È ora di mangiare. お食事の時間です I
五、六人ほどの女中が、金属を引きずる音をさせながら近づく。
廊下のガラス窓から月光が射しこみ、女中たちの姿をかすかに照らした。
歩き方はしゃんとしているが、顔は無表情だ。
引きずっている音からさっするに、また斧だろうか。
「ランベルト様」
女中たちは部屋の手前までくると、手にしたものを銘々にふり上げた。
「お食事の時間です」
やはり斧だ。
「やれ!」
アノニモが声を上げた。ランベルトを背中に庇う。
大男の悪魔が女中たちのまえに降り立ち、咆哮を上げた。
肩を大きく張り、全身から激しい焔を立たせる。
廊下が赤く禍々しく照らし出され、女中たちの影が廊下の奥に伸びた。
焔が女中たちを巻きこみ、突風のような火炎でなで上げる。
焼けただれて赤く縮んだ肌で、女中たちが転倒し床を這った。
「なぜそろいもそろって斧なんだ。あなたは女中に木樵の仕事でもさせていたんですか」
アノニモが問う。
「一日の詳細な仕事内容までは知らん」
ランベルトは、つい怯んでしまった感情をおさえた。
転倒した女中たちか床に手をつき床の上に両脚を這わせる。
立つことはできず、足の側面でいつまでも床をこすっていた。
「もういい、アノニモ。あとは逃げればいいんだろう?」
アノニモの肩をつかむ。
「だめです」
アノニモがそう返す。大男の悪魔に向けて、続行しろと感じに顎をしゃくる。
「いや、だから」
ランベルトは声を上げた。
「私が逃げればよい話ではないか!」
「骨まで焼きつくせ」
アノニモがそう命じる。
大男の悪魔が唸り声を上げた。
女中たちの身体からそれぞれに火柱を立つ。
皮膚が溶けて骨が剥き出しになり、紙のように燃えてくずれ落ちる。
ややして火焔は細くなり消えた。何ごともなかったかのように廊下がふたたび暗くなる。
いま灯りで照らせば、床のところどころに女中たちの跡をしめす焦げめくらいは見つけられるだろうか。
窓から射す月明かりだけでは、よく見えない。
脂と肉の焦げる嫌な臭いがただよう。
ランベルトは座りこみそうになった。
「おっと」
アノニモがふり向き右腕をつかむ。
「大丈夫ですか?」
無理に立たせるつもりはないらしい。
ランベルトが壁に背中をあずけて中腰になると、腕を離した。
「お腹空きました?」
「この事態で空くわけが」
ランベルトはげんなりとそう返した。
「おいしい料理のことでも考えてみたらどうです」
「料理……」
ランベルトは前髪をかき上げた。
「骨つき焼肉とか」
「うっ……」
とたんに吐き気がこみ上げる。
女中の身体が溶けて焼け焦げていく様子が、頭のなかでつぎつぎと連想された。
「ビステッカお好きでは」
アノニモが言う。
「今後は食べられなくなりそうだ……」
「おかしな回想といっしょにするからですよ」
アノニモが言う。二、三歩ほどランベルトから離れて、廊下のつきあたりのほうを見渡した。
ほかに襲ってくる者はいないか伺っているのか。
「回想と口に入れるものはべつです。切り離して考えなさい」
「そんな器用なまねは……」
ランベルトは眉をよせた。
アノニモが、じっと廊下の向こう側を見る。
「まだいるのか?」
「来てます」
アノニモが答える。
「逃げよう。鉢合わせするまえに」
ランベルトは中腰から体勢をもどした。
前ポケットに入れたフリントロック銃を服の上から確認し、ほかに必要なものはないか私室のほうを見る。
「いいえ」
アノニモは答えた。
「ここで待ちます」
ランベルトはふり向いた。
「何もムリして」
「どうせ追ってきます。外には出さず全滅させましょう」
アノニモが将校服の襟の留め具を片手で直す。
ランベルトは、その仕草を何気なく見た。
「何です?」
アノニモが問う。
「いや……」
霊なのに、服の留め具が気になるのか。
生前のクセだったのだろうかと思った。
暗い廊下の奥から、金属を引きずる音がする。
石畳が敷きつめてある古い通路を通っているのだろうか。
引きずる音は、石の隙間と思われる箇所でときおり途切れた。




