「深き森」探索4 小呪災攻略2
「フッ」
亡者が突き出してくる槍の一撃を半身で躱し、槍の引き手に合わせるように距離を詰めて、顔面に【致命の一撃】を叩き込む。
すると、スキル【直感】が反応して背中にチリチリとした電流のようなものが流れ、背中を誰かに狙われていることを察知して、その場を飛び退くと―――数舜の後、敵の亡者が放った弓矢が通り抜けた。
目の前から剣や槍を装備した3人の亡者の集団が押し寄せてきているが、先に弓使いの方から始末するか迷った。その瞬間、次の弓を番えようとしていた亡者の側頭部にシャロの放った弓矢の【強攻撃】の一撃が突き刺さった。
「ナイス、シャロ!!」
亡者が、糸が切れたように倒れ伏すのを視界の隅で確認しながら意識を目の前の亡者3人に意識を向け直し、【無形の刃】を大太刀へと変化させながら【強攻撃】のスキルを発動して大きく横に振り被る。
数を頼りに詰め寄ってくる剣と槍で武器の間合いがバラバラな亡者3人の連携の穴を着くように、【ステップ】を使った鋭い踏み込みで大太刀の間合いに入り込み―――渾身の【強攻撃】の一撃で、3人の亡者をまとめて力押しで撫で斬りにする。
………これで9体。
小呪災から生まれる亡者の集団の掃討戦も4回目となるが、これで今回リポップした亡者の半数は片づけた筈だ。周囲の敵を倒し終えて周囲を確認すると、新たにリホップしたらしい盾持ちを含む3体の亡者が、シャロに突っ込んでいくのが見えた。
捨て身の特攻を牽制するようにシャロが距離を取りながら弓矢を連続で放ち、敵の亡者を削っていく。その弓矢の攻撃に一体の亡者が倒れ、残った二体の亡者が盾で急所を守りながらシャロに向かっていく。
「モト」
先ほどまで自分の隣で戦っていたアオも戦場の状況を確認したようで、自分の名前を鋭く呼ぶと、パチンと指を鳴らし、アルカナスキル【私達に距離はなく】の効果で、自分はシャロの左隣に出現する。
「おっし、行くぞ、モト、右からだ」
「応」
引き打ちに徹していたシャロが、弓矢を放り捨てて、スキル【武具生成】で手投げナイフを両手に一本ずつ作り出すのを見ながら逆襲に出る。
特攻してくる亡者が、いきなり敵が増えたことに戸惑うように、僅かに動きを鈍らせた隙を付いて、シャロは手投げナイフを自分の対面の亡者に投げつけて一本は、顔面をもう一本は足を狙って投げ放つ。
シャロのアルカナスキル【進む限り】は、コンボ数に応じて自身のステータス全てに補正が掛かるスキルだ。ここまで10コンボ以上を重ねてきたことで、補正の掛かった投げナイフは弓矢と遜色ない勢いで放たれ、かろうじて顔面へのナイフを盾で防いだ亡者の片足を縫い付けるかのように亡者の太ももを貫いて動きを止める。
モトは、残ったもう一体の亡者に向かって大剣のように巨大にした「無形の刃」を振るい、強制的に盾で受け止めさせることで敵の体勢を崩す。その瞬間を狙っていたシャロが、新たに【武具生成】のスキルで生み出したナイフで、【進む限り】の恩恵を活かし、暗殺者のような俊敏な動きで横から襲い掛かり首を掻き切る。
それを横目で確認したモトは、最後に残った片足を負傷した亡者に向かって無造作に距離を詰めていく。何とか立ち上がった亡者が、盾で殴り掛かってくるのを素手で受け流すと、もう片方の手に持った剣で切り掛かろうと振り被る。その剣が降り下ろされようとした瞬間、小太刀程度に大きさを変えた「無形の刃」で先の先を制して、剣を握った亡者の手首を叩き落とし、流れるように首に【致命の一撃】を叩きこんで終わらせる。
「うひぃぃー、本当に寒気が走るような手並みだなぁー、全部モトに任しときゃ良かったか?」
「いや、コンビネーションで戦った方が楽だし———何より上手くできた時、嬉しいだろう?」
「ははっ、違いない、ナイスコンビネーション」
シャロが自分の言葉に嬉しそうに笑って拳を突き出してくるのに重ねるように拳をぶつけ合う。
「いやー、我が軍は圧倒的じゃないか」
その戦果を、何時の間にか隣に来ていたアオが誇るように笑う。
戦闘が終わったのを確認して彼女のアルカナスキル【私達に距離はなく】で飛んできたのだろう。
「そうだな、チームでの戦い方も安定してきたしな」
事実、薄暗い窪地に疎らにリポップする亡者たちが湧いた端から狩っていくことで、隊列などを組ませる前に各個撃破する力押しの作戦が嵌り、正味一時間ほどの間に効率よく狩ることができている。
それも最初、遠方からの攻撃に徹して全体のサポートに徹すると同時に、アオがピンチになった時の避難先となる役割を果たしながら、いざとなれば自身が主攻役となって至近距離での戦闘も単身で熟せるシャロの万能に近いゲームセンスがあってこそだ。
