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チュートリアル7

 いきなり村で一番偉い人と面談することになるなどの波乱もあったが、ドラクロの世界での長い一日を終えて、最初に目覚めた部屋に戻ってきた。

 

 「いやっほー」

 

 「ひゃっほー」

 

 アオとシャロが一目散にそれぞれのベッドに飛び込んでいくのを微笑ましく見ながら、手に持っていたランタンを入口脇のフックに欠けるようにして吊り下げる。

 

 「いやー、美味しかったねぇー、ミートボール・スパゲッティ」

 

 「だなぁ、無課金で出てくる料理だとは思えない、味だったなー」

 

 二人が夕食に出た、ハンバーグぐらいの大きさの巨大なミートボールがゴロゴロと乗った食べ応え抜群のスパゲッティの感想を満足そうに語り合うのを聞きながら、ふと何気なく部屋を見渡す。

 

 開け放たれた大きな窓から差し込む月光とランタンの光だけで照らされた、四隅にベッドが置かれただけの簡素な部屋は、本当に寝るためだけの部屋なのだという印象を強く抱かせた。


 そして事実、この部屋は本当に寝るためだけの部屋なのだろう。


 この部屋は、動乱期や復興期に押し寄せる冒険者などを手数料程度の値段で、寝泊まりさせる部屋なのだという。


 特定の拠点などを持たず「大呪災」や「呪災」の発生現場を飛び回る冒険者には、貴重な宿泊施設となっているようだが、何とも物寂しい。

 

 場所によっては、もっと高級な宿のような部屋を併設しているギルドもあるらしいが、大半のギルドの宿泊施設はこんなものらしい。


 ……それが、何となく、この世界の冒険者という人種の本質を表しているような気がした。


 それは、現代風に言うならブラック企業だと噂される会社内に置かれた自販機でエナドリ系の飲み物だけが軒並み売り切れになっているのを見て……「あっ」(察し)ってなる感覚に少し近かった。


 この世界の冒険者には、世界を襲う災禍の最前線で戦い続ける勇士であるという輝かしい一面とは別に、一種の世捨て人のような一面が確かにある気がするのだ。

 

 冒険者以外の一般職員サポートスタッフなども利用する風呂場には装飾などが施され人の憩いの場にしようという配慮があったのに、冒険者だけが寝泊まりする宿泊施設には必要最低限のものもないのが、その証左だ。

 

 おそらく、この待遇は冒険者の立場が低いからではなく、冒険者の側にそうしたものを求める余裕がないからなのだろう。

 

 (―――いつか、誰かが、俺達の悪足掻きに意味があったのだと証明してくれるように、いつか今とは違う世界を見るために必死に戦うから俺達は〝冒険者〟なんだ)

 

 (――――安心した、お前にはちゃんと大事な人がいるんだな)

 

 そう言っていたフランクさんの何か大切なものを失った人間だけが持つ、何か心に穴が空いているような虚無感にも似た独特の空気感だけで、何となく分かってしまうのだ。


 ………ああ、同じ穴の貉なのだ、と。


 言ってしまえば彼らは、家の両親と同じ人種の類の人間なのだ。


 ただ、自分の為に、誰かの為に、世界の為に、そう生きるしかなかっただけの〝普通の人〟なのだ。


 彼らの行いは一面で尊く、誰にも否定できるものではない。


 けれど、それは何かを捨てて、何かを犠牲にしなければできない生き方だ。


 宣教師が、己の信仰に殉じて異国の地で己の生涯を閉じることを覚悟するように。


 活動家が、死人が出る可能性があると承知で治安部隊に火炎瓶を投げつけたように。


 一方の見方によっては、正気じゃないとも見える、一線を越えた人間たちなのだ。


 そんな人間たちと生まれた時から付き合っているからこそ分かる。


 彼らには、それが〝必然〟の選択だったのだ、と。

 

 それが〝必然〟になる理由は、生い立ちか、環境か、集団心理か、理由はさまざまあるが、フランクさんの場合は全てが原因だろう。

 

