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「深き森」探索1 「精霊の庭」

誤字脱字報告ありがとうございました。

 「起きなさい、もう朝よ」

 

 そんなカミラさんの威勢の良い声で、モトは目を覚ました。

 

 寝ぼけ目を擦りながら緩慢な動きでベッドから体を起こすと、まだ薄暗い部屋の入口にエルフ族らしい緑色のラフな服を着たカミラさんが立っていた。

 

 「おはよう、モト」

 

 「……おはようございます」

 

 「はい、おはよう。それじゃあモト、そこの寝坊助二人を起こしたら食堂に来てね、日が昇り切る前にはギルドを出発する予定だから」

 

 「……はい」

 

 そう答えると、カミラさんは満足そうに頷き「それじゃあ、くれぐれも二度寝なんかしないように」と念押しをして部屋を後にした。

 

 数秒の間、カミラさんが去って閉じられた扉をボーっと眺めていたが、暫く意識がしっかりと覚醒してきた。

 

 部屋の中は、まだ薄暗く。

 

 寝る前に閉じた木枠の窓の隙間から僅かに差し込む光だけで、何とか足元を確認できるくらいの明るさしかなかった。


 無意識の内に時計を探していたが、この世界に時計があるのか、どうかも分からない事を思い出す。

 

 自分の体内時計が狂っていなければ、おそらく今は4時~5時の間くらいだろう。

 

 寝坊助と呼ばれていた二人の方を確認してみると、モゾモゾと身動ぎしているのは確認できたが、起きているのか、起きていないのかは分からなかった。


 とにかく、窓を開けて部屋の中を明るくしなければと思い。


 ベッド脇に置いておいた靴を突っ掛けるようにして履くと、窓辺に向かって歩きながら足を靴の中に押し込んでいく。


 しっかりと靴を履き終えた頃、漸く窓際に辿り着き、木枠の窓を固定していた簡単な原理の閂を外して、窓を開け放つ。

 

 すると朝の時間帯の少し冷たい、澄んだ風が吹き込み。


 雄大に聳える山脈の向こう側から昇ろうとしている太陽の光で、ようやく白み始めた空が、黒、紺、青、橙、白といった朝焼けに彩られている光景が目に飛び込んできた。

 

 「……綺麗だ」

 

 朝焼けの下、薄ぼんやりとした闇の中に広がるノスタルジックな農村の景色は、どこか神秘的ですらあって、今更ながら自分は本当に違う世界にいるのだという実感を強く感じさせた。

 

 そんな朝焼けの景色を前にしていると、朝の少し冷たい清浄な空気感に身の引き締まるような思いと共に、今日も一日頑張ろうという力のようなものが湧いてくる。

 

 ……この世界が造り物の世界なのだとしても、この今感じた情動を揺さぶられる、感動だけは本物だと自然に思えた。

 

 その光景に暫し見入っていると。

 

 「……本当に、綺麗だな」

 

 何時の間にか起き出してきたらしいシャロが、無言で自分に寄り掛かるように傍らに立つと、先ほどまでの自分の感動に共感するように目を細めて小さく微笑んだ。

 

 「うん」

 

 同じ感動を共有できていると分かったから余計な言葉を介さず、ただ同意する。


 暫くの間、視界一杯に広がる麦の稲穂が風で揺れて、風車が回る景色を、ただ一緒に見惚れるように見詰めていた。

 

 「……さーて、そろそろアオを叩き起こすか、この景色を見せてやらないとな」

 

 「だな……でも、その前に下に何か履け」

 

 「ありゃ、お気に召さなかったか? サービスのつもりだったんだけどなぁ」

 

 シャロは、下着の上にダボッとしたシャツを着ただけの恰好で悪戯に笑う。

 

 「……寝苦しくて脱いで、そのままだっただけだろ」

 

 基本的にはTシャツ一枚だけで寝ている事は、長い付き合いで知っているのだ。

 

 「あははは、正解、でも嬉しいだろう?」

 

 「眼福です」

 

 「うむ、素直でよろしい」

 

 シャロは、ご褒美だと言わんばかりにヒップを強調するようなポーズを披露してウインクを一つすると、アオを起こしに行く。

 

 掌の上で転がされているなぁ、と苦笑しつつ。

 

 ドラクロ世界の2日目の朝は始まった。

 

 

 

 ――――――

 ―――――――――――

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 少しばかり寝苦しい硬いベッドで一番を過ごすことになったが、そこはゲーム内の身体だ。変に寝違えて身体が強張ることもなく、昨日の疲れも全く残っていない。―――なんならゲーム世界の今日は、学校に行かなくていいためメンタルまで好調である。

 

 そのため、ギルドの食事や掃除などをしてくれている老夫婦であるテパさんとユバさんが、朝早くから用意してくれていた多めの朝食を3人とも遠慮なく頂く、と。

 

 「気を付けるんだよ」というテパさんたちに見送られて、日が昇り切る前に出発し、日が昇ると同時に「深き森」に踏み入った。

 

