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コシュマール 〜薔薇の心臓〜  作者: 路明(ロア)
Episodio sei 踊り場に悪魔がいる

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23/79

L'assassino è la figlia della fidanzata. 殺戮者は令嬢

「死体が動いていたのは分かった。それがなぜ使用人や私を襲うのだ」

 私室を後にする。

 玄関ホールへとつづく階段を降りながらランベルトは尋ねた。

 屋敷のなかで動いている者はだれも見受けられない。

 いつもは廊下やホールのあちらこちらに灯してあるロウソクの灯りが、今夜はいっさいつけられていないので、屋敷中どこも真っ暗だ。

 アノニモの使役する大男の悪魔が、手の上に松明(たいまつ)のように焔を灯して先導してくれる。

 うしろには、護衛のように手燭(てしょく)を持ったアノニモがいる。

 二つの火でうすく照らされた屋敷内が、自身の育った家ながら非常に恐怖を感じさせる。

 ランベルトは、拳銃の入ったポケットをたしかめた。


「やらせているのは、薔薇(ばら)を送ってきた人物です」


 アノニモが切り出す。

 ランベルトはふり向いて仮面の顔を見た。

「送ってきたのはダニエラ殿だが……」

 眉をよせる。

 箱入りの貴族の令嬢に、こんなだいそれたことができるのか。


「バルロッティ家の使用人か何かが?」

「話は通じていますか? ランベルト」


 アノニモが少々もどかしそうに言う。

「通じているが……」

「本人ですよ」

「バルロッティ家に潜入したどこぞの間者が薔薇に細工を……?」

「話をむだにややこしく創作するのやめてもらえませんか」

 アノニモが口元をゆがめる。

「しかし、いち令嬢がこんなことをやるわけが……」

「あなたが狙われた理由が一つ分かった気がします」

 アノニモが言う。

「コンティの悪魔祓いの素質がどうこうというまえに」

 アノニモが声のトーンを落とす。


(だま)しやすい」

「な……」


「魔力のようなものは通じないが、そもそもふつうに騙せる」

「なん……」

 ランベルトはもういちど仮面の顔をふり向いた。

 完璧だった兄のパトリツィオほどではないにしても、兄が亡くなったあとは真面目でしっかり者で通ってきた。

 兄に少しでも近づけるよう努力してきたつもりだ。


「こんなお坊っちゃまが次期当主とは。コンティの先が少々」

「おまえに関係ない」


 ランベルトは眉をよせた。

 ふいに足元に大きなものが落ちているのに気づき、踏みそうになった足をよける。

 人一人ほどの大きさだ。階段の途中にこんな大きなものが横たわっているなど、見たことない。

 甘酸(あまず)っぱい臭いがする。

 ランベルトは無言で口に手をあてた。

「ランベルト、気をつけて」

 アノニモが早足で横に降りてくる。


「死体です」


 ランベルトは息を震わせた。

 アノニモが、屈んで手燭を死体に近づける。慎重に照らした。

 服装からすると、下男のようだ。

 顔に覚えはない。

 屋敷内でも直接に顔を合わせたことはほとんどなかった者だろう。

 見回すと、周辺にいくつか同じような大きさのものがある。

「あの女中たちにやられたのか?」

「そうでしょうね」

 アノニモがゆっくりと手燭を死体から離す。

「何が目的で」

「さあ」

 アノニモがあたりを見渡す。

「彼女のいちばんの目的はあなたでしょうから、それ以外の殺戮(さつりく)となると何がしたいのやら」

「彼女? 女中たちのことか?」

 ランベルトは問うた。

「文脈的に女中のはずがないでしょう」

 アノニモが眉をよせる。

「ダニエラ殿でしょう」

「いや待て」

 ランベルトはなおも否定した。

「おまえはダニエラ殿を悪者にしすぎではないのか?」

「悪者も何も、あれはコンティと対立してきた悪魔どもの現女王ですよ」

 ランベルトは仮面の顔を見た。


「……えっ」

「えっじゃない」


 アノニモが子供を叱咤(しった)するように言う。

「いきなり言っても理解しにくいだろうから、徐々に説明して行こうと思っていたのですが」

 アノニモが言った。





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