 故郷も、家族も、全て失い、「呪い」に対する恨みの念だけが生きる原動力で、せめて死ぬ前に一発、力の限りやり返してやらないと死にきれない。


 そんな復讐者たちの拠り所となる「冒険者」という組織が、醸成した環境、集団心理が、「呪災」と戦うためだけに生きる人間を効率的に生み出し、強く育んだのだろう。


 ―――「人類のため」という〝大義の名〟の名の下に。

 

 ………もし自分が本当にこの世界に生まれていたとしたら、そんな生き方ができただろうか。

 

 きっと、できるだろうし、できないだろう。

 

 そんな、生き方が必然として生まれたのならば当たり前のように自分はそう生きているだろう、今の自分の人生のように……。けど、一方でそんな生き方に心酔も陶酔もできないで、もっといい生き方が、いい方法があるのでは、そんな事を考えながら中途半端に生きていただろう。

 

 だから、ゲームの中の世界だとは言え、本当にフランクさんとカミラさんには幸せになってもらいたいのだ。

 

 彼らは冒険者の生き方を、使命を放り出したのかもしれない。

 

 けど、それは生半可な覚悟でできる事ではないと自分は知っている。

 

 落ちる事も、流れに身を任せる事も、諦める事も、簡単だ。

 

 それが復讐でも、世界の為だろうと、理由があって、その気になれば人は簡単に〝普通〟を〝当たり前の幸せ〟を捨てられる。

 

 けれど、一度捨ててしまった〝普通〟を〝当たり前の幸せ〟をもう一度拾い直すのは本当に難しいことなのだ。

 

 諦めてしまった幸せを拾い直せる、その自由でタフな生き様が、自分には酷く眩しく映る。


 必要のないものを何も持たない人生はシンプルだけれど、味気ない。

 

 フランクさんとカミラさんのこれからの人生は、これまで色々なものを捨ててきた分だけ、色々な大切なもので溢れて、彩られるものであって欲しいと、そう思うのだ。

 

 「……どうしたの、モト?」

 

 「疲れたのか? 今日は、もうここらで抜けるか?」

 

 「いや、何でもない……ただ、もう少し飾り気があってもいいのになと思ってさ」

 

 部屋の入口に立ったままボーっと遠い目をしていた自分を不審に思ったらしい、アオとシャロが心配そうに尋ねてくるのに苦笑しながら答えて、近くの空いたベッドに座り直す。

 

 「確かに、この部屋はちょっと殺風景過ぎるよね」

 

 「まぁ、今は本来、冒険者が来ない時期だからってのもあるんじゃないか?」

 

 「それもあるかも、でも私は、どっちかって言うと、この世界の冒険者の立ち位置が不安定だからなんじゃないかって思うんだ」

 

 「不安定だから?」

 

 どうやらアオは、冒険者に対して自分とは少し違う認識を持っているようだ。

 

 「うん、実際の冒険者がどういう存在なのかは知らないけど、多分、大呪災の最前線に立っているような人間は、フランクさんみたいに本気で人類のために戦うような人種なんだと思う。けど、そこから一歩引いた大呪災が終わった後の動乱期の国で戦っているような冒険者はまた違う人種なんじゃないかと思う。

 いや、実際の所は、どうか分からないんだけど、少なくとも夕食前に出会った男爵さんたち騎士や、この世界に住む普通の村人たちが、冒険者に対して抱いているイメージって良い者だけじゃないんだと思うんだよね」

 

 「そうか? まぁ、確かに妙な問題を起こすような輩なのか、値踏みされているなとは思ったが、それは私達がマレビトだからだろう? 冒険者に対してどうこうって含むものはあんまり感じなかったけどな」

 

 どうやらシャロも自分と同じ考えだったようだ。おそらく、呪災前に妙な騒動を起こさないかを警戒してきたのだろう。

 

 自分たちは半ば望んで、この世界に来たようなものだから冷静さを保っていられるが―――もし本当に記憶喪失で違う世界に放り出されて我を見失った人間がいて、どんな未知の知識を持っているのか分からないとなれば、自分の目で確かめたくなるのも当然だ。

 

