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導入2

 ショッピングセンターの角に張り付き、顔だけを僅かに出すようにして、化物がいるという通りを覗き込む。


 ―――そこでは、爆破テロでも発生したかのように粉塵ふんじんが舞い散って、見知った街並みが滅茶苦茶になっており―――何より、形容し難い、物言わぬ、不定形の黒いモンスターたちが人に襲い掛かっていた。


 「うわぁぁぁぁあー」


 「くそ、近づくな、クソガァァー」


 まず真っ先に目に飛び込んできたのは、道路を寸断するほどの〝巨大な大穴〟だった。


 先ほど聞こえてきた、何かがへし折れていくような轟音は、おそらく道路が崩落していく際の音だったのだろう。


 6車線の車両道路に加えて、両脇の歩道や大通り通り沿いの建物の一部すらも飲み込むほどの大穴は、対岸の道路まで大橋でも架けなければ渡れないほど巨大であり――その深さは、遠目では正確な把握できないほど深いのか、ポッカリと真っ暗な闇が広がっているかのように見えた。

 

 また、崩落の衝撃の余波のせいか、大穴沿いの店やビルの窓ガラスは軒並み吹き飛び、車がひっくり返っている。

 

 加えて、道路を寸断するような巨大な崩落が生じたせいで、建物内に閉じ込められて逃げ遅れてしまった人がいるらしい。———助けを求める悲痛な声の大半は、専ら大穴沿いの建物内から聞こえてくるようだった。


 それだけでも十分、見知った近所が爆発テロの事件現場になったのを目の辺りしたような衝撃的な光景だったが―――それに輪を掛けて異常だったのが、手当たり次第に暴れる〝真っ黒なモンスター〟の存在だ。

 

 どうやらオバさんが言っていた通り、道路を寸断するように穿たれた巨大な大穴の中から、モンスターたちが這い出てきているらしい。

 

 黒いもやのようなもので全身が覆われた、人型や4足歩行の動物を模したような不定形な輪郭をした10数体ほどのモンスターたちが、数名の警察官を中心とした10人ほどの一般市民たちと本気の殺し合いを演じていた。

 

 大半が一般市民であるだろう彼らが、逃げずに協力して戦っているのは、大穴が開いた時の衝撃で、意識を失い、怪我して、自力で逃げられない人たちがいるからのようだ。


 モンスターと戦っている人たち以外にも、自力で避難できない人たちを大穴から少しでも遠ざけようと、比較的被害の少ない建物まで、搬送・移動をしている人たちの姿も確認できることから間違いない。

 

 そうした光景に、本当に自分の現実が壊れていくようなショックを受けながらも――動揺しそうになる心を落ち着け――自分がやるべきことを冷静に素早く分析していく。


 幸いなことに魔物は、それほど強くはないようだ。


 黒い靄のようなもので全身を覆われた真っ黒なモンスターたちは、姿形こそ人型だったり動物型だったり大小様々な形をしているが、ある程度の心得があれば一般人でも十分相手取れるような戦闘力であるらしい。


 それらのモンスターを相手にしている警察官以外の人たちが、バックやゴルフクラブなどといった有り合わせの装備で戦えていることが、その証左だ。


 まともな武器さえ手に入れば自分でも、戦力になることは十分に可能だろう。


 とは言え、それで戦力が十分だとは言えないようだ。


 本当に一般市民なのかと疑うような勇敢さを持ってモンスターと戦っている人たちだが、穴から次々と這い出て来るモンスターの数に押されて、ジリジリと大穴から後退させられており、半ば包囲されつつあることが伺えた。


 古来より包囲殲滅は、最も単純で効果的な戦法の一つだ。


 これは、避難の方だけを手伝っていれば良いと言う状況ではなさそうだ。


 モンスターたちの流入を防ぐ壁役がいなくなれば、モンスターたちは一気に雪崩れ込んでくるだろう。


 逆を言えばモンスターたちは、自分に敵対するものを優先的に狙う傾向があるらしい。


 それらの状況を加味して一番、効果的な動きを考えなければならない。


 考え無しに前線に飛び込んでも、やられるまでの時間を僅かに先伸ばしにするだけだ。


 それしか方法がないのなら仕方がないが、今の自分は遊兵であり、伏兵だ。


 その利点を最大限に活かす効果的な選択は何かと考えて———ふと思いつく。


 道路には、いきなり道が陥没してしまったこともり、疎らに乗り捨てられたエンジンが掛けられたままの車が停車しているのが見えたのだ。


 ……現状、すぐ手に入る一番殺傷能力のある武器はこれだろう。


 この思い付きを実行に移すことは、可能なのかと、状況を確認する。


 ―――反対車線はほぼ空いていて、モンスターと戦っている人たちがいる大穴周辺は、大穴が生じた時の衝撃で吹き飛ばされたのか、慌てて避難しようとして離れたのか―――車で大立ち回りを演じられるだけのスペースはありそうだ。


 もちろん、改造車両同士で衝突し合う類のゲームステージほどの広くはなく、十分とは言えないのだが、車一台が暴走するだけのスペースならあるだろう。


 ……やれるか? いや、やるしかない。


 意を決すると、エンジンが掛かったままの車に乗り込み、自動運転システムと補助運転システムを解除する緊急事態用の赤色のボタンを押し込み、完全マニュアルモードに切り変える。


 レーシング系のVRゲームで覚えた車の運転方法を思い出しながら、ギアをドライブに入れ、ハンドブレーキを外し、対向車線に勢いよく飛び出した。

Tips 近未来の自動車事情 自動運転が完全に普及している。空飛ぶ車も技術的には可能となっているが、未だに大半の車は地面の上を走っている。それは、空飛ぶ車の普及以上にドローンを使った宅配が主流となっており、車まで空を飛んでいると交通網と輸送路がかち合ってしまうためだ。例外的に空を飛ぶことができる車は、パトカーや救急車などの救急車両のみ。そこにはVR技術が全盛期を迎えたことにより、仕事も観光もVRで代価する人が増え、そもそも車を利用する人の数が減少したことも影響しているようだ。

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