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「深き森」探索8 「精霊の庭」2

 太陽が地平線の向こうに半分沈み、空が茜色に染まる頃。

 

 モトたちは「精霊の庭」に帰還した。

 

 「精霊の庭」を守るように聳え立つ、周囲の木々よりも二回りは大きい巨木に囲まれた、瑞々しい大自然の美しさに溢れた聖域内に入ると自然と無意識の内に張り詰めていた緊張感が解れていくのを感じた。

 

 気が緩んでしまったせいだろうか、ゲームの中の世界なので身体的な疲労はない筈なのだが、それでも一日動いて戦い詰めだったことによる疲労感のようなものを感じた。

 

 「んー、なんとか無事に戻れたねぇー」

 

 アオが、少しの疲れと達成感を噛み締めるように背伸びをしながら笑う。

 

 「だなぁ、結構な強行軍だったけど、お陰で進捗は悪くないんじゃないか?」

 

 「ああ、最低限のノルマはこなしただろう」

 

 シャロが荷物を下ろしながら楽しそうに笑いながら相槌を打つのに、自分も同意する。

 

 随分と熱中して「ウォーカー村・防衛クエスト」のために深き森の浅瀬~中層手前くらいまでを駆けずり回ったが一日目にしては十分な戦果だったのではないか。小呪災を一つ潰したし、呪いのトーテムも発見・破壊したし……これ以上の戦果を上げるとなると10人近くの凄腕揃いのパーティーが隊を二つに分けて探索するくらいしないとできないだろう。

 

 その戦果について報告して、相談したいことがあったのだけれど中層より先に進んだフランクさんとカミラさんの姿は見えなかった。

 

 「まだ、フランクさんとカミラさんは戻ってないみたいだね」

 

 「みたいだな、それじゃあ先に野営の準備をして、飯の用意をしとくか」

 

 自分は、ここから野営など面倒だと思うのだけれど、もともとキャンプが趣味であるシャロは表情を輝かせる。

 

 「んー、だねぇ、それじゃあ、ここからはシャロにリーダー役を任せるよ。頼むよキャンプリーダー」

 

 「ああ、指示してくれた通りに動くよ」

 

 アオが少し悪戯に笑いながらリーダー役の交換を申し出るのに、異論はないと告げる。

 

 「あはは、任された、このキャンプリーダーにお任せあれ、快適なキャンプライフを約束してやろうじゃないか」

 

 シャロは楽しそうに豊かな胸を叩いて見せると、楽しそうに人の手が入っていないとは信じられないくらい品よく調和した精霊の庭の中を見回していく。

 

 「まずは、どういう風に空間を使うかっていうレイアウトを考えるとこからだな。どこにテントを建てるか、どういうふうに場所を使うか……今回支給されたテントは、ワンポールタイプのベル型だから、ペグが打てる場所じゃないといけないし、斜度の問題とかも考慮に入れて――後はテントの直ぐ近くで料理をするかだな。私たちだけのキャンプならテント前で焚火を炊いてやればいいけど、後でカミラさんたちも来るとなると食事場所は少し離れた場所にって考えると……」

 

 シャロが楽しそうに精霊の庭内を見て回りながら、ああでもない、こうでもないと本当に楽しそうに思案しているのを見ていると、キャンプなど面倒だと思っていたが、何だか自分もキャンプが楽しみになってきた。

 

 改めてみると「精霊の庭」は、人の手が入っているかのように調和していながら、同時に大自然の雄大さも感じられて―――映画の中のワンシーンでも余り見られないくらい美しい場所で、キャンプができるのって凄い贅沢なことなのではないかと思えた。

 

 「シャロ、シャロ、私は、あの池が見られる場所がいい」

 

 「ふっふっふっ、当然、そこら辺は抜かりないから任せとけ。テントからどんな景色が見れるかでテンションが変わるからな。ここら辺は風も強くないし、水はけもいいから選び放題だしな。ベストアングルを探し中だ」

 

 「流石に頼りになる」

 

 「さすシャロ、さすシャロだよ、シャロ」

 

 「あっはっは、任せて置けって」

 

