L'assassino è la figlia della fidanzata. 殺戮者は令嬢
「死体が動いていたのは分かった。それがなぜ使用人や私を襲うのだ」
私室を後にする。
玄関ホールへとつづく階段を降りながらランベルトは尋ねた。
屋敷のなかで動いている者はだれも見受けられない。
いつもは廊下やホールのあちらこちらに灯してあるロウソクの灯りが、今夜はいっさいつけられていないので、屋敷中どこも真っ暗だ。
アノニモの使役する大男の悪魔が、手の上に松明のように焔を灯して先導してくれる。
うしろには、護衛のように手燭を持ったアノニモがいる。
二つの火でうすく照らされた屋敷内が、自身の育った家ながら非常に恐怖を感じさせる。
ランベルトは、拳銃の入ったポケットをたしかめた。
「やらせているのは、薔薇を送ってきた人物です」
アノニモが切り出す。
ランベルトはふり向いて仮面の顔を見た。
「送ってきたのはダニエラ殿だが……」
眉をよせる。
箱入りの貴族の令嬢に、こんなだいそれたことができるのか。
「バルロッティ家の使用人か何かが?」
「話は通じていますか? ランベルト」
アノニモが少々もどかしそうに言う。
「通じているが……」
「本人ですよ」
「バルロッティ家に潜入したどこぞの間者が薔薇に細工を……?」
「話をむだにややこしく創作するのやめてもらえませんか」
アノニモが口元をゆがめる。
「しかし、いち令嬢がこんなことをやるわけが……」
「あなたが狙われた理由が一つ分かった気がします」
アノニモが言う。
「コンティの悪魔祓いの素質がどうこうというまえに」
アノニモが声のトーンを落とす。
「騙しやすい」
「な……」
「魔力のようなものは通じないが、そもそもふつうに騙せる」
「なん……」
ランベルトはもういちど仮面の顔をふり向いた。
完璧だった兄のパトリツィオほどではないにしても、兄が亡くなったあとは真面目でしっかり者で通ってきた。
兄に少しでも近づけるよう努力してきたつもりだ。
「こんなお坊っちゃまが次期当主とは。コンティの先が少々」
「おまえに関係ない」
ランベルトは眉をよせた。
ふいに足元に大きなものが落ちているのに気づき、踏みそうになった足をよける。
人一人ほどの大きさだ。階段の途中にこんな大きなものが横たわっているなど、見たことない。
甘酸っぱい臭いがする。
ランベルトは無言で口に手をあてた。
「ランベルト、気をつけて」
アノニモが早足で横に降りてくる。
「死体です」
ランベルトは息を震わせた。
アノニモが、屈んで手燭を死体に近づける。慎重に照らした。
服装からすると、下男のようだ。
顔に覚えはない。
屋敷内でも直接に顔を合わせたことはほとんどなかった者だろう。
見回すと、周辺にいくつか同じような大きさのものがある。
「あの女中たちにやられたのか?」
「そうでしょうね」
アノニモがゆっくりと手燭を死体から離す。
「何が目的で」
「さあ」
アノニモがあたりを見渡す。
「彼女のいちばんの目的はあなたでしょうから、それ以外の殺戮となると何がしたいのやら」
「彼女? 女中たちのことか?」
ランベルトは問うた。
「文脈的に女中のはずがないでしょう」
アノニモが眉をよせる。
「ダニエラ殿でしょう」
「いや待て」
ランベルトはなおも否定した。
「おまえはダニエラ殿を悪者にしすぎではないのか?」
「悪者も何も、あれはコンティと対立してきた悪魔どもの現女王ですよ」
ランベルトは仮面の顔を見た。
「……えっ」
「えっじゃない」
アノニモが子供を叱咤するように言う。
「いきなり言っても理解しにくいだろうから、徐々に説明して行こうと思っていたのですが」
アノニモが言った。




