間の奥から玉座のほうまで等間隔で吊り下げられ、ロウソクの火をゆらゆらとゆらしている。

 壁ぎわにしつらえられた篝火(たいまつ)が、大きな炎を上げていた。こちらは先日に通されたさいにはなかった気がする。

 うす墨色の天井に黒い線で優美な紋様が描かれているのまで、今日ははっきりと見える。


「どうぞ。(ちこ)う」


 凛とした女性の声がする。

 広間の中央に、真っ直ぐに濃赤の絨毯(じゅうたん)が敷かれていた。

 バルドヴィーノがそちらへと促す。

 絨毯の先に三段ほどの階段があり、その上に黒いドレスの女性が座っている。

 ダニエラだ。

 装飾部分をふくめれば背丈の三倍ほどある巨大な玉座の(ひじ)かけに身体をあずけ、品良く横座りの姿勢で座っている。

 両側にしつらえられた篝火のあかりに照らされ、美貌は明るいオレンジ色に染まっていた。

 ランベルトは睨みつけるように彼女を見すえ、玉座に近づいた。

 玉座の下の階段まえまでたどり着くと、バルドヴィーノが(ひざ)を折る。


「ランベルト・コンティ(ぎみ)をお連れしました」


 膝を折るバルドヴィーノを見て、ダニエラが一瞬だけ表情を曇らせた気がしたが、思いこみか。

「先日よりあかりを多めに(とも)しましたが、どう見えていまして? ランベルト様」

 ダニエラが問う。

「……きちんと見えている」

 ランベルトは答えた。

「ご配慮に感謝する」

「諸侯たちのなかには少々まぶしいという者もいましたので、ヴェールをつけるのを許可いたしました。ご了承いただけますか?」

 ランベルトはうなずいた。

 ダニエラがゆっくりと脚を組む。

「お食事をなさらないそうですけれど、お身体は大丈夫ですの?」

 ダニエラの胸元には、三日まえと変わらず巨大な薔薇(ばら)が咲いていた。

 痛々しく脈打っているように見える。

「私の身体の心配などけっこう。このまま死ぬのだとしても、貴殿らにはいっさい手を貸すつもりはない」

 ランベルトはそう答えた。

 バルドヴィーノがわずかに顔を上げ、ダニエラと目を合わせる。二人だけで通じるものがあるのだろうか。

「分かりました。引き続き……」


「滅びろ」


 ダニエラの言葉をさえぎり、ランベルトは声を上げた。

 奥にいる諸侯たちの間からざわめきが起こる。

 激高した感情が、感覚的に伝わった。

 これが殺気というものなのか。

 バルドヴィーノが諸侯たちのいるほうをふり向く。

 彼らが魔力をもつ種族だということを、ランベルトはいまさらながら思い出した。

 女王の許可さえあれば、あの場からでも物理的に攻撃することは可能なのか。

 殺すなら殺せ。

 ランベルトは覚悟を決めた。

 バルドヴィーノがこちらを見たのに気づく。

(かば)っていただかなくてけっこう。貴殿にも立場があろう」

 ランベルトは言った。

 客間に置かれているあいだ、考える時間だけはあった。

 さまざまな角度から考えたつもりだが、けっきょく兄の言っていた言葉がたどりつける唯一の結論なのだと気づいた。

 七百年もまえに(たもと)を別っていた種族なのだ。

 もとから共存はできない相手であったのだろうと思う。


 自身の能力の本当の用途に気づきながら、ギレーヌがなぜ種族を救う行動には出なかったのか。


 彼らが先細りしていく種族でなかったら、いずれこちらの世界の魔力を持たない人類を滅ぼしていたからではないのか。

 少なくともギレーヌは、そういった未来まで予測していたのでは。


「私は神ではないのだ。救いを求められたからといって、救う義務はない。優先すべきは、自身の所属する種族であり、コンティという一族だ」


 ランベルトは玉座をまっすぐに見据えた。

「コンティとそれに仕える者を害しなければ存続できない種族なら、私にはむしろ見捨てる義務がある」

 ダニエラとて、そうなのだろう。

 彼女個人が本当はやさしい人であれ冷たい人なのであれ、女王である以上は、何よりも優先すべきは自身の種族なのだ。

 何かを本当に守りたければ、まずそれ以外のものをすべて見捨てる覚悟をしなければならない。そう兄が言っていたではないか。 


 守るべき者たちのためなら、悪魔にもなるのが上に立つ者の役割なのであろう。


「それでご不満なら、どうとでもしたらいい。覚悟はできている」

 ランベルトは女王の赤い目と目を合わせ睨み合った。

 篝火のゆれるあかりを映したダニエラの陶磁器のような頬は動かず、美貌は無表情だった。

「……分かりました」

 やがてしずかに言うと、ダニエラは品のある仕草で立ち上がった。

 黒い扇でランベルトを指すと、口をひらく。


「この者を処刑します」

「ダニエラ様!」


 バルドヴィーノが、まえへと進みでた。

「いえ……女王陛下」

 そうと言い換える。

 バルドヴィーノは改めて膝を折った。

「ランベルト殿は、兄を亡くしたばかりでまだ動揺している。落ちついてもう少し説得を……」

「上に立つ者同士です。目を見れば覚悟のほどは分かる。この者はもう、一族のために一歩も引く気はない」

 命令した内容とは裏腹に、ダニエラの口調は落ちついている。

「だが……!」

「病を治す(すべ)は、またほかの方法をさぐればよろしい」

 ランベルトを庇おうとしたのか、バルドヴィーノが半歩ほどまえに進みでる。

 「あなたは、なぜそう優しいのだ」ダニエラがそうつぶやいた気がした。


「衛兵!」


 あえて彼女と目をかち合わせたランベルトにかまわず、ダニエラは声を上げた。

 壁ぎわに待機していた兵士があわただしく走りより、訓練された動きでランベルトをいっせいにとり囲む。

 何本もの抜き身の剣で囲まれ、それでもなおランベルトは女王をまっすぐに睨みつづけた。

「女王に武器を向けた狼藉者(ろうぜきもの)だ。八つ裂きにして肉片を屋敷に送りつけなさい」

 いっさいの躊躇(ちゅうちょ)もなくダニエラがそう命じる。

 つぎの瞬間には自分はただの肉塊になっているであろう。そうランベルトは覚悟した。


 だが目など(つむ)るものか。


 コンティの次期当主として、最後の瞬間まで意地をつらぬいてやる。

 剣をかまえる金属音が自身をとり囲んだ。

 抜き身の剣が、視界のいたるところでロウソクのあかりを反射して(きら)めく。

 カツ、と床を蹴り踏みこむ音が聞こえた。





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