もし何かの手違いが発生しても即座に体制を立て直すことができるスキルを持ち、咄嗟の機転の効くアオがいれば多少の無茶も押し通せる。
「だね、いやー、私たちスクラムゲー相手に凄いんじゃない?」
「だな、今のところ理想的な進行なんじゃないか?」
少しばかりの無茶も押し通せる、現状戦力で行える最適の戦い方に近づけている実感を覚えているのは、自分だけではないようでアオとシャロも自信を覚えたように笑う。
「っと、次の敵がリホップしたな」
そんな一息ついていた所、窪地の中で一番薄暗い中心部の陰から黒い亡者が5体ほど這い出てくるのをシャロが【気配察知】で確認する。
「それじゃあ、片づけるか」
「あいよっ」
「ええっ、ぱぱっと終わらせましょう」
自分の言葉にシャロが地面に放り投げていた弓矢を拾い直し、アオが槍を掲げて魔法の準備をする。二人の遠距離からの援護を受けて自分が突撃して、隊列が乱れたところを切り崩す。
それだけで、アオの宣言通りぱぱっと新たにリホップした敵を殲滅することができた。
「ん………おーい、これ、もう終わったんじゃないかー」
すると、ドロップアイテムを拾っていたシャロの言葉の言う通り、何処か薄暗く、ジメジメとしていて、寒気のようなものを感じさせた窪地内の空気が変わり、先ほどまで流れていたダークで怪しげな雰囲気のBGMの音が小さくなっていくのが分かった。
どうやら小呪災が、小康状態となり祓うための場が整ったようだ。
「良い経験値の稼ぎ場だったんだけどなぁー………まぁ、今は少しでも多く間引くのが先決だし、パパっと浄化して次に行こうか」
「だな、今ならもう少し強い敵を相手にできるし、もっと良い稼ぎ場があるだろう」
「だね、LV10を超えてから明らかに経験値が渋くなってきてるし、多分システム的に適正レベルの敵と戦わないと経験値効率が悪いシステムなんだろうね」
熟練地稼ぎには、もってこいなのだが、シャロやアオは2レベル上がってLv11になった一方で、自分は1レベルも上がっていない辺り、アオの言う通りのシステムなのだろう。
そこら辺はマレビトである自分たちのレベルアップが、【適応】というユニークスキルに由来している設定に順守しているからかもしれない。
「それじゃあ……モト、浄化よろしくね」
「俺?」
「うん、だって一番LUKが高いでしょ」
「だな」
てっきり、またアオが浄化するだろうと思っていたのだけれど、二人が何を当たり前の事をと言うように言ってくるのに、それもそうかと納得する。
小呪災を浄化すると、アイテムがランダムでドロップするという仕様を考えれば、少しでもLUKが高い人間が行った方が良いのだろう。
実際にドラクロのLUKは、レベルアップの際、それまでの(戦闘)経験の評価に応じて上昇するという仕様であるため、単純な乱数計算よりも数値が直接的にドロップ品と連動しそうな気配がある。
幸いにも自分の戦闘評価は高いのか、自分のステータスの中で一番高いのはLUKの項目だ。
更に【無形の武器】の効果で、ALLステータスが+30である。それだけでも自分が浄化する理由になるだろう。
窪地の小呪災の中心部にだけ不自然に光が差し込むように光っている場所まで行き、モトは手を掲げる。
それじゃあ、やるぞと二人に確かめるように視線を送ると、二人はワクワクした様子で頷くのを確認して、モトは祝詞を唱える。
「祓い給え、清め給え、鎮め給え」
モトの言葉を何かのトリガーにしたように小呪災の領域内から光り輝く玉オーブのようなものが、幾つも浮かび上がり、それに伴い、何処からか厳かなBGMが奏でられ、期待を煽るように光を強めていく。
「あるべきモノを、あるべき場所に帰し給え」
二人の期待の視線に応えられるものが出てくれよと願いながら、何にも触れていない筈なのに、確かに目の前にある何かに触れているように感じる、何かが詰まったような淀みを押し出すように力を込めて、最後の祝詞を唱える。
その瞬間、それまで好き勝手に飛び回っていた光のオーブたちが、モトの足元へと集まっていき、何かを形作っていき―――「パァァァーン」というエフェクト音のようなものを響かせて実体化する。
モトの足元に実体化したのは、どうやら複数あるようだった。
それを手に取って一つずつ『鑑定』で、確かめてみる。
【空の守り人の籠手 防御力+10、魔法防御+10、STR+5、VIT+5、AGI+3】
【超越者の世界で裏切りを強いられた「空の守り人」が装備した銀の籠手。完璧に届かなかった天の守護者たちの武具は、その片鱗として万能の守りを誇る】
【空の守り人の服 防御力+7、魔法防御+8、VIT+5、AGI+6】
