幼馴染の
三題噺もどき―さんびゃくななじゅうに。
小さなざわめきが、礼拝堂の中を支配している。
「……」
見上げていると首の後ろが痛くなるほど高い天井。
窓にはめられたガラスは、外の陽を迎え入れ、皆を明るく照らしている。
「……」
入り口の扉は、閉じられたまま。
扉の前には一本の道が作り上げられている。
その左右には横に長く伸びたベンチのような椅子が、同じ数だけ並んでいる。
そこに、余裕を持ちつつ少し窮屈に感じる程度の人数で、人々が座っている。
普段はこんなに、人が入ることはない。
「……」
扉から続く道の先には、祭壇。
既に、2人の人物がそこに立っている。
恰幅のいいいかにもな感じの神父らしい人。
緊張をはらんだ面持ちの若い男性。
「……」
豪華とは言えずとも、厳かさのある、町の礼拝堂。
ここで結婚式をするのが私の夢なのだと、幼い頃から彼女は言っていた。
幼馴染の彼女がずっとあこがれていたあの子が。
楽しそうに、嬉しそうに話してくれたあの日のことは今でも覚えている。
この礼拝堂を見上げながら、キラキラと瞳を輝かせていた幼いあの子の表情は、忘れがたいものだった。
―今日、その夢を、彼女は叶える。
「……!」
ぼうっと、そんなことを思い返していると、突如空気が澄んだ。
しんとした空気に支配され、より強く厳かさが強化されたような気がした。
皆の視線の先を見やると、扉が開き始めていた。
「……」
ギィ―と開かれる扉。
その先。
「――ぁ」
思わず漏れた小さな声。
それを咎める人はいない。
そこにいる皆が、その姿に息を飲み、目を奪われた。
「――」
真白なウエディングドレスに包まれた彼女。
薄いヴェールの向こうでは、少し恥ずかしそうにはにかむ彼女がいた。
その隣には、彼女の父が立つ。
「――」
翼のない天使がいる。
皆がそう思っただろう。
「――」
皆の注目の中、ゆっくりと歩みを進めていく。
一歩。
一歩。
これまでの人生を確かめるように。
過去を思い起こし、これまでを祝うように。
静かに。
それでいて確かに。
歩みを進めていく。
「――」
彼女は、祭壇につくと。父の手を離れ、若い男の隣に立つ。
少し涙目になりながら、惜しみながら、離れていく父を見送り。
2人は、しゃんと、共に立つ。
「――」
それから静かに、式が始まった。
空気が徐々に澄んでいくような気がした。
参列した皆は、それぞれに彼女たちの門出を祝い、歓迎し、誓いの証人となった。
「……」
友人としての参加なので、少し離れた所から彼女を見ていた。
横顔ばかりが見えたが、それでも彼女は美しかった。
見たこともないような、輝かしい笑顔で、見つめあっていた。
「……」
それから式が終わり。
2人は、最初の道を共に歩む。
「……」
彼女が父と、過去を思いながら歩んだ道を。
これからを、将来を、輝かしい未来を思いながら、歩んでいく。
「……」
皆に祝福されながら、彼らは真っすぐ進んでいく。
そして、2人で鐘を鳴らす。
「……」
厳かに響くその音は。
彼らの両親を、参列した皆を、2人のこれからを、祝福する。
その音を遠くに聞きながら、ほんの少し寂しい気持ちに襲われた。
お題:礼拝堂・翼・響く