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コシュマール 〜薔薇の心臓〜  作者: 路明(ロア)
Episodio quindici 玉座の薔薇の女王

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66/79

Regina delle rose sul trono. 玉座の薔薇の女王 I

「広間に」

 城の客間に半ば軟禁状態で置かれて三日め。

 バルドヴィーノはダニエラの意向を告げにきた。


「もう少し時間を差し上げてもよろしいのですが、そのまえにあなたに餓死されてはたまりませんから」


 バルドヴィーノが苦笑する。

 ランベルトは睨みつけた。

 空腹で身体が少しだるかったが、平気なふりをする。

 いつもの女官たちがカーテシーのあいさつをしてテーブル横にひかえていた。

 

「どうせ拒否しても出向くことになるのだろう?」


 ランベルトはそう応じた。

「私の考えは変わらない。貴殿らに協力する気はない」

「それならそれで陛下と諸侯たちのまえでそう言えばいい。御身の安全は保証いたします」

 バルドヴィーノが言う。

「……貴殿ひとりが味方では心許(こころもと)ないな。武器を携帯したいが」

「ご自由に」

 バルドヴィーノがそう答える。

 ランベルトは意外に感じて目を見開いた。


「女王陛下に武器を向けないとだけ約束してくださるのなら」


 ランベルトは女王の従者をじっと見つめた。

「一つだけよいか」

 そうと尋ねると、バルドヴィーノが目を合わせてくる。

「貴殿がダニエラ殿と恋仲という兄の見立ては合っているのか」

 バルドヴィーノが、ゆっくりと目線を逸らす。

「兄君は、あんがいロマンティストであられるな」

「合っているのか」

 ランベルトは語気を強めた。

「何のことはない。幼いおりからお仕えしているので、それに近い感情をもった時期もあるというだけです」

「いまは?」

「いまも何も、陛下はつい先日まであなたのもとへ嫁ぐご予定だったのですが」

 バルドヴィーノがそう返す。

「あの婚姻は、だれが企んだものだ」

「企んだ……」

 バルドヴィーノが苦笑する。


「われらにしてみれば必死の生き残りの策だったのですよ。企んだと言われるのは少々」


 ランベルトは従者をじっと見返した。本心だろうか。

「ダニエラ殿といつわり、べつの女を嫁がせることもできたのでは」

「その女が気の毒でしょう。そういうのは嫌いなお人ですよ」

 従者のふりをした兄と会ったおりには、ずいぶんと傲慢なもの言いだったがとランベルトは思った。

 それとも、あのとき彼女はすでに兄の目的に気づいていたのか。


「なぜ身代わりの人形などよこしていた」

「私をはじめ数人の側近が強くおすすめしました」


 バルドヴィーノが答える。

「種族の者が何代にもわたって帰っていない世界だ。危険かどうかも分からない世界を、女王陛下

に歩かせるわけにはいかないでしょう」

 ランベルトは黙って精悍な顔を見つめていた。

 こちらの世界では数少ない好意的な人物とはいえ、ダニエラが本気で好いているなどとたぶらかしも言っていた者だ。

 けっきょく彼女がどんな人なのかは、自分で見極めるしかないのか。


「広間だな」


 ランベルトはそう確認した。

 机の椅子にかけていたクラバットを手にとり、首にかけて結ぶ。

「お手伝いを」

 バルドヴィーノが女官たちにそう指示する。

「……ああ、それとも私がお手伝いしたほうが」

「けっこう。自分でできる」

 ランベルトは答えた。





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