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「深き森」探索5

 小呪災を一つ潰した後、更に2時間ほど道なりに北上していく。


 道と言っても冒険者や狩人が森の探索に使う、獣道よりは幾分まし程度の悪路だったが、土地勘のない森を歩く時には重宝する。


 次は一体何が出てくるのかと楽しみ半分、不安半分に進んでいたが、どうやら先ほど小呪災があった場所が、ここら辺では一番地形が険しく、闇が深い場所だったらしい。


 それ以降、道は大分なだらかになるのに併せて魔物とエンカウントする頻度も少なくなり、偶に出てくるエネミーもゴブリンやコボルト、フォレストウルフといった既知の魔物だけだった。


 こちらのレベルが上がっていることもあり、ほとんど作業感覚で魔物を討伐していると、アオが薄々勘づいていた疑念を口にする。


 「あー、家には生まれる時代を間違えた時代錯誤な英雄様がいたから、あれだったけど……これがチュートリアルの延長だって考えると、この5日間で、あの小呪災を攻略するくらいがゲームマスター側の想定していた進捗である可能性は全然あるよねー」

 

 「だなぁ、愛しの英雄様抜きじゃあ、5日とまでは言わなくても3日くらいは掛かっていただろうしなぁ」

 

 アオとシャロが森の中を半分、散歩するだけになってしまっている状況に飽き飽きしたように愚痴を漏らす。

 

 「でもドラクロは、死にゲーだろう? 負けイベじゃない限り、繰り返し挑戦することで、ジャイアントキリングが可能なゲームシステムだし、俺たち以外にも小呪災を踏破したパーティーもいるだろ?」


 何だか悪いことはしていない筈なのに、悪いことをしたような気がして、言い訳をするように答える。


 「そうよね、流石にこのまま何も無いってことはないと思うんだけど……」


 「でも、ここまで来るとウォーカー村までは大分離れているし、ここからは広範囲を見て回るだけじゃなくて、ある程度怪しい場所に目星を付けて探索する、やり方にした方が良いんじゃないか?」


 「確かに、仮に、この先に小呪災があったとしても、この1週間で村に影響を与えるほどにはならなそうだよね? それなら後から来る伯爵領の応援に任せても良い筈だし………メタ読みして胸糞イベントが発生する可能性を叩くなら、ウォーカー村にもっと近くて分かりにくい場所を警戒すべきだって考えると………」

 

 アオとシャロは、そんなことを話しながら地図を開くのを横から覗き込む。

 

 冒険者や猟師などが通る獣道同然の道筋を基軸に、森の中に何があるか、高低差などが簡単に記されたウォーカー村の文化レベルを考えたら、想像以上に緻密な地図の上にコンパスを置くと、思っていた以上にウォーカー村から離れた場所に自分たちの位置が光点で示される。

 

 「思った以上に村から離れてたな」

 

 「だね、時間的にも、そろそろ『精霊の庭』に引き返さないといけなし、どういうルートで帰るべきかな……」

 

 アオが真剣な様子で地図を見詰めるが、どういうルートでここまで来たのかも今一分かっていない自分は、ボスの判断を静かに待つ。

 

 「とりあえず村に近い道沿いは粗方確認したし、行きの時は避けた道の険しい所を潰していく感じで良いんじゃないか?」

 

 「……うん、そうしようか、この森エリアを分ける断層みたいな崖沿いに帰ってみよう。道は無いけど丘沿いに進めば『精霊の庭』の近くまで迷わず帰れそうだし、このルートで帰れば北側を万遍なく探索できそうだしね」

 

 村に近い場所を警戒するというなら村側の田畑沿いに近い森を探索するコースもあったのだけれど、アオはシャロの意見を受け入れて、村から一番離れた険しいコースを選択したようだ。

 

 「いいんじゃないか」

 

 昨日、自分たちが村近くの小呪災を一つ潰したことを考えれば、そんなに幾つも村近くの分かりやすい場所に呪災が発生しているとも思えない。それに、隠しフラグ的なものを叩こうというのなら難所に進んだ方がいいだろう。何より、シャロが提案してボスが決断した以上、自分に否はない。

 

 「決まりだな」

 

 「よっし、じゃあ、シャロ、これまで以上に有効視野範囲が狭くなりそうだけど、斥候役よろしくね」

 

 「ああ、任せとけ」

 

 自分が同意したことでチーム内の意見がまとまったことで、ようやく楽しくなってきたとばかりに不敵に笑うシャロに続いて、森の奥まった険しい道に向かって進んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 森を奥と分ける崖の手前の森は一層と深くなり、獣すらも余り足を踏み入れない場所なのか、足元を覆いつくすように藪が生い茂っていた。

 

 歩ける場所も少なく道を踏み分け、切り拓くように進んでいくことになったが、崖沿いは日の当たりや土の質が違うのか、森の木が腐ったように倒れている光景が散見されて一段と足元が荒れていた。