 そんな会話を和気藹々と楽しみながらアオの持っているバッグからアイテムボックスにアクセスして、テントを取り出して、シャロの指示の下でテキパキとテントを組み立てていく。

 

 芝生の上に毛皮の絨毯をシート代わりに広げて、中心に鉄の支柱を立てて、建てる外から見ると三角形の形に見えるテントをシャロの「モトは支柱を支えていてくれ」「アオはそっち側でテントを持って」といった指示に従うことで、10分ほどで手際よく組み立てる。

 

 テントの中は、5人くらいは寝られそうなほど広く、普通に立てるくらい天井も高く、閉塞感もない、立派なものだった。

 

 「わー、いいじゃん、いいじゃん。テントの民族模様っぽい刺繍とかもファンタジー世界の野営って感じでテンション上がるね」

 

 「ああ、テントから見える景色もいいな、池の周りの岩とか、花とかが良く見えて、大自然の中にいるって感じがする」

 

 「そうだなぁー、うん、悪くない、悪くないんだけどなー、テント内が殺風景過ぎるんだよなー、もっと椅子や机とか、モコモコの寝袋とか、シックなランプとか、カラフルな敷物とか敷いたりしてさー、あーマイギアを揃えたくなるー。くそぅ、スクラムめ、絶対にここで課金させる気だよなぁー、畜生、1万いや3万くらいまでは課金してやるからなー」

 

 自分とアオは十分過ぎると絶賛していたのだが、リーダーであるシャロは何やら物足りないらしい、何か自分たちとは違うところで不満そうにしながらも、楽しそうだった。

 

 「まぁ、まぁ、それより夕食はどうする? とりあえずドロップアイテムのジビエ肉は使うとして、後もう一品ぐらい欲しいよね?」

 

 「そうだなぁー、今日は初日だし、ジビエ肉のステーキと後はカマンベールチーズを使ったアヒージョとかにしてみるか?」

 

 アオの言葉にシャロがアイテムボックスの中身を確認しながら提案してくる。

 

 「何かお洒落そうな料理だな」

 

 「あははは、そんなたいしたもんじゃないって、アヒージョって要はオリーブオイルとニンニクの煮込みだからな」

 

 シャロは、自分の言葉に可笑しそうに笑いながら、アイテムボックスの中にしまってあった薪を取り出して、手際よく鉈で手頃の大きさに割っていく。

 

 自分も横でそれを手伝い、アオは精霊の庭の外周に向かいもっと細い手頃な枯れ木などを集めてくる。

 

 そうして、ある程度の薪の準備ができたところでアオが魔法で小さな火を起こして種火を作り、シャロが手慣れた様子で焚火の火を大きく育てていく。

 

 「たいしたもんだな、本当に焚火しているみたいだ。随分と優秀な物理エンジンを組んだみたいだな」

 

 「へぇー」

 

 「でも確かにスキルを使っている時以外にゲームっぽいなって感じるところがないよね」

 

 そんなことを話しながらシャロが育てていく焚火の炎が強くなっていく光景を意味もなく、なんだかずっと魅入ったように見詰めてしまう。

 

 テントを建て終えた時もキャンプをしているんだと強く感じて、何だか無性にテンションが上がったが、焚火の炎というのも見ているだけでテンションを上げる何か不思議な魅力がある。

 

 パチパチと焚火の火が爆ぜる音、薄暗くなってきた星空の星明りが強く輝くようになってきた中、周囲を照らす焚火の生きた焔の明かりが人里離れた場所にいるのだという実感を強く感じさせた。

 

 シャロは、焚火の上に直火で鉄板を一つ置いて、油を伸ばすと、塩、コショウの下味を付けた分厚いジビエ肉3枚を豪快に焼き始める。

 

 そして、その隣で鉄のフライパンにオリーブオイルを2センチくらいたっぷり入れると刻んだニンニク、唐辛子を入れたものを、少し火から離れた場所に火を掛けて弱火でオリーブオイルにニンニクと唐辛子の薫りと味を沁み込ませていく。

 

 ほどなくして、ジビエ肉の方から肉汁が溢れてくる頃、ジビエ肉をひっくり返して、ほどよい良い焦げ目がついているのに歓声を上げ。

 