 「そうかな、私は全然逆の印象を受けたけどなぁー。―――だって本当に信用されているなら同じ村の顔役の一人である筈のギルドマスターからの報告だけで納得するでしょう? ギルドマスターの報告だけじゃ信用できないから、わざわざ忙しくなる前に、村中の顔役を集めて面通しをさせた訳で、だから冒険者への信用の度合いもお察しって感じなのかなって」

 

 「……あー、なるほど」


 「確かに男爵は特別、自分の目で確かめないと気がすまないタイプって感じでもなかったからな」

 

 そのアオの指摘に言われてみれば、その通りだ。顔役として紹介された面々の仲は良好そうだったのにも関わらず、ギルドマスターからの報告だけでは不安を拭い切れていなかったのは、少なくとも顔役の面々の仲では一段信用の度合いが低いからだというのは納得できる話だった。

 

 「でしょ、だから、考えてみたんだ。この世界の人たちにとって冒険者って、どういう人達なのかなって―――。定期的に大呪災っていう災禍が襲い来る世界じゃ、復興のために、防衛のために人手は幾らあっても足りない―――。そんな中、問題の根本的な解決のために元凶となる大呪災と戦い続ける冒険者っていうのは、敬意を払うべき存在であると同時に、目の前の故郷や家族を捨てて出て行った人間たちでもあるんだろうなって。

 だから、地に足を付けて必死に何度も村の復興を支えながら生きてきた人たちからしたら、そこから逃げ出した人たちって認識もあると思うんだ―――まともに生きることを放り出したキレた連中だってね―――そんな人間に対して普通の人が抱くのは憧れか、恐れのどっちかだって相場が決まっている」

 

 「あー、確かに、そう言われると顔役の人たちがギルドマスターに向けていた感情は、その二つだったって感じはあるな」

 

 「だなぁー、確かにその話を聞いた後なら納得できるわ。信頼はできても、信用はできない―――少なくとも普通の人間である自分たちとは感性が違ってるんだろうから―――自分たちの目で確かめておきたいって思うのが、地に足を付けた人間側の意見だろうな」

 

 アオの言わんとしている事を理解して、今まで微妙にあった違和感の原因が分かったような気がした。

 

 「でしょ、多分、それにはギルドマスターの人柄の問題だけじゃなくて、冒険者側の人間性の問題もあると思うんだ。きっと冒険者の中には、本気で大呪災と戦おうっていう熱意のあるグループと、本当に全てを放り出した冷めたグループみたいなのがあって、それが冒険者への評価を厳しくしている一面があるんだと思う。カミラさんも冒険者の中には碌でもない奴もいるっていってたし。

 ……そして、本当に全てを放り出した捨て鉢になった人間は何をするか分からない。だから冒険者の部屋に金目のものになりそうな装飾とか、飾り気がないのは、せめてもの慰みで設置しても、盗んで売っぱらって一晩の酒代にしちゃうような人がいるからなんじゃないかと思うんだ。中世の宿屋とかが質素だったのも同じような理由だって聞いたことがあるし」

 

 「なるほどなぁー」

 

 「流石はボス、顔役たちの狙いの裏側の理由まで思いを巡らせるとは」

 

 「でしょう」

 

 「ああ、流石は我らのボスだ」

 

 シャロに褒められてアオが得意げで胸を張るのが、可愛らしくて思わず笑ってしまう。

 

 まぁ、村の顔役たちが集まった理由は、ただの考え過ぎである可能性も十分にあるが、この世界の人たちの冒険者への印象という考察は的を得ているように思えた。

 

 「でも、そうなると、冒険者を続けるなら仲良くする相手には気を付けろってことか」

 

 「だねぇ、この世界はNPCともパーティーを組める自由度が一つの売り出し、できるって事は逆を言えば、できないと苦労するってことだろうしね。善良そうな顔をしておいて裏で悪どい事してる奴とか絶対いるんだろうなぁ、スクラムゲーだし。まぁ、幸い私達はアイテムボックスがあるし、盗みの心配はないし―――って、ああ、そうだ、モト、モト」

 

 「何だ、どうしたんだ?」

 

 いきなり何かを思い出したように自分の名前を連呼するアオに、驚きながら尋ねる。

 