 「何か少し雰囲気が変わったな」


 「うん、日が落ちてきて少し暗くなったからかもしれないけど、何か少し怖い感じがするね」

 

 自分の言葉にアオが薄ら寒さを感じたように自分の体を抱きしめながら答える。


 「まぁ、自然の森は、現実でもおっかないからな」


 シャロの言う通り。鬱蒼と茂る森は何処か薄暗く、視界が制限されて、ずっと変わらないような景色が延々と続くことに自然の雄大さを痛感させられて、そこに本能的な恐れのようなものを抱いてしまうのだろう。

 

 これはゲームだと頭では分かっているのだけれど、リアルと変わらない大自然には、それだけの迫力があった。背筋がゾワゾワと泡立つような自分の手には負えない巨大な何かを目にしたような、理解できない何かを目の前にした時に感じる畏れが、そこにはあった。

 

 「深き森」の大自然への畏れを表現した神秘的なフィールドBGMが、今は少しだけホラー映画への導入曲のように感じられてしまうのは、気の迷いだけではないのだろう。

 

 何度か散見的に表れるフォレストウルフやコボルドを討伐しながら進んだ先で、その直感が正しかったことが分かった。

 

 ————それは、いっそ唐突に目に入った。

 

 「………何だアレ?」

 

 森の探索を続けていた疲れもあり、自然と少し会話が途切れていた時、何かに気付いたようにシャロが言った。

 

 「何?」

 

 シャロの視線の先を追い掛けて、アオと共に視線をやると、そこには大きな角を生やした鹿らしき動物の死骸が、森の大木に突き刺すように磔にされていた。

 

 「うわぁ」

 

 細部は見えないが赤黒い血で染まった鹿の姿に思わず引いたような声を漏らしてしまいながら、小呪災以外に発見した明確な異変を確認するべく。


 シャロを先頭に臨戦態勢を整えながら死骸の下に向かっていく。

 

 その場所を認識してから一歩近づいた瞬間、深き森の神秘的なBGMから物悲しく、寒々しいBGMに切り代わる。それに合わせて何かが腐ったような異臭が鼻を突きさしてくる。

 

 「【生贄の供物】って……」

 

 「おいおい、和やかじゃないな」

 

 少しばかりショッキングな光景でスキルを使い忘れていたが、アオとシャロは忘れずに【鑑定】をしていたようで、その結果に眉を顰める。それを見て、自分も木に突き刺されたヘラジカを【鑑定】してみる。

 

 【生贄の供物 自然界ではありえない、必要以上に痛めつけ、苦しめるように、殺された形跡が残る。その行いによる恨みは場を穢し、呪いを呼び出す触媒となるだろう】

 

 鹿の角がなければ、素は何の動物だったのかも分からないほどに原型を止めていない肉塊にされた【生贄の供物】を痛ましげに眺めつつも、その悍ましさに体が震える。

 

 「おい、これ見ろよ」

 

 シャロの警戒したような険しい声に従って、ヘラジカから視線を移すと、そこには木や蔓、藁、動物の骨などを組み合わせて作った人型のように見える奇妙なシンボルめいたものが、まるで寄生するように木に打ち付け、刻まれていた。

 

 【呪いのトーテム 呪いを醸成する触媒 「捨てられた世界」の呪術師・ランメットによって生み出された呪法。それは人が人を呪うために生み出された最も純粋な呪いである。

 人を捨てることになっても、人を呪うことを止められない、それは彼らに残された最後の人間性の発露なのだろう】

 

 そのテキストを読んだ後に見る、不気味な紋様の組み合わせによって人型のように見えるトーテムは、背筋に冷たいものを感じるほど、恐ろしく、禍々しく見えた。

 

 「……人が人を呪うために生み出した『呪法』っか」

 

 「ああ、少なくとも、こいつは小呪災みたいに自然発生的に生まれたもんじゃないことだけは確かだな。………いや、それを言うなら小呪災や呪災ってものが本当に自然発生的なものなのかすら、私たちには分かってないんだがな」

 

 「……何にしても、こいつはフランクさんたちに報告しないとな」

 

 険しい表情を浮かべるアオとシャロと危機感を共有するように告げる。

 

 「だね、これがレアケースなのか、話すまでもない当たり前の事なのかも私たちには分からないしね……でも、本来、〝繁栄期〟で復興を謳歌している筈の『西の国・セフィラ』に小呪災が発生するのって、かなりのイレギュラーだって話だったよね。

 てっきり、私たちっていうイレギュラーに合わせたストーリーイベント何だと思っていたけど……今回の小呪災発生の原因が私たち以外にもあったとしたら……」


 「……なるほど、なかなかスクラムらしいゲームストーリーの片鱗が見えてきたじゃないか」


 アオの言わんとしていることを察して、シャロが獲物を前にしたような表情で頷く。

 

