Regina delle rose sul trono. 玉座の薔薇の女王 I
「広間に」
城の客間に半ば軟禁状態で置かれて三日め。
バルドヴィーノはダニエラの意向を告げにきた。
「もう少し時間を差し上げてもよろしいのですが、そのまえにあなたに餓死されてはたまりませんから」
バルドヴィーノが苦笑する。
ランベルトは睨みつけた。
空腹で身体が少しだるかったが、平気なふりをする。
いつもの女官たちがカーテシーのあいさつをしてテーブル横にひかえていた。
「どうせ拒否しても出向くことになるのだろう?」
ランベルトはそう応じた。
「私の考えは変わらない。貴殿らに協力する気はない」
「それならそれで陛下と諸侯たちのまえでそう言えばいい。御身の安全は保証いたします」
バルドヴィーノが言う。
「……貴殿ひとりが味方では心許ないな。武器を携帯したいが」
「ご自由に」
バルドヴィーノがそう答える。
ランベルトは意外に感じて目を見開いた。
「女王陛下に武器を向けないとだけ約束してくださるのなら」
ランベルトは女王の従者をじっと見つめた。
「一つだけよいか」
そうと尋ねると、バルドヴィーノが目を合わせてくる。
「貴殿がダニエラ殿と恋仲という兄の見立ては合っているのか」
バルドヴィーノが、ゆっくりと目線を逸らす。
「兄君は、あんがいロマンティストであられるな」
「合っているのか」
ランベルトは語気を強めた。
「何のことはない。幼いおりからお仕えしているので、それに近い感情をもった時期もあるというだけです」
「いまは?」
「いまも何も、陛下はつい先日まであなたのもとへ嫁ぐご予定だったのですが」
バルドヴィーノがそう返す。
「あの婚姻は、だれが企んだものだ」
「企んだ……」
バルドヴィーノが苦笑する。
「われらにしてみれば必死の生き残りの策だったのですよ。企んだと言われるのは少々」
ランベルトは従者をじっと見返した。本心だろうか。
「ダニエラ殿といつわり、べつの女を嫁がせることもできたのでは」
「その女が気の毒でしょう。そういうのは嫌いなお人ですよ」
従者のふりをした兄と会ったおりには、ずいぶんと傲慢なもの言いだったがとランベルトは思った。
それとも、あのとき彼女はすでに兄の目的に気づいていたのか。
「なぜ身代わりの人形などよこしていた」
「私をはじめ数人の側近が強くおすすめしました」
バルドヴィーノが答える。
「種族の者が何代にもわたって帰っていない世界だ。危険かどうかも分からない世界を、女王陛下
に歩かせるわけにはいかないでしょう」
ランベルトは黙って精悍な顔を見つめていた。
こちらの世界では数少ない好意的な人物とはいえ、ダニエラが本気で好いているなどとたぶらかしも言っていた者だ。
けっきょく彼女がどんな人なのかは、自分で見極めるしかないのか。
「広間だな」
ランベルトはそう確認した。
机の椅子にかけていたクラバットを手にとり、首にかけて結ぶ。
「お手伝いを」
バルドヴィーノが女官たちにそう指示する。
「……ああ、それとも私がお手伝いしたほうが」
「けっこう。自分でできる」
ランベルトは答えた。