【「空の守り人」の軽装弓兵の服、銀糸を編み込んだ服。不完全を厭う破邪の守護を込められた武具は、完全では無いが故に装着者の無事を願う祈りが込められている】
【空の守り人の指輪 防御力+2、魔法防御+5、INT+5、MEN+5】
【「空の守り人」の指輪、超越者足らんと望む空の守り人に与えられた制約の銀指輪。その力は超越の頂を目指す者の証である】
「わぁー」
「おー」
その防具とアクセサリーは直ぐにモトの手から二人の少女の手に移り、お誂え向きの道具が少女たちの手に渡る。
さっそくシャロは上着を脱ぎ棄てて新しい服に着替えて初めて、アオは指輪を手袋の上からと、手袋を外して付けることを試し始めるのに苦笑しながら、自分も【鉄の籠手】を【空の守り人の籠手】に付け替える。
シャロの簡素な狩人の服だった装備が、皮のジャケットと胸当てが付いた弓兵の服装に代わり、彼女なりの拘りなのかシャツのボタンが外されて胸元が露わになるように着飾る。
「おー、凄い似合ってるよ、シャロ」
「だろう、どうよ」
アオの賞賛の言葉にシャロが満足そうに笑った後、自分にも話を振ってくる。
「んっ、眼福です。着こなしに拘りが感じられるな」
「あっはっはっはっは、そりゃ、セクシー担当だからな」
自分の言葉にニヤリと笑いながら飛びつくように肩を組んでくる相棒に苦笑する。
「うーん、でも、【空の守り人】っか————確か、龍に仕えた、翼を持った人間が『空の一族』だって話だったよね。聖教の教えじゃあ【空の一族】ってのは、龍をそそのかした竜大戦の引き金を引いた黒幕みたいに言われてたけど———この装備のテキストを見る限り、【空の守り人】ってのは、超越者の世界で裏切られた側っぽいっていうか、裏切ることを強いられた被害者って感じに読めるよね……」
そんな自分たちのやり取りを微笑ましそうに見ていたアオが結局、手袋の上から身に着けることにしたらしい、指輪を眺めながら考察することを楽しむように小首をかしげる。
「『空の一族』と【空の守り人】の関係性が気になるところだな。【空の守り人】ってのが、表記の通り『空の一族』に仕えた人間って意味なら、その陰謀に知らずに巻き込まれた悲哀を書いたテキストだって解釈すれば言い伝えの通りだが———【空の守り人】が人間ではなく『空の一族』の中の戦士職を表す呼称なら、色々と意味合いが変わってくるな」
「そうだな、そうなると『空の一族』の戦士は超越者に振り回された被害者だったってことになるし………そうじゃなくても『空の一族』の中にも派閥的なものがあって、悪いのは一部の連中だけで大半の『空の一族』は陰謀に巻き込まれた被害者だったのかもな」
そんなアオの考察に相槌を打つように、シャロと自分も気になっていた所を話し合うように同意する。
「そうよね、でも『空の一族』が裏切り者として排除された後に、【空の守り人】って似た名前の役職の何かを作った後発の組織って可能性も考えられない? いや、状況証拠だけで考えるなら、さっきの連中は羽なんて持ってなかったし、空も飛んでなかったから、シャロのいう『空の一族』に仕えた人間説ってのが一番有り得そうな気がするんだけど———でも、そこら辺は粛清や懲罰で羽を奪われた説とかも考えられるし」
「そうだな、でも、私も『空の一族』と何らかの関係はある気がするな。あいつら最初、何かの宗教儀式っぽく、輪になって座っていただろう。超越者とかって文言を見ても宗教的な何かと関係がある気がするんだよなぁ。だって、背中に羽がある人間って、そりゃ、どう考えても『天使』だろう。モトの言っていた通り『空の一族』の中でも派閥があって一枚岩じゃなかった説は、十分に検討に値する仮説なような気がするんだよなぁー」
「そうよね、でも、なんで、そんな奴らが、こんな所で出てくるのかしら。小呪災って呪災の小型版みたいな話だったけど……そもそも呪災って一体何なのか、そこから突き詰めていかないといけないわね。何にしても、私たちの知らない事実が、この世界には、まだまだ一杯あるってことよね。いやー、楽しくなってきたわー」
「だなぁー」
アオとシャロが顔を突き合わせてワクワクしたように笑うのに、本当にこういう世界観が複雑なゲームが好きな二人組だなぁーと、吊られたように笑ってしまう。けれど、残念ながら、そんなにゆっくり考察している状況でもないだろう。
「ほら、とりあえず本格的な考察は後にしろよ。今は、少しでも先に進んで破滅フラグをへし折るんだろう」
「おっと、そうだった、そうだった」
「そんじゃあ、もう、ひと踏ん張りするか」
放っておくと際限なく脱線するアオとシャロを引き戻して先に進む。
途中、昼食休憩でサンドイッチを食べた後、北側を目指して進んでいくのだった。