 「いや、さっきお風呂から上がって着替えの出し入れをした時に気付いたんだけど、何かこのアイテムボックスって共有スペース以外に個人スペースもあるみたいなのよ。私とシャロの個人スペースには何も無かったんだけど、モトの所にだけ何か『???』ってアイテムが入ってるの。―――何が入ってるのか、出してみてよ」

 

 アオは、そう捲し立てるように言ってアイテムボックスと繋がっているウエストポーチを渡してくる。

 

 「へぇー、モトだけってことは、最後に会ったっていう、金髪の女の子のフラグ関係か?」

 

 「何にしても、きっと重要なものだよ」

 

 二人が目を輝かせながら自分を挟むようにベッドの両脇に座って来る勢いに押されながら、ポーチを開け放つ。

 

 すると、ほぼ、同時に眼前に空中ディスプレイが浮かび上がり、アイテム欄が表示される。

 

 アイテム欄を確認すると確かに、共有スペースのほかにアオ、シャロ、モトという個人用のスペースがあるのが確認できた。

 

 ……うん、とりあえず、アオには個々人の装備品を共有スペースに放り込むのはともかく、女性下着などの着替え類を共有スペースに放り込んでおくのは止めるよう指導しておこう。

 

 「何だ、何か気になるものでもあったか?」

 

 「お前の仕業か」

 

 「どうしたの?」

 

 「何でもない」


 「あははは、そうそう、何でもない、何でもない、アイテ」

 

 ニヤニヤと笑いながら尋ねてくるシャロにデコピンの制裁を与えると、自分のスペースから『???』を選択するように意識しながらポーチの中に手を突っ込む。

 

 突っ込んでから中に何が入っているのか、分からない事に少しの恐怖感を抱きながら、中身の感触を確かめるように指先を伸ばすと、何か硬い感触が手に触れた。

 

 それを触っても怪我をしないことを確かめるように触れていき、途中で馴染みのあるものである握りであることに気付いて、それを握り締めて取り出す。

 

 「……日本刀?」

 

 それはアオが言うように、鞘に納められた一振りの日本刀のようだった。

 

 何故、日本刀なのかと一瞬、疑問に思ったが、この世界で自分が手に入れた日本刀など一つしかない。それを確かめるように鑑定を掛ける。

 

 【無形の武器 担い手が最も求める形で現れる武器】


 【それは己の全てを捨ててでも力を求めた、在りし日の英雄の意思を継承した武器】


 【攻撃力+50 ALLステータス+30】

 

 【特殊アビリティ 装備主の意思に応えて武器の形を変えることができる(武器レベルに依存)】

 

 「強っ!!?」

 

 「これって、黒騎士を倒した時のドロップアイテムよね? やった、この武器を育ててくだけで終盤まで通用するんじゃない!?」

 

 同じように武器を鑑定したらしい、シャロとアオが興奮したように言う。

 

 「ああ、だと思う」

 

 「おおー、いやぁー、思ってたのとは違ったけど、これはこれで大当たりだなー。あれかチュートリアルをクリアしたら引き継ぎアイテムが手元に戻ってくるみたいな、そういうアレか?」

 

 「そうかも、でも、在りし日の英雄の武器ってことは……あの黒騎士、ただのイベントボスじゃなくて、何かストーリーに絡んでくるのかも。――ねっ、ねっ、モト、黒騎士から悪魔騎士に変わったっていってたけど、戦い方とか、何かほかに気付いたことない、何か喋ったとか、改めて詳しく教えてよ」

 

 「あっ、ああ」

 

 自分以上にテンションが上がっている二人の質問に応えている内にドラクロの世界の一日目は過ぎてゆく。


 ドラクロ世界内の時間は、未成年である自分たちの場合、現実世界の6分の1だからドラクロ世界内で後二日は過ごすことができるが、新武器も手に入ったし、試しきれていないスキルも試してみたくて―――明日が少しだけ待ち遠しかった。

Tips

 VR空間内の時間加速を用いた現実世界との相対時間は、成人は12分の1まで設定することができるが、18歳以下は6分の1、14歳以下は4分の1、10歳以下は2分の1が上限となっている。そのため、VRネイティブ世代の子供たちは、昔の時代の同年代の子供より少し大人びている傾向にあることが、研究で確認されている。

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