キャラメイク
………何もない、真っ白な世界。
専用のチョーカーとヘッドギアを被って、待望のドラクロの世界にフルダイブして、最初に目の前に飛び込んできたのは、そんな自分の身体すらも見えない完全に漂白された無の世界だった。
「思い出してください。貴方が一体、何者なのかを」
そんな何もない世界から、何処からともなく、鈴を転がしたような綺麗な落ち着きのある声が聞こえてくる。
「貴方の名前は?」
不思議な響きを伴った、その問い掛けの言葉に理解する。
どうやら、キャラメイクの時間のようだ。
目の前の虚空に浮かび上がった半透明の名前入力画面に、思考入力で佐藤元の元という字の読み方を変えた「モト」という名前を打ち込む。
「その調子です、モト、次は貴方の姿を思い出してください、貴方はどんな人でしたか?」
次いで、何もなかった真っ白な空間に、元々登録してあった自分のバイタルデータを反映したのだろう。
少しだけアニメ調に変換された、自分の姿が浮かび上がる。
いつも鏡の中で見ている自分を少しだけ美形にしたような、けれど知り合いが見れば一目で自分だとハッキリと分かるような特徴を捉えた姿だ。
おー、すげぇー、本当に俺そっくりだ。
最新のゲームエンジンを採用したというドラクロの美麗で、質感すらもハッキリと伝わってくるようなアバターに感心する。
しかし、こうして客観的に改めて自分を見て見ると、俺ってやっぱり厳ついんだなぁーと思い知らされる。
身長185㎝の骨格がガッシリとしている体格に、感情の薄そうな無機質さを感じさせる風貌は、周囲に無意味に威圧感のようなものを撒き散らしているような気がする。
アバターの姿形や性別、年齢は自由に変更できるらしいので、せっかくならば変更してみよう。
今までにないシステムを採用したゲームという触れ込みで、他プレイヤーと協力することなどもあるらしいし、素顔そのままと言うのも問題があるかもしれないし。
それに、せっかくのゲームなのだから普段の自分のままの姿というのも面白くもない。
……体系や体格などは、それほど弄らなくてもいいが、せっかくだから、もう少し愛嬌があるというか、感情が表に出てくれる、人に怖がられない顔にしたい。
そう思って自分の顔を「お任せ」で何度か変更していると、自分の面影を残しながらも、人好きのする、温かみのある顔立ちになった。
特別なイケメンと言う訳ではないが、真っすぐな意思の強さが感じられる雰囲気が気に入って、このアバターの顔に決める。
これが、この世界での自分の姿だ。
最後にデフォで、幾つか用意されている服飾パターンの中から、何処かの高校の制服っぽいブレザー姿を選択する。
ブレザーを選んだことに特に深い意味はない。中学、高校と学ランだったので、ブレザーにしてみようと思っただけだ。
「この姿でよろしいですか」という最終確認の問い掛けの了承となる「決定ボタン」を押すと、先ほどまで眼前にあったアバターが、それまで形がなく不確定だった自分の姿と重なるように形を持つ。
「……どうやら自分の名前と、姿を思い出せたようですね、それでは、モト、最後にどうして貴方が今ここにいるのかを思い出してください」
『思い出す』
アイコンに示された、そのボタンを思考入力で決定する。
その瞬間、自分の意識が何処かに引っ張られるような奇妙な感覚を覚えて、立ち眩みのような感覚に意識が一瞬ブラックアウトしていった。
Tips フルダイブVR機器「コネクト」 専用のチョーカーとヘッドセットを使うことで仮想現実世界にフルダイブできる最新機器。その仕組みを最も単純に説明するなら、チョーカーとヘッドセッドを用いて、読み取った脳波(意識)とコンピューター(仮想空間内のデータ)を直接接続(同期)することで、仮想現実世界へのフルダイブを可能にする技術である。価格は、最新タイプで30万前後くらいが相場である。