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導入3

 「ブー、ブー」とけたたましくクラクションの音を鳴らしながら車を走らせる。


 モンスターたちと戦っていた警察官等も、それで自分の狙いに気付いたらしい。


 モンスターたちが此方に注意を払って、動きを鈍らせた隙に慌てた様子で退避する。


 とは言え、打ち合わせなど何もしていない中、そう都合よく全員が退避することなどできる筈もない。


 モンスターと人が交戦を続けている場所は避けて――モンスターだけの集団となっている場所を狙い済まして――アクセルをベタ踏みにする。


 体の芯がヒヤッと冷たくなるような急加速で勢いを増した特攻アタックで、モンスターを跳ね飛ばす。

 

 車に鈍い衝撃音が走るのを感じながら慌ててブレーキを掛けるが、少し遅かったらしく勢い余って、歩道脇のガードレールに激突してしまう。


 ……クソッ、レースゲームは苦手なんだよ。


 ある意味で、非常に馴染み深い壁に激突する感覚に悪態を突きながら、勢いよく飛び出してくるエアバックを邪魔だと払いのける。


 すると、車とガードレールに挟まれて押し潰されたモンスターが、目の前でデータ片となって崩壊するようなエフェクトを撒き散らしながら霧散していくのが見えた。


 どうやら特攻アタックで、モンスター共を倒すことはできるらしい。


 そして、全身真っ黒のモンスターたちは、黒いもやで全身が覆われているのではなく、体そのものが黒い靄のようなもので形作られているようだ。


 何にしても、特攻アタックが有効であると分かった以上、やるべきことに迷いはない。


 ……車が動く限り、暴走し続けてやる。


 今度はギアをバックに変えて車を勢いよく後退させて、先ほどの突進を受けても立ち上がってきたモンスターや、新たに穴から出てきた新手のモンスターたち目掛けて突進を敢行する。


 再度モンスターたちを跳ね飛ばした後は、今度は前進と―――馬鹿の一つ覚えのように目一杯アクセルを踏み込んだ前進と後退を繰り返す。


 動きの鈍い人型モンスターとは違い、俊敏性の高い動物型モンスターには、車による特攻アタックを避けられることも多い。


 が、確実に敵の数を減らせているし、何より一番の狙いである敵の足並みを乱すことに成功しているので問題はない。


 こちらに注目を集めて、他の人に襲い掛からない状況を作れているのならば、こちらの目的は果たせているようなものだからだ。


 何とか応援が到着してくれるか、先ほどまで怪物たちと戦っていたNPCたちが体勢を立て直して、何か手を打ってくれれば最善だが、そこまで期待してはいない。


 最悪、負傷者を何処かの建物内に避難させるまで時間を稼いで、建物内で籠城することができれば直ぐに軍か、警察が動いてくれるだろう。


 相手の数だけが問題ならば、それで十分に対応が可能な筈だ。


 ただ問題は、それまで、こんな捨て身の暴走・特攻アタックを続けていられるかだ。


 「ほら、どけ、轢かれたくなかったら穴倉に引っ込んでろ」

 

 敵を引き付けて威圧するように啖呵を切って見せてはいるが、自分の運転技術的と車の耐久度を考えると後5分、いや甘く見積もっても3分が限界だろう。


 ………いや、もしかしたら、それすらも難しいかもしれない。


 玉が縮み上がるようなアクセル全開の急加速で、前進と後退を繰り返す。捨て身の暴走アタックを4回ほど敢行して30秒ほどの時間を稼いだところ。


 自分の目論見を潰すように大穴から例の如く、黒い靄で形作られた優に2メートルは超えているだろう長い尻尾を持ったリザードマン型のモンスターが這い出てくるのを確認して、思わず顔が引き攣る。


 怪物の大きさが、どんどん大きくなってきているような状況に悲観的な予想が浮かぶが、今はやれることを精一杯やるしかない。


 リザードマン型のモンスターが、此方に狙いを定めるのを見止めて、少しでも助走距離がある内に勢いを付けるべく、相手が動く前にアクセルベタ踏みの特攻アタックを仕掛ける。


 ハンドルを握る手が白くなるほど握り締め、急加速に体の血が沸騰するような、冷たくなるような、緊張感に息を止めて歯を食い縛りながら―――体勢を低くして肩からブツカってくるリザードマンと正面から衝突する。


 結果、お互い跳ね返されるように吹き飛ばされた。


 車が一瞬浮いたように数メートルほど後退した事実に、肝を冷やす。


 現実だったら、その衝撃で首が鞭打ちになったり、何らかの怪我を負ってしまっていたことだろう。


 幸いなことにゲーム世界だからか、ダメージ計算的には車の方がメインで、プレイヤーである自分は、軽い眩暈のようなものを覚えるだけで済んだ。


 だが、だからと言って安堵していられるような余裕もない。


 この瞬間を狙っていたのか、常に動き続けるように意識していた車が止まった隙を突くように、黒い靄で形作られた人骨らしき姿形のモンスターが持っていた黒い剣が助手席の窓に叩きつけられ、鈍い音を立てて粉々に砕け散る。


 そのまま黒いスケルトンが、助手席側の窓から車内に押し入ろうと上半身を乗り出し、剣先を此方に向けようとしてくる。


 ―――まずっ!?


 真っ黒な頭蓋骨の目が此方を睨み据えてくることに怖気のようなものを覚えて――反射的に、再びアクセルを思いっきり踏み込んで先ほど吹き飛ばしたリザードマンが地面から起き上がろうとしていた所に突っ込み、その勢いのまま歩道に乗り上げ、勢い余ってその先の店の壁に勢いよく衝突する。


 「いっつぅぅぅ」


 その衝撃が体中を駆け抜けていくような、形容し難いダメージ感覚に眩暈のようなものを覚えながら、気絶といった状態異常状態にならないよう必死に意識を繋ぎ止める。


 幸いなことに、リザードマンと助手席側から押し入ろうとしていた黒いスケルトンは、その衝撃のダメージで、霧散するように消えていってくれた。


 その事実にホッと息を吐き出すが――全くブレーキを掛けることもなく壁に激突してしまった影響で、今度こそ車が完全にお釈迦になってしまったらしい。


 フロント部分は完全に凹んで、エンジンが停止していることに血の気が引く。


 慌ててギアをバックに入れてアクセルを踏み込むが、何の反応もないことに、「ああ、くそっ、3分も持たないのかよ」と悪態の言葉を吐いてしまう。


 こうなれば車から出て戦うしかないと意を決して、何か武器になりそうなものはないかと車内を見渡す。

 

 ――すると不幸中の幸いで、先ほどの黒いスケルトンが持っていた黒い剣が助手席の足元に転がっていた。


 (ドロップした)黒い剣を手に取り、へしゃげて上手く開かないドアを蹴り空けて車外に出るのだった。

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