 隣のフライパンのオリーブオイルが良い具合に火が通ってグツグツと煮立ってきたので、ウォーカー村からの支給品の仲にあった食材のマッシュルームを投入し、火が通ったところでミニトマト、ドラクロ世界内のオリジナルのカマンベールチーズのような見た目のチーズも投入して煮込んでいく。

 

 アヒージョの方が後は具材に火が通るのを待つだけになったところで、ジビエ肉の全面に軽い焦げ目がついて肉汁が鉄板の上に溜まってきた所で、匂い消しとしてドラクロ世界のハーブを投入して肉汁にハーブを溶かすようにした汁をお肉に塗り込むようにスプーンで全体に万遍なく塗していく。

 

 「ほい、完成、ジビエ肉のステーキにアンチョビチーズ煮込みだ。バゲットと一緒に、どうぞお熱い内にお召し上がりくださいな」

 

 「「おぉぉおー」」

 

 シャロがニヤリと得意げに笑いながら差し出してくれたステーキとアヒージョは、とても美味しそうだった。

 

 さっそく一口サイズに切り分けてくれていたステーキを食べてみると、全く臭みのない癖のない、肉の旨味が口一杯に広がっていくのが感じられた。塩コショウだけのシンプルな味付けだけにモチモチとした肉の触感とコクがあるのに脂身があっさりしているのは、普通の牛肉や豚肉とは違う美味しさが感じられた。

 

 「んっ、なんか牡丹肉みたいな感じの味だな」

 

 「牡丹肉ってイノシシだっけ? へぇ、こんな味なんだ。美味しいね」

 

 「ああ、でも、これなら、今度は鍋とかの煮込み系の調理してみるかな?」

 

 「ステーキでも、十分上手いぞ、サッパリ食べられるのに味も濃いし」

 

 「そうそう、これなら私でも一枚食べ切れそうだし」

 

 「そうか? なら良かった。アヒージョの方も食べてくれよ。バゲットの上にチーズと一緒に具材を乗っけて食べると美味いぞ」

 

 シャロは料理を褒められたことに少し照れくさそうにしながらも嬉しそうに笑い、もう一方の料理を勧めてくる。

 

 シャロに勧められるままスライスしたバゲットの上にアヒージョの中で少し溶けたチーズを乗せて、マッシュルーム、トマトを乗せて一口食べてみる。

 

 「おー、やっぱりトマトとチーズって合うねぇー」

 

 「んっ、やっぱり、なんか洒落ている味だ」

 

 「ふふっ、そうか、そうか」

 

 自分たちが美味しそうに食べている姿を見て、シャロが嬉しそうに笑う。

 

 「さぁ、どんどん食っていいぞー、フランクさんとカミラさんの飯は、また後で作り直せばいいしな」

 

 「わーい、食べるぞー、ゲームの世界じゃ幾ら食べても太らないから幸せだよねぇー」

 

 「お前は現実世界でも遠慮なんてしてないだろう?」

 

 「してます。罪悪感を感じない程度には……かろうじてだけど」

 

 「あははは、気にするな、気にするな、よく食べる女の子が好きだって男も多いらしいしな」

 

 そんな何でもない事を話しながら開放感に溢れた場所で、和やかに歓談しながら、美味しい夕食を食べることで、張り詰めていた心身が解れていくのを確かに感じた。

 

 真っ暗の闇夜の中、焚火とランタンの光、星の光だけで照らされた、神秘的な「精霊の庭」を自分たちだけで独占している贅沢感を思いっきり満喫する。


 夜が更けて満天の星空を見上げながら風に揺らぐ草木の音と水のせせらぎ、そしてバックミュージックのように何処からか流れる神秘的なBGMをボンヤリと聞きながら無理に話すでもなく、ゆったりと過ごしながらも、根がお喋り好きなアオとノリの良いシャロのお陰で和気藹々とした雰囲気のゆったりと時間を過ごしながら、フランクさんとカミラさんの帰りを待っていたのだけれど――――。

 

 その日、フランクさんとカミラさんは結局、夜遅くになっても「精霊の庭」に帰ってくることはなかった。

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