 最初の目的地は、探索の拠点となる「精霊の庭」と呼ばれる場所だ。

 

 「精霊の庭」とは、言ってしまえばフィールド内にあるセーフポイント(安全圏)のような場所らしい。

 

 精霊の影響力が強く、魔物が好き好んで近づかない場所で、魔物に追い掛けられながらセーフティポイントに逃げ込んだりしなければ、まず魔物が自主的に寄ってくることはない、安全な場所なようだ。

 

 逆を言えば、その場所自体が魔物を排除してくれるような効果はなく、そこにさえ逃げ込めば絶対に安全という訳ではない。あくまで夜営地にするのに向いているくらいの場所らしい。

 

 「深き森」の中だけで、3カ所ほどある「精霊の庭」の中でも一番村から近い場所でも、昨日より少しばかり森の奥に踏み入った場所にあるという。


 フランクさんの案内に従って、そこを目指している道中、何度か魔物に襲われることもあったが、フランクさんたちが梅雨払い役を買って出てくれたため、自分たちは本当に付いていくだけだった。

 

 ……だが、それもVRゲームの醍醐味の一つだろう。

 

 VRゲームという特性上、自分がゲーム世界の当事者の一人になれることがVRゲームの良さだが、同時に悪い所でもある。VRゲーム・プレイヤーの全てが、厳しく、激しい、限界に挑戦するような戦いを自身でやりたいと思う訳ではない。


 物語の楽しみ方において、主人公に感情移入の仕方一つにおいても、自分が主人公の立ち場になって感情移入する人もいれば、主人公を応援する立場で感情移入する人がいるように、VRゲーム・プレイヤーの中にも協力者の立場でゲームをしたいと思うプレイヤーが一定数以上いるのだ。


 だから、ドラクロのようなストーリーのあるゲームの中には、主人公がプレイヤーではなくゲーム側のメインキャラの一人が担っていて、プレイヤーはその仲間・サポーターであるというロールを用意して進めていくゲームも多く存在する。


 実際にアオなんかは、そのタイプでストーリーの主役になるより、ストーリーの一端を担う協力者的な立場で、物語を俯瞰できる立場から応援することを好んでいる。


 自分やシャロなんかは、どちらかと言えば自分が主役になって派手に暴れることの方が好きなタイプだが、ゲーム内のキャラクターの帯同者としてプレイすることも嫌いではない。


 プレイヤーだけでプレイするよりも、その世界の一員になれたような気がするし、何より純粋にその世界の中にある息遣いのようなものを感じられる気がするからだ。それ以外にも、自分たちではできない洗練された戦闘を堪能できるというのも楽しみの一つだ。

 

 実際、フランクさんたちの戦闘している姿は、初めてみたが、レベルが高いだけあって安定したものだった。


 BGMに異音が混じった時点で、カミラさんが魔法の詠唱を始め、フランクさんが気配察知で魔物の居場所を先んじて発見し、強力な魔法による先制攻撃で一掃する。


 カミラさんは、場所が森の中だということで得意の炎魔法ではなく、風魔法を使っていたが、風の刃を連続で3つ飛ばす魔法は効果範囲も広く、その魔法だけで5体の魔物を一掃するほどの威力があった。


 そして、うち漏らした魔物もフランクさんが危なげなく手に持ったロングソードの【強攻撃】で容易く始末するのだ。


 アオが習得するためにスキルポイントを溜めている最中で、今の自分たちには使用できない「魔法」などのスキルを駆使しながらも、まだまだ余力を残していると分かる二人の戦闘は十分な見応えがあった。

 

 ゲームのイベント戦闘を目の前で見ている気分だと言えば、VRゲームをしたことがない人でも自分たちの気持ちを分かってくれるだろう。

 

 そんな、こんなで2時間ほど歩いた所で、目的の村から一番近い「精霊の庭」に辿り着いたのだった。

 


 ―――――――

 ―――――――――――――

 

 

 大自然への畏れを表現した「深き森」の神秘的なフィールドBGMが、聖域内の安心感を表現したような神秘的なBGMへと変わる。

 

 魔物を狩る冒険者や騎士のほかには、村の狩人くらいしか訪れない、人の手などほとんど入っていない場所である筈なのに、そこは誰かに手入れされた庭のように整えられていた。

 

 西洋風の庭園のように左右対称に整えられている訳ではなく、日本庭園のように侘寂わびさびを感じさせる訳でもない。

 

 ただ、そこに自然とあるべきもの全てが、品よく整えられたような場所だった

 

 まるで、その場所を隠すように聳え立っている、周囲の木々よりも二回り以上は大きい巨木に囲まれた。その場所の中心には透き通るように綺麗な池があり、そこから周囲50mくらいは天然の芝生のように整えられており、色とりどりの花々が疎らに咲いている。

 

 これまで鬱蒼とした薄暗い森の中を、足元の藪や雑草を踏み分けながら進んできたからこそ―――その場所だけが光が差し込んでいるかのように明るく、視界が開けた解放感もあって―――自然に作られた場所なのに、誰の手も入っていないとは思えないほど美しい場所だった。

