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コシュマール 〜薔薇の心臓〜  作者: 路明(ロア)
Episodio quattro 薔薇の飾られた部屋
13/79

Il profumo delle rose e la fanciulla cadavere. 薔薇の香りと死体の女中 I

 ロウソクの灯りを消して眠りについたのは、どれくらいまえの時間帯だったか。

 ランベルトは、人の気配と重さを感じて目を覚ました。

 目を開けたはずなのに、真っ暗で何も見えない。

 視線を感じるのだが、どこからの視線か。

 光をさぐろうと懸命に目を見開いた。

 部屋の灯りを落としたとはいえ、月明かりで少しなら見えるはずだと思うのだが。

 自分のものとは違う息遣いが聞こえる気がする。

 太く荒い、興奮したような息遣いだ。

「ええと」

 発音ができて自身の声が耳に届いたことで少々ホッとしたが、それでも視界は不明瞭なままだ。

「あー」

 意味のない声を出してみる。

 興奮した獣のような息遣いが、耳元で聞こえた。

 頬に冷たい息がかかる。

 何者かに上にのしかかられているようだ。

 恐怖でにわかに身体が硬直する。 

「アノニ……」

 思わずそう言いかけた。

 ふだんなら執事か従者を呼んでいるところだが、なぜあの正体不明の霊の名前が真っ先に出たのか。

 のしかかっていたものが、位置をずらした。

 カーテンごしの月明かりが視界に入る。

 のしかかっているのは、女性のようだ。

 どこかで見た顔だと気づき、記憶をさぐる。

 昼間、生けた薔薇(ばら)を運んできた女中に似ている気がした。

 薔薇は窓の横に飾られたままだ。暗いなかで金色に近い黄色が映えて見える。

「……えと、きみ?」

 ランベルトは戸惑った。

 女中が衣ずれの音をさせて顔を近づける。

 ランベルトの肩に手をかけて、唇を近づける。

「何か……身体の具合でも」

「お慈悲をくださいませ」

 女中が不自然にガクガクと身体をゆする。

「慈悲……」

「ランベルト(ぎみ)と夜をすごしたく思います」

「は?」

 何だこれは。ランベルトは困惑した。

 ウワサに聞く主人の愛人ねらいの何とかか。

 いままでそんなものに遭ったことはなかったが、父がいよいよあれだとなると来るものなのか。

「いや……ちょっと待て」

 怪しすぎて、その気になる以前に怖い。

「お慈悲をくださいませ、ランベルト(ぎみ)

 女中が勢いよく腹の上に跨がる。

 いきなり腹を圧迫され、ランベルトはグッと息を吐いた。

 続けて女中はランベルトの両の頬を乱暴につかむ。

 口づけをするような動作をしたが、ランベルトは顔を逸らして避けた。

 唇の端から頬にかけて、甘酸(あまず)っぱい匂いの唾液をべっとりとつけられる。

「ちょっ……きみ」

 ランベルトは女中の肩を押しのけようとしたが、グググッと肩で押し返される。

 女性にしてはずいぶんと力が強い。

「お慈悲を、どうぞ」

 女中が(にご)った声で言う。

「ランベルト(ぎみ)

「……ちょっと待て」

 ランベルトは懸命に押し返した。

 女中が寝具に手をつき、ランベルトをさらに強い力で押し返す。

 甘酸っぱい匂いの息が顔にかかる。

 何の匂いだったかとランベルトは思った。

 果物のさわやかな甘酸っぱさとは違う。嫌悪感を覚える甘酸っぱさ。

 渾身の力をこめてようやく少し押し返すと、ベッドの横にだれかが立っているのに気づいた。

 白い服の者のようだ。

 執事だろうか。

 ランベルトは手を借りようと顔をそちらに向けた。

 こちらの状況を何だと思っているのか、ベッドの横の人物はゆっくりと胸に手をあて一礼した。

 折り目正しい仕草で上げた顔には、白いマスカレードマスクをつけている。

 アノニモだった。





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