 「そうなった場合、俺たち以外のイレギュラーを見付けて叩くってことがミッションになるのか?」

 

 「そうなるね、この【呪いのトーテム】を作った黒幕を叩かない限り、今回の事件は本当の意味で解決にならないしね」

 

 「……だとなると、このトーテムを作った奴は何者なのかってのが気になるな。テキストを素直に読めば元人間の〝何か〟が呪い主って事になるんだろうが………この書き方だと、この世界の人間が呪いを施したって可能性も排除できないよな?」

 

 シャロの指摘に、アオが重々しく頷くことで同意する。

 

 「そこなんだよね、ストーリーの展開を考えれば、この森の中にいる元人間の黒幕のボスを叩くっていう展開が自然だけど、一癖あることで有名なスクラムなら人間の中に裏切り者を仕込むってのも普通にやり兼ねないし」

 

 「だなぁ、人間だった場合はある程度は絞れそうだけどなぁー、森の中に入っても疑われなくて、こんな森の中を自由に歩き回れる、レベル帯の人間だって考えれば、そんなに容疑者は多くないだろう」

 

 アオとシャロが顔を突き合わせて、何処か楽しそうに推理に没頭し始めるのに苦笑しながら話を引き戻す。

 

 「————そこは今、考えても分からないだろう。とりあえず、目の前のことから片付けようぜ。この呪いの祭壇をどうする? 壊すか、それとも現場保存を考えて残しておくか?」

 

 「あー、そうだね、うーん、まぁ、壊しちゃって良いんじゃない? 幾ら何でもここ一つだけって事はないでしょう」

 

 「だなぁ、もしかしたら下手に残しておく方が面倒かもしれないしな」

 

 「そうか、それじゃあパパっと処理して、こいつも休ませてやろうぜ」

 

 自分の提案にアオとシャロも同意するように頷いてくれるのを見て、此処の浄化はどうするか相談する。

 

 「って、いっても、どうすれば良いんだろうな。とりあえず、そのトーテムをぶっ壊して、小呪災みたいに浄化してみればいいか?」

 

 「うん、とりあえず、それで良いんじゃない?」

 

 「ああ、でも、気を付けろよ、浄化しようとすることで発動するトラップ的なモノがないとも限らないしな。物理的な罠なら事前に見つけてやれるが、魔法的なトラップは今の私じゃどうしようもないからな」

 

 「あっ、そっか、その可能性もあるね。それじゃあ、皆、気を引き締めていこう」

 

 「ああっ」

 

 シャロの指摘を受けて臨戦態勢を整えるように、改めて【無形の刃】の握りを確かめる。

 

 3人がそれぞれ周囲を警戒しながら武器を構えているのを確かめて、自分はアオに準備はいいかと確認するように視線を向ける。

 

 アオがコクリと頷き、シャロがニヤリと不敵に笑うのを確認して頷き、腰に差していた【無形の刃】を居合の要領で抜き打ち、一刀の下で【呪いのトーテム】を真っ二つに切り裂く。

 

 何が起こっても対応できるように数秒の間、警戒するが、何も起きない。

 

 警戒をし過ぎただろうかと思った時、何処か物悲しく、寒々しいBGMが音割れしたように歪んだ。

 

 「————【供物】だ!!?」

 

 シャロの鋭い声が聞こえた瞬間、反射的に【呪いの供物】から距離を取って相対するように構えると————目の前で肉塊だったものから真っ黒な闇が吹き上がり、その衝撃波でアオ、シャロと共に背後の崖まで吹き飛ばされてしまう。

 

 咄嗟に体勢を整えて、岩肌を覆うように草木が生い茂った崖に足から着地するようことができたが、次の瞬間。


 パチンと指を鳴らす音と共にアオが、アルカナスキル【私たちに距離はなく】で、自分の眼前に転移で飛んできた。咄嗟にお姫様抱っこをするような形で、何とか受け止めたが、その勢いに押されて結局、壁に背中からぶつかって鈍い衝撃が体に走る。


 「————来るぞ」


 その横で華麗に壁に着地してから、地面に降り立ったシャロが弓を構えながら叫ぶ。


 「ナイスキャッチ、行くわよ、モト」


 「—————応」

 

 ニコリと無垢な心底から信頼を寄せるような笑みを浮かべて笑うアオに何か文句を言う事もできず、苦笑しながら彼女を地面に降ろしてやり、彼女を受け止める時に地面に落としていた【無形の刃】を拾い上げる。

 

 とりあえず、このお返しは—————

 

 何処か攻撃的で禍々しいBGMをバックミュージックに現れた。目の前の、黒い触手が人型になったような怪物に叩きつけてやろうと刀を構えるのだった。

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