 

 「わぁー」

 

 「……綺麗でしょう、精霊が特別に愛し、守り育んだ場所。だからこそ、先人たちは此処を『精霊の庭』って呼んだそうよ」

 

 「ああ、それに、ここにあるものは、全て、ほかの場所のものより特別な効果があってな。ここに訪れた人間は、何か一つまでなら持ち出していいが、それ以上に欲を掻くと精霊の怒りに触れるって言われてるな。……まぁ、教訓を伝えるための迷信の類なんだが、下手に欲を掻いて、貴重な安全圏が失われちゃあ困るのは本当だ。

 お前達も一つだけ何てケチ臭いことは言わないが、此処から持ち出すのは環境を崩さない範囲だけにしておけよ。コイツを破ると精霊の怒りを受けるより先に、同業連中に粛清されるからな」

 

 その光景に見惚れていた自分たちに、カミラさんとフランクさんは、そう説明してくれた。

 

 粛清という強い言葉を使ったという事は、冒険者らの間では、マナーや暗黙の了解以上に明確に定められたルールなのだろう。

 

 「そりゃ、こわい」

 

 「はい、気を付けます」

 

 そうでなくとも、こんなに綺麗な場所を壊す気などなかったため、シャロとアオが素直に了承するのに合わせて、頷いておく。

 

 「よろしい、そんじゃあ、さっそく今日の仕事の話といこうか」

 

 フランクさんは、そう言うと芝生の上に腰を下ろす。

 

 自分たちも、それに合わせて温かい芝生の上に座ると、フランクさんは腰に括りつけていた羊皮紙の地図を芝生の上に広げた。

 

 それは、道中も確認するのに使っていた、この『深き森』の詳細な地図だった。

 

 「今、俺達がいるのは、ここだ。ここからは事前に話していた通り二手に分かれる。俺とカミラは、此処から森の奥側に向かって森狩りをしていくから、モトたちは、此処から森の入り口側を掃除していってくれ。……そうだな、まずは北側に向かって進んでみてくれ。北側の森の外は、畑区間だから今なら騎士や自警団の連中が森との境界で警備している筈だ、そこまで逃げれば助けて貰えるからな」


 「ええ、それ以外でも何かあった場合、この『精霊の庭』まで無理に戻ってこなくていいから、森の外に出てギルドマスターに指示を仰いで頂戴。まずは、自分の身の安全を第一にね」

 

 「ああ、まずは生き残ることを第一に考えろ。逆を言えば、ここで別れちまったら、夜もう一度此処で合流できない限り、お互いに助け合うことはないと理解しとけよ。俺達も夜、お前達が此処に帰ってこなかったなら、何かあって村に戻っているのだと信じて5日目までは森狩りを続ける。

 逆を言えば、もし俺達が夜になっても帰ってこなかったからと言って森の奥には来るな。俺たちのことを助けようなんて思わなくていい。俺たちの場合はその時の判断で、森の中で夜営することもあるし、奥側にある別の『精霊の庭』に退避している可能性もあるからな。

 だから、もし俺達が夜になっても帰ってこなかったら、次の日の日の出を待って村まで退くんだ。いいな?」


 「「「はい」」」

 

 フランクさんとカミラさんが、先達の冒険者として自分たちの安全に気を配った指示を出してくれることを、ありがたく思いながら頷く。

 

 「よし、それじゃあ、この地図とコンパスはアオに渡して置く。俺達には自前の地図があるからな。そうだ、位置の把握の仕方は分かっているな? 地図の上にコンパスを乗せれば、精霊たちが自分の居場所を、こんな風に光点で示してくれるからな。―――どっちも失くさないように気を付けろよ」

 

 「はい」

 

 フランクさんから地図とコンパスを受け取ったアオが、少し嬉しそうにしながらも生真面目に頷く。

 

 「よし、それじゃあ、さっそく行くか。―――人手に余裕があったら、先に夜営準備をしてから出るんだが、無人で荷物を置いとくと野生のシカやイノシシあたりに玩具にされて持ってかれるかもしれないからな―――とりあえず、日が暮れるまでには、此処に戻ってくるように、そっから夜営の準備をするからな」

 

 「ええ、その前にそこの池で水を補給していきましょう。あそこの湧き水は、そのまま飲めるし、美味しいし、力が湧き上がる水だって言われているのよ」

 

 「へぇー、そうなんですか」

 

 「おー、湧き水を汲むってだけで、何かテンションが上がるんだよなぁー」

 

 カミラさんの言葉に目を輝かせるアオとシャロの姿に、飲める水ならば何でも良いと思っているモトは、テンションに乗り遅れてしまったのを感じながら、二人が楽しそうならば良いかと思うのだった。

tips

・【魔石のコンパス】

 コンパスの底に魔石が仕込まれ、底には「我の居場所を教えよ」、と精霊に呼び掛けるための魔導文字が刻まれている。


・【精霊の庭の湧き水】

 人に活力を与える清らかな水、水を飲むとHPとMPが小回復し、暫くの間VIT+5%